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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
35/177

暗闇

「んー…やばいかなこれ」


民宿「しろすな」2階。

珍しくテレビをつけている咲希。

一応リビングにテレビは置いてあるのだが、基本的にパソコン生活がメインな咲希にとってはあんまり使わないものである。

渚ももっぱら映画見たりするのに使っているので、こうやって純粋にテレビ見てるのは珍しいと言えば珍しい。


「咲希姉。お風呂いいよ」


「へい。入ってくるわ」


「珍しいね。この時間帯にリビングにいるの」


「ちょっとね。こいつが気になって。ニュース見てた」


「ああ、台風かぁ。上陸するんだっけ?」


「ここまで来るかは知らんけど。結構強そう」


珍しく見ていたテレビの内容は気象情報をやっているニュース番組。

「しろすな」に飛んでくるまではそこまで気にすることは無かったのだが、いかんせん今の「しろすな」の立地はがっつり海辺。

しかもそう遠くないところに川。

家の裏を進めば山だらけ。

という感じなので、警戒するに越したことは無いという感じである。


「海荒れそうだなあ。大丈夫かね」


「真横だもんね。海」


「目と鼻の先だからな。流石に台風時にここまで海に接近したことないし、普通に怖いわ」


「そういう意味ではここ怖いよね。周辺山だらけだから孤立しそうだし」


「ああ確かに。物流止まったり、電車止まると割と普通に死ぬるぞ」


俗に言うスーパーは周辺に1つしかありはしない。

一応道自体はあるが、どれも山に繋がっている関係上、何かあったら通行不能になってもおかしくない。

電車も同様に理由により、あまりこういう時は信頼できないというものである。

何かあったら陸の孤島になりかねないのである。


「それに電気止まるのも怖いよね」


「…それは考えてなかった」


「ありえることない?」


「ありえそう。どうしよお客いるのに電気死ぬのは洒落にならんぞ」


「冷蔵庫の中身が腐るからやめてほしい」


「いやまあそれもあるけど、電化製品全部死ぬのは普通に生活できんぞ。復旧も時間かかるんじゃないのかこういうとこ」


電気が止まると完全に営業は止まる。

というか普通の生活が止まる。

咲希は流したが、冷蔵庫が止まるのも洒落になってないのである。

数時間くらいで終わればまだしも、数日続けばどうなるやらである。


「明日の夕方か夜くらいには来るらしいし、なんか対策した方がええのかな。つっても懐中電灯用意くらいしか思いつかんけど」


「発電機ってなかったっけ?」


「え、あるん?」


「確か見たよ」


「どこで」


「自販機裏の物置」


「あああそこ。ちょっと見てくる」


というわけで自販機裏にある物置を確認しに行った咲希。

いつもはゴミを袋単位でためてるとこであるのだが。

数分後。


「あったわ。奥の方置いてあった」


「ああ、やっぱりあったよね」


「動かし方分からんけど」


「ガソリンは前に買っておいたから、それを入れたら動くんじゃない?」


「そうなん?」


「一応調べた感じだと確かそう。そうじゃなかったら、あんな重いもの長い時間かけて運んだ意味がなくなる」


「じゃあまあ、停電したら動かしゃいいか」


「うん、多分ね」


「何事もなく過ぎてくれりゃいいんだけどね」


□□□□□□


で、翌日。

台風がそれてくれるとかそういうことはなく、絶賛直撃中であった。

とりあえずここに来て過去最大級の大雨と暴風のコンボであった。

ただ軽く見た感じ海はそうでもないようである。


「うわ、思ったより雨風やばいな」


スマホで台風の位置を確認しつつ、ちらっと玄関口を開けて咲希が外を確認する。

幸い、「しろすな」が吹き飛ぶようなことは無さそうであるが、まあ外に出歩ける雰囲気ではない。

正直死が見える。


「…こんな中帰るんか?あの家族」


頭によぎるのは今いる客のことである。

今回は2泊3日の予定だとあらかじめ聞いてはいた。

なので今日がその日なのだが、これ、まともに帰れるのだろうかという懸念である。

雨も風も相当やばい。


「コラー!窓開けない!」


とか考えてたら隣の客室の方から声が響く。

改装工事とかしてるはずもないので、相変わらずでかい声は筒抜けである。

とりあえずなんかあったんだろうなということで部屋に向かう咲希。

まあ声の内容から大体想像はつくが。


「すいません。どうかされましたか」


ドアを叩いて中に呼びかける。

中から母親の方が子供を手に掴んだ状態で顔を出した。

後ろの方では父親が窓際の床を拭いている。

雨が部屋に入ったようである。

雨漏りするような部屋ではないので、原因は1つだろう。


「ああ、すいません。子供が窓開けたみたいで…中が濡れちゃって」


「ああ…大丈夫ですよ。後で掃除しときます」


あーやったかみたいな感覚に襲われながら、まあどうせ掃除するからいいかとなる咲希。

幸い気づいた親がすぐに閉めたのかそれほどびちゃびちゃではない。

畳に降り込んでなさそうなのが救いか。


「すいません。もう帰るって時にこんなこと」


「いえ、大丈夫です。ただ、本当に帰られますか?その、こんだけ外荒れてるので危なくないかと。よろしければもう1日泊まってかれます?」


ちょっと提案してみる咲希。

こんな中で外に出ようもんなら誰か吹っ飛びそうである。

せめてもう1泊してけよということである。

安全面的に。


「え、でも、そんな突然ご迷惑じゃ」


「そこは大丈夫です。お客様さえよければですけど」


まあ無理強いする気は無い。

金はとるので。

ただこんな中で帰して死人出ても困るってもんである。


「…あなた、どうする?」


「いいんじゃないか?流石にこれじゃあ車にたどり着く前にどうにかなりそうだし。もう一泊くらいなら予定に支障も出ないだろ?」


お金のことなら心配するなと言う父親。

流石にこの中を帰るのはどうなんだという思いはあったのだろう。

ケチって吹っ飛んだじゃ洒落にもならない。


「じゃあ、すいません。お願いしても?」


「分かりました。じゃあもう1泊追加ということで。あ、理由が理由なんでちょっと安くしときますね」


「ああ、ありがとうございます」


まあその辺のさじ加減は咲希に一任されているので、咲希の言ったことがそのまま反映される。

ということで台風が収まる明日になるまで追加で泊まることになったようである。

と、そこまで話していたところ、急にあたりが暗くなった。

より簡単に言えば照明が消えた。


「あれ?」


「くらくなった!」


子供が叫ぶ。

実際外が暗い現状、照明が消えた室内は暗い。

照明の電源に手をかけるが付く気配はない。


「あー…ほんとに停電かなこれは」


ある種予想通りの展開である。

昨日段階である程度準備しといて正解であった。


「すいません。停電みたいです」


「あー停電か。台風に停電に、困っちゃうね?」


「ちょっと待っててもらえますか?そう遠くないうちにはある程度なんとかできるはずなんで」


その言葉を最後に部屋を出る咲希。

廊下も昼間ということを考えればかなり薄暗い。

廊下部分には窓がないのも原因かもしれないが。


「あ、咲希姉。停電みたいだよ」


ロビーに戻ると、階段上から降りてくる渚と遭遇した。

幸いロビー周りは窓があるのでまだ見える。


「みたいだな。ちょっと発電機いじってくるわ」


「うん、分かった。手伝った方がいい?」


「ガソリンぶち込むだけだろ?何とかなると思うからいいわ」


そう言うと、咲希は自販機横から物置へと入っていく。

しかしすぐに明かりが回復することは無く、暗い時間が続く。

多分中で咲希がスマホのネット情報頼りに右往左往しているのだろう。

実際適当に使って大変なことになっても困る。

というわけで復旧を待ちながら、ロビーのソファーに座る渚。

まあ暗い中でわざわざ上に戻る必要もあるまい。

そんな風に渚がしていると、廊下の、客室の方からトトトと小さい足音が聞こえてきた。


「ねー、あそぼー?」


「え?」


渚がその音に気付いて横を見れば、そこに子供の顔があった。

さっき泊まるのを延長した家族の子供である。

どうやら部屋を出てきてしまったようである。


「外雨だし、お部屋暗いし何にもできないし、だからなんかしよー」


まあ停電なのでテレビはつけられず、台風なので外に出ることもできず、親は先ほどやらかした窓の雨の後始末やらに忙しいのだろうか。


「えっと、何したい?」


とりあえずそう聞く渚。

できそうな遊びはあんまり多くないのだが。


「スマホ!」


「スマホ?」


「ゲーム!」


「ああ、スマホゲームかぁ…何がしたいの?」


「モン〇ト!」


「モン〇トかぁ…」


渚はあまりスマホゲームをやらない。

厳密にはやりはするがほんとにやることが無い時の暇つぶしにしか使わないのである。

なのであんまりゲーム性の高いものは入っていないのだ。

というわけで残念ながらそのアプリは入っていなかったが、渚はそれに対応することにした。


「ちょっと待ってね。ダウンロードするから」


「やった!」


幸いスマホのダウンロードは可能なので、言われたゲームアプリをダウンロードする渚。

まあ別に今スマホを使うわけでもないのでいいかなと思った次第である。

が、ダウンロードか終わる前にどたどたと走る音が迫った。


「こら、駄目だろう。暗いのに勝手に部屋の外に出て。危ないだろう?」


「パパ」


父親が来てた。

どうやら部屋からこの子は勝手に抜け出していたようである。

気づいた親が追ってきたようだ。


「すいません迷惑かけませんでしたか?」


「いえ、大丈夫ですよ」


「ほら、お部屋に戻るよ」


「えー遊びたいー」


「それは明るくなってからな。すいません失礼します」


そういうと父親は子供を連れて部屋へと戻って行った。

まあそりゃ停電状態で子供を出歩かせたくはないのだろう。

そうこうしていると、スッとあたりが明るくなった。

咲希が発電機を稼働させたのだろう。

その証拠に咲希が自販機横の扉から帰ってくるところであった。


「おかえり。動いた?」


「動いた。けどあれ面倒くさいのな」


「そうなの?」


「倉庫内じゃ換気的に使えないから外に出さないといけなかったし、かといって雨でぬれると感電するかもしれないらしいから屋根のある所で降り込まないところ探さないといけないし、ガソリン重いし、操作よく分からんし」


「だから手伝おうかって言ったのに」


「次から頼むわ」


無駄に疲れた様子の咲希がそう言った。


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