家族連れ
民宿「しろすな」1階。
珍しくカウンター内にて咲希が待機中である。
「…あー、あと10分くらいかな…」
当たり前だが普段は客なんぞ来ないので、基本的にこの中で待機することは無い。
じゃあなんで今日ここに居るのかというと、先日電話申し込みがあったからである。
多少なりともネット上のページが作用したか。
「…前回2人だったけど今回3人だっけ?…回るよな?回せるよな?」
とりあえず来る時間と人数は聞いておいたのだが、今回は3名らしい。
聞く感じ家族連れのようである。
客自体くるのは3回目だが、家族連れパターンは初なのでまあ不安はある。
「そういえば子供連れらしいけど年聞いてねえな…何歳くらいのなんだろ…」
あんまし子供だと対処できる気がしないのでやめてほしいとか思ってる咲希。
その時インターホンが鳴った。
「はーい!」
カウンター口から飛び出して玄関口に向かう咲希。
咲希が開けるより先に戸が開いた。
「あ、こんにちわ。お世話になります」
「あ、どうも。お入りください」
とりあえず戸を開けてまず見えたのは母親と思しき、30代くらいの女性であった。
そのまま招き入れてさらに後続を確認する。
が、誰も来ない。
「…あれ?ちょっと待ってくださいね。ちょっとー何やってるのー!」
中に入りかけた女性がいったん外に戻って誰かに声をかけに行く。
戸が開いているので声が駄々洩れである。
「いや、降りようとしないんだよ。肩車状態で入れないだろ?」
「やーだー!もっとやってて!」
「はいはいはい、また後でな。ほら」
そんな声が外から漏れている。
聞き覚えの無い男性の声と、甲高い子供の声である。
まあ父親とその子供が外でなんかしてるのだろう。
で、その声を聞く感じ子供の方は幼い感じがすごい。
咲希の想定が当たってしまった。
「ああ、すいません。お時間取らせました」
「あ、いえいえ大丈夫ですよ。じゃあこちらに…」
とりあえず母親を誘導する。
後ろから子供及び父親も入ってきた。
肩車状態から無理矢理降ろされたせいか、若干膨れている子供がいた。
「では、こちらの方にお名前と住所と、あと緊急連絡先のご記入をお願いします」
というわけでいつもの入館手続きをお願いした。
が、若干子供が気になるのでちらちらそっちに目線をやっている咲希がいた。
子供は父親にロビーのソファーへと連行されているのでとりあえずは大丈夫そうだが。
「あ、書けました」
「ありがとうございます。では、ご本人確認書類を…」
「えーっと…免許証で」
「はい。少々お待ちください」
で、確認を進めていると、子供が自販機の方にいつの間にか移動している。
父親はソファー上である。
頼むからちゃんと見とけよと内心思いつつ手続きを進める咲希。
なお別に咲希は子供が嫌いなわけではない。
ただ、昔やっていたバイトの関係で子供が暴れ始めたときの地獄絵図は何度も見ているので、そういう意味での警戒である。
散らかせる物がそもそも少ないのが救いか。
まあゴミ箱散らされたら大惨事だが。
「はい、ありがとうございました。えーっとではお部屋はご自由にお使いください。中にあるものは自由に使ってもらって大丈夫です。朝食8時夕飯は7時から、お風呂は夕方4時から夕飯までが男、それ以降が女風呂になります。共用なのでご注意ください。外に出られる際は鍵をここの者に渡してから外出をお願いします。…あと何かありましたら私か、もう1人いますのでそちらにお聞きください。ではこちら鍵になります。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます。行くよー」
母親がそういうと、ソファーに座っていた父親が自販機の穴を覗いていた子供を回収してそのまま部屋の中へと消えていった。
小銭は無かったようである。
まあ毎日その辺は確認してるのであったら咲希が回収している。
「…あ、うるさくしないで言うの忘れた」
やべえという顔をする咲希。
そもそも言っておいてもなおうるさくなるのがあのくらいの年代というものである。
言わなかったらどうなるかは想像に難くない。
2人の親が常識人であることを祈る咲希であった。
□□□□□□
時刻移って夕飯時。
いつも通り料理当番の渚がキッチンにて料理中である。
咲希はいつも通り2階である。
「そろそろ冷蔵庫の中にある作り置きしといたもの出さないとなー」
とか言いながら冷蔵庫に向かい、作り置きサラダを引っ張り出す渚。
「流石に5人分作ると大変だなあ。時間もかかるし」
作り終わったものを徐々に盛り付けていく渚。
お盆に1人分づつ乗せていく。
この辺は毎日のことなので慣れたもんである。
「でもこれ以上増えると作るのも大変になってくるなぁ。1人じゃ辛いかも…」
現段階で客と咲希、渚で5人分。
しかもこれ部屋的には1部屋しか使用してない状態である。
現状考えられないが、最大値12人くらいは余裕で入ることを考えると1度に14人前となるわけで。
まあ1人じゃ辛い。
そろそろもう1人くらい手伝える人種が欲しいものである。
「じゃあそろそろ呼びに…」
「ねー何作ってるの?」
「ふぇ!?」
突然声をかけられる渚。
なんか気が付くとすぐ隣に子供が立っていた。
いつの間にかキッチン側から侵入していたようである。
「え、えっと、こんにちは」
「ご飯なにー?」
「んーご飯?えっとね、今日は、ビーフシチューだよ」
「やったー!肉だ!」
「そっかやったね」
とかなんとかやってると慌てた感じの父親が部屋に入ってきた。
「こらっ!勝手に出歩くな!すいませんすいません。邪魔しちゃ駄目だろ!」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「ほら、行くぞ」
「やだお腹すいたー」
「あ、えっと、夕飯もうすぐなんで、もう来ていただいても大丈夫ですよ」
「あ、そうですか?じゃあすいません、すぐ呼んできます。お前も一緒に来るっ!」
そう言い放った父親はそのまま有無も言わさず子供を引き連れて部屋から出ていった。
母親を呼びに行ったのだろう。
「そういえばちっちゃい子ってあんな感じだったなぁ」
そう1人呟く渚であった。
なお夕飯は大変好評であったようである。




