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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
33/177

腐れ縁

メインキャラ2名不在回

民宿「しろすな」から歩いて数十分の距離にある寂れた雰囲気を醸し出す本屋。

元々利用客が多くもないそこに苑田稜子はいた。


「あー…これも読み終わっちゃったわね…」


カウンター内でラノベを読み漁っている稜子。

店番する代わりに、ある程度仕入れる本を決めてもよい取り決めを祖母と交わした稜子は、自分の読みたいラノベを仕入れてそれを読み漁るようになっていた。

本屋内に出現したラノベコーナーは当然客も購入できるが、どちらかというと稜子の読みたいものを押し込んでいるコーナーである。


「えーっと、次の話は…」


今まで読んでいたラノベを差し戻し、次のラノベを探す稜子。

綺麗に扱っているのでそれで商品価値が下がることもあるまい。

そもそも、ここいらでここのラノベ買う人間は渚以外そうそういないので。


「邪魔するぞー」


「帰れ」


「酷くないか?」


ラノベコーナー前で次読むものを探していると、その後ろの出入り口から音が鳴り、1人の少年が入ってくる。

声で誰なのかは分かったのだろう。

振り返りすらせずに帰れと言い放つ稜子。

本屋に入った明人もある意味いつも通りなので軽く受け流す。


「私は今これを読むのに忙しいのよ。いつもの冷やかしなら帰りなさいよ」


「いや、店員が本読むのに熱中しててどうするんだよ」


「別にいいのよ。お客もそうそう来るわけじゃ無いから」


「いいのかよそれ…」


呆れ顔の明人を横目に、1冊のラノベを手にカウンターに戻る稜子。

そのまま、カウンターに置かれた椅子に座ってラノベの表紙を捲った。


「そういえば、明人」


「ん?何だ?」


「この前、夏祭りの時だけど、渚大丈夫だったの?何もなかった?」


「ああ、本人曰く、人混みに流されて気が付いたら逸れてたんだってさ。まあ何事も無かった…と思うが」


「が?何かあったのね」


「そうたいしたことじゃないかもしれないけど、俺が見つけたときナンパされてたみたいだったな」


「はぁ?ナンパぁ?」


ラノベから目を上げる稜子。


「見知らぬ男2人に絡まれてたからな、俺が声かけたらどっかいったけど」


「全く、渚、何やってんのよ…そんなナンパなんてズバっと言ってやればすぐ撤退するのに」


「なんか、普通に会話してたな」


「会話なんて付き合ってやる必要性ないのに…あのお人よし…」


「稜子と違ってそんなズバズバ言うタイプじゃないだろ渚って」


「悪かったわねズバズバ言うタイプで」


軽く明人を睨む稜子。

よくあることなのだろう。

さらりとそれを受け流す明人。


「まあでもそれだけだったな、あとは俺がいつもの花火場所まで連れてっただけだから」


「そう。…あんたまた余計なことやってないでしょうね」


「な、なんだよ余計なことって」


「言われなくても分かるでしょ?渚相手に勘違い起こさせるようなことやってないでしょうね?」


「…」


目が泳ぐ明人。

心当たりしかない。

というか渚にも確か突っ込まれている。


「…はぁーおかしいとは思ったのよね。なんか自然に手繋いできたから。あえて私は言わなかったけど」


「いや、ナンパ男から引き離したときにこうなんか自然とだな…」


「あんたそういうので今まで何人落としたわけ?面倒事に巻き込まれたの数回じゃないわよね」


「そうなんだけど…まあ、その、つい癖で…」


「全く、いい加減直しなさいよ。あんた認めるの癪だけど、顔はいいし、勉強も運動もできるんだから、そんなことやられたらコロッといくわよ。コロッと。私みたいに」


「う…悪かったって」


「どこまで分かってんだか。これ以上私みたいな被害者増やさないでよね」


大昔、記憶の中の渚がここを離れる前、小学生の時代。

その時代から明人、稜子、渚、啓介の4名の付き合いはあった。

特に明人は小学生時代からイケメンを遺憾なく発揮した結果、大変女子に好かれる存在であった。

近くで一緒に遊ぶことの多かった稜子も例外ではなかったのである。

で、結局稜子が明人に告白して振られた過去がある。

その後も腐れ縁で友達のままずるずる来て今に至るのである。


「ま、まあでも渚はなんとも思ってないみたいだから、たぶん大丈夫だ」


「たぶんが怖いのよたぶんが。そりゃあの子元々あんたに微塵も興味示すタイプじゃなかったわよ?でも、今のあの子があんたのことをどう思うかなんて分からないじゃない」


「ま、まあそりゃそうだけど…」


「そういう意思が無いなら気をつけなさいよね。また面倒事が起きても知らないからね」


「おう…」


その辺で再びラノベに目を戻す稜子。

そしてしばらくして再び目を上げた。


「というか、そもそも夏祭りの時、なんで目を離したのよ。後ろにいるかどうか確認するべきでしょう」


「え?でも、そっちの2人のとこに行ってたみたいだったから」


「だからって確認も無しに1人でずこずこ行くんじゃないわよ。そもそも渚が逸れた原因って先に行ってたあんたでしょ」


「流石にそこまで確認はできないって…」


「あの子から目を離したらどうなるか考えなさいよ。昔っからどこ行くか分からない子だったの覚えてるでしょ」


「いやそうだけど、流石に今回も起きるとか思わないだろ」


「そういう点ではあの子変わってないんだからね。なんか見てて危なっかしいんだから。というかあの時もなんであんなにさっさと進んでっちゃったのよ。いつもならなんだかんだ歩幅合わせてるじゃない。いつもの気遣い精神どこ行っちゃったのよ」


「…いや、あの時ちょっとぼーっとしてて」


「…なんかあったわけ?」


「渚と屋台で買ったやつシェアしてた…」


「…ぷ、何よ。あんたそれで惚けちゃったわけ?いっつも女の子周辺にたくさんいるのに?」


「いやなんかあれは違くて…」


「何が違うのよ」


「普通の友達として女子とああいうことやったこと無いんだよ俺」


「…ああ、まあ確かにあんたの周辺の女子って既に好感度高いもんね。そういう意味では渚はレアケースか」


「だから、なんか無駄に意識しちゃってさ…」


「だからってぼーっとしてないでよね。ちゃんと渚のこと見てなさいよ。今回はたまたま見つかったけど、毎回そうもいかないでしょ」


「分かったって」


渚のいないところで渚を見ておく取り決めがなされていた。

明人がどう思っているかはともかく、稜子からは既にほっとけない子として見られてるらしい。


「…ところで、さっき言ってたことだけど」


「え?さっきって?」


「食べ物シェアとかその辺よ。私とは普通にやってたことあるじゃない。その時は何にもだった気がして」


「え、だってまあ稜子は稜子だしな」


「…ちょっとそれどういう意味なのかしら」


「稜子なら気にする必要ないかなって」


カウンター越しにグーパンが飛んだ。

全く気にされないのも腹立って当然である。


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