直行
「…今日は快晴だな。流石にもう過ぎたみたいだな。台風」
台風直撃の次の日。
嘘のように快晴であった。
まあ台風の後はだいたい晴れるのが世の常なので当然ではある。
幸い停電に関しては復旧したようで、もう発電機は使っていない。
ようやく電気問題解決である。
まあ停電中も深夜帯にパソコンやってた気がするが。
「さーて時間的にそろそろお帰りかね。降りるか」
泊まる時間が1日長引いたお客であったが、流石にもう引き留める理由も無いので多分今日こそ帰るのだろう。
流石に理由もなく連泊するにはお財布の負担が重そうであるので。
ということで下に降りるために自室の外へと出る咲希。
そのまま廊下を横切りリビングにたどり着いて足が止まった。
「…」
「お、咲希ーたのもー」
「いやそれここで言うセリフじゃなくないか」
「いやー今日、入る時に咲希呼ぼうかなって思ったんだよ?ただなんか入ったら隣のソファーに渚ちゃんと見知らぬ少年いるじゃん?お客さんでしょ?」
「そうだけど」
「だから大声上げると迷惑かなって思ってさ」
「はぁ」
「そのまま階段を上がって来たよね」
「せめて一言なんか言うか連絡くれよ…」
リビングに行ってみれば何故かそこに待機していたのは美船であった。
何故かソファーに座ってそのままテレビつけていた。
なんなら映画見ている。
完全に住民感出しているが、間違いなく外部の人間ではある。
結構普通に不法侵入感強い。
「というか無言で上がって来るにしても、私の部屋をノックして来たよって言えば済む話だろ?」
「あ。その手があったか」
「いや気づけよ」
「咲希ならいいかなって」
「よくねえ」
咲希も別に美船が嫌いなわけではない。
好意的に接される分、むしろ好きな部類ではある。
が、流石に横暴が過ぎるのでそこだけは何とかしていただきたいものである。
無理そうだが。
「でぇ、今日なんで来たわけ?」
「え?…暇だったから?」
「いや休憩場所じゃないからなここ」
「宿だから休憩場所では?」
「金払うならな」
「まーまーいいじゃんそれくらい」
「よくはない」
一応財源ここなので、これなくなると多分死ぬ。
「いやー私もさ咲希とか渚ちゃんと一緒でこの前帰って来たばっかじゃん?とりあえず実家いるけど狭いんだよねえあそこ。元々私の部屋だった場所もう使われてるから居場所がないってもんよ。普段とりあえず兄貴の部屋いるけど」
「だからって何故うちに来る」
「ここ広いし色々あるしなんか落ち着くんだよねえ」
昔も交流関係があったようなので、その時は来ていたりしたのかもしれない。
「まー…いる分にはいいけどさ。荒らすなよ」
「荒らさないからっ!ちょ、酷くない?そこまで無茶苦茶しないよあたし!」
「いや…勝手に人の家でテレビ見ながらその言い分は無茶だろ…」
なんならテレビどころか映画つけてる。
くつろぎ方が他人の家のそれではない。
「まあまあ、暴れたりはしないから大丈夫だって。その辺はいい子ちゃんだから」
「信用って知ってる?」
「咲希も一緒に映画見よ?」
「話聞いてた?…私は今から仕事あるから無理」
「え?お掃除は終わってるはずじゃぁ…」
「見計らってきたのか?」
「いや、そこはあんまり」
「そう?いや、お客が帰るからそれの手続き」
「ああー行ってらっしゃーい。ここでのんびり待ってるわ」
「どうせ動く気ないだろ。…あーあとその映画系は渚が契約してるやつだから。後で許可取っとけよ」
ぶっちゃけアマ〇ンプライムビデオである。
映画見たいとき用にと渚が自分で契約金は支払っている。
「あれ、咲希じゃないんだ?」
「あんま映画見ないからな」
「だよねー。分かった後で渚ちゃんにはちゃんと言っとくから」
「ならよし」
というわけで階段を降りて行く咲希であった。
□□□□□□
階段を降りるとロビーである。
ロビー脇のソファー部分に2名の人影。
片方は渚。
もう片方はお客の子供である。
トランプ中のようであった。
「えらく懐かれてんな」
「あ、咲希姉」
顔を上げる渚。
集中していたようである。
「渚姉ちゃん!ほら引いて!」
「ああ、ごめんごめん。はい」
ババ抜き中であった。
お互いの手札はそれぞれ2枚と1枚。
最終決戦である。
「ざんねーん!そっちババ!」
「あーババだったかぁ」
そして華麗にババを引き抜く渚。
わざとなのかガチなのか分かりづらい。
「え、何ずっと遊んでんの?」
「朝食終わってからかなぁ?」
「昨日トランプできなかったから!」
「あーそういう」
昨日2階で映画見ていたのは一応咲希も知っているので、遊んでたんだなくらいの認識はある。
まあ昨日は色々あった結果トランプは確かにできていなかったのでそれがやりたかったということなのだろう。
「じゃあ…こっち!」
「あっ」
「やったー!勝ったー!」
「あー負けちゃった」
とりあえずトランプの勝敗がついたようである。
結果は渚の負けであったようだが。
そこで渚が再び咲希の方に向き直る。
「あ、そういえばさっき美船さんが」
「ああうん、理解してるから大丈夫」
「ああ、ならいいや」
まああれをスルーできる人間は多分いないと思われる。
流石にリビングにいれば気づく。
「あと渚。そろそろ多分時間」
「あ、ほんとだ」
「ねー次は何する?」
まだまだ子供の方は遊ぶ気満々のようだが、残念ながらそろそろ時間切れである。
客室からキャリーバッグを持った親が出てきた。
母親の方がカウンターに行く素振りを見せたので咲希がカウンターでの応対を始めた。
一方で父親の方が渚たちに接近する。
「すいません遊んでもらっちゃって」
「いえいえー私も楽しかったから大丈夫ですよ」
「もう帰るの?」
「ああ。だからお姉さんたちともお別れだぞ?」
「えーもっと遊びたい」
「また遊びにこればいいだろう?またいつか来るからな」
父親に諭される子供。
不満そうな顔ではあるが、渋々といった感じで頷く。
「よし、いい子だ」
軽く頭を撫でられる子供。
にへらと顔が綻ぶ。
日常的にこんな感じなのだろう。
その裏で咲希が母親と淡々と手続きを進めていく。
「…はい、丁度頂きました。ご不便な点等ございませんでしたでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。むしろありがとうございました。いきなりもう1日なんて受け入れてもらっちゃって」
「ああ、あれはすいません。むしろ私のお節介で」
「いえいえ、助かりました。流石にあの中で出てったらどうなるか分からないですから」
「ならよかったんですけど」
そうこうして手続きを終える。
後ろには父親と子供が待機中である。
「それじゃあ、また来ます。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「またねー!渚お姉ちゃん!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!またね」
いつもの挨拶に子供からの手振りの返しをしながら、3名が出ていくのを見送った。
「ふーお疲れ」
「お疲れ咲希姉」
「なんかめっちゃ好かれとったな」
「いっぱい遊んだからね」
「まさか掃除の時間から今に至るまでずっと一緒に遊んでるとは思わなんだ。疲れん?」
「楽しかったから、全然疲れなかったよ」
実に4時間くらいであった。
まあお互いに楽しんでいたのであろう。
「そういえばさ、昨日なんか上で騒いでたけどなんかあった?」
「え、あ、い、いや、じゃれてただけだから、気にしないで」
「何があったし」
頭に疑問符を浮かべる咲希であった。




