お誘い
「よう」
「来たわね。妖怪冷やかし男」
「なんだその名前」
「だってあなた本当に本買ってかないんだもの。ここ来るの何度目よ?」
民宿「しろすな」…ではなく、その近くの本屋。
その中に2人の人影。
片方はこの本屋のカウンター内、一応現在の店番の稜子。
もう一方は天下無敵のイケメンこと明人である。
いつものようにフラっと明人が立ち寄り、仕方ない感じで稜子が相手してる風である。
まあ口でこんなこと言ってるが別に明人が嫌いなわけではない。
嫌いだったらそもそも腐れ縁で小学生時代から付き合い続けるはずもない。
「で、今日は何よ。また駄弁りに来ただけ?」
「あーいや、それもあるんだが」
「他に何かあるわけ?」
「学園祭。呼ぼうと思って」
「あー…あんたのとこもそろそろ時期なんだ」
学園祭。
高校行事の一角である。
そろそろ時期なのだろう。
「ああ。ただ俺当日暇なんだよ」
「なんでよ?なんかあるでしょ役回り、こうなんか」
「俺のとこ映画なんだけど、主役で映像取らされたから当日はいいってさ」
「ふーん…だから回る相手が欲しいって?学校に友達いないわけ?」
「いやいるけど、あいつらは当日仕事あるから常に一緒に回れるわけじゃ無いから…」
「どうせ、呼ばなくても周りにいっぱい女来るからいいじゃない」
「望んでねえよ!それを防止する意味もあるんだよ!」
なお現在の高校生活ではそういうのは多少落ち着いている。
相変わらず告白とかはされてるようだが。
「…いつよ?」
「今週の土曜」
「無理」
「早っ!?もうちょっと考えてくれても…」
「ああ、ごめん。別に行きたくないわけじゃ無いわ。むしろあんたが主役の映画とか気になるしね」
「じゃあなんでだ?」
「分かってないわね。あんたが学園祭やるってことは私たちだって近いのよ。その日私学校来いって言われてるわ。準備のために」
「ああ…そういうことか」
「だから悪いわね、私は行けないわ。同じ理由で多分啓介も無理ね」
「そっか…まあそれなら仕方ないな。すまん、無理言った」
「で、どうすんの?」
「ん、渚を誘ってみてそれからだな」
「そう、まああの子は大丈夫な気がするけど…暇なことを祈りなさい」
まあお客がいたとしても昼間はフリータイムなことが多いので恐らくは大丈夫だが。
「だけど、あんた気をつけなさいよ」
「何がだ?」
「この前みたいなこと!今度は周りの目もあるんだから、あんまり注目浴び過ぎないようにしなさいよ。学校で手をつないだりしてたら目立つわよ」
「分かってるって…」
まあ普通に手をつないでる男女くらいなら大丈夫かもしれないが、なまじ渚も明人も美形であるので、まあ目立つ。
相乗効果でパワーは数倍である。
「しっかし来てくれるかな」
「なんでよ、今更でしょ。何度も遊んでるじゃない」
「いや誘うつもりではもともといたけどさ」
「いつになく弱気ね?何よ?」
「わざわざ俺1人のために学校来るもんかなって…」
「大丈夫じゃないの?あの子楽しそうなことに引き寄せられてくから」
「まあ誘ってみてから考えてみるか」
「そうしなさいよ。なんなら私も後であんたのとこの文化祭どんなだったか聞きたいし、渚には是非とも行ってもらわないとね」
「えー…それは何を聞くつもりだ?」
「あんたの映画がどんな内容かに決まってるでしょ?」
「やめろ」
「猶更聞きたくなったわ」
「悪意しか感じねえんだがっ」
「そうでもないわよ。興味と悪意が半分ずつぐらいよ」
「悪意が結構多いっ!」
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夜。
民宿「しろすな」1階。
お客がいようがいまいが、夕食後の時間帯はロビーのソファーにいることの多い渚。
やることが特になければお風呂の時間までここにいたりもする。
そんな時スマホから通知が鳴った。
『おっす今いいか渚』
明人から連絡である。
特に何をしているわけでもなかったのでそれに返信する渚。
『大丈夫だよ。どうしたの?』
『今度の土曜日文化祭やるんだけど、来る?』
『うん、行ってもいいなら行きたい!』
割と即答気味である。
まあ、今のところは暇なので。
『お、そりゃ良かった。回る相手がいなくて困ってたんだ。1日暇でさ』
『お仕事あるんじゃないの?大丈夫?』
『俺は当日の仕事免除されてるんだ。だから1日回る予定だったんだけど、学校の友達はシフトあるからさ。1人でどうしようかなと思ってたんだ』
『稜子ちゃんは来ないの?』
まあ当然こういう話になれば彼女の存在が頭に浮かぶ。
明らかに親しい仲に見えるので。
『稜子は予定があって無理だってさ。向こうも文化祭の準備で忙しいみたいだ』
そういえば時期って被ってたなと自分の高校時代を思い出す渚。
『そうなんだ、残念』
『また後で最寄りと地図は送る。入場できるのは9時30からで、終わりは3時。また来れる時間分かったら連絡してくれ』
『分かった。時間は分かったらまた連絡するね。誘ってくれてありがとう!楽しみにしてるね!』
『ああ。突然すまなかった。ありがとう』
そこでメッセージが止まった。
「文化祭かぁ…」
ある意味もう縁なしだと思っていた文化祭だが、思わぬところで縁ができるものであった。




