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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
32/177

迷子

夏祭りに赴いて、人混み流され気が付きゃ迷子。

見知らぬ土地で渚は1人になっていた。

周辺を見渡しても見知った顔が誰もいないので間違いなく迷子である。

とりあえず連絡を取ろうと、スマホを引っ張り出してトークアプリから連絡を取ろうとメッセージを送った。


「う、流石、人混み。全然連絡が取れない」


が、そうは問屋が卸さない。

そもそもここはもともとそれほど通信が良い場所ではない。

さらに今日は夏祭り。

人混みパワーにより、なおの事通信が取りにくい状況である。

無情にも画面に表示されたのは再送信してくださいの文字であった。


「うーん、立ち止まってもしょうがないし、人がいない方に行く…でも、駅の方がいいかな」


というわけで、繋がらない連絡と格闘しても仕方ないので、人混みだらけの会場から少し離れて、開けた空間で3人を待つ方にシフトチェンジしたようである。

そのまま会場近くの広場へと移動した。

相変わらず人は多いが、まあ少なくとも中よりはましであろう。


「もっかい送っとこうかなあ」


再びメッセージの送信を試みる渚。

が、やっぱり再送信を催促された。


「ああ、せっかくみんなで来たのになぁ。これじゃあ花火もきっと1人だな」


さっそく最悪の方向に思考を向かわせる渚。

ある種諦めたのか、手に持っていたお好み焼きの残りを食べ始めた。


□□□□□□


「明人ー!早いっ!」


「え?ああ、すまん」


場所変わって3人。

相変わらず先行を続けていたらしい明人に後ろの2人が追いついた。


「あれ、渚は?」


「え?知らないわよ。あんたの方にいるんじゃないの?」


「え?俺、2人の方に行くの見てから見てないぞ」


「え?啓介、見た?」


「最後に明人の方に行くの見たっきりだけど…人ごみに紛れて見えなくなったからなぁ…」


「…ちょっと連絡入れてみる」


というわけで明人が渚に連絡を入れようとした。

が、まあ当然繋がらない。

向こうが繋がらないのでこっちが繋がってても意味ないが。


「…くっそ、繋がらない」


「ちょ、あの子まさか迷子?」


「探した方がいいんじゃないか」


「…分かった。俺駅の方見てくるから会場2人で探してくれ。後でいつもの花火見る場所で落ち合おう」


「こればっかりは仕方ないわね。分かったわ」


「じゃあ後でな。見つかったら一応連絡くれよ。繋がらないかもしれんけど」


「ああ」


というわけでこっちはこっちで捜索を始めていた。


□□□□□□


一方渚。

4人で来たのに逸れてしまい、1人寂しく広場でお好み焼きをもそもそやっていた。

さて、渚の周辺であるが、人は多いが渚が1人なことは結構分かりやすい。

話してる相手もいなければ、そもそも隣の人とも結構距離が開いているので。

そして、本人も忘れてることがかなり多いが、渚のビジュアルは美少女のそれである。

で、そうなれば当然こういう輩が来るわけである。


「ねーねー君、今1人?」


「え、あ、はい」


気が抜けたような返事を返す渚。

多分なんで声かけられたのか分かってない。


「お、だったらさ、俺らと一緒にお祭りいかない?いやー野郎2人だとつまんないからさ?」


「えーっと、今ちょっと友達と逸れちゃって、連絡がとれないんで、ここで待ってるんです。だから、ちょっと、ごめんなさい」


要するにナンパである。

一応やんわり断りを入れるが、まあそんなで止まるわけもなく。


「あ、そうなんだ。じゃ、俺らも一緒に探したげるよ。ね、それならいいっしょ?」


「そうそう、こんな日に1人寂しくなんてもったいないじゃんか」


「うーん、でもぉ、歩いてたら分かんなくなりそう」


「でも連絡つかないんでしょ?だったら歩いて探した方がいいって。向こうさんもどう動いてるか分かんないんだしさ?」


「確かに、歩いた方がいいかもしれない」


丸め込まれ始める渚。

ナンパなのは理解してるが、単純に成程と思ってしまっている。


「そーでしょ?大丈夫、俺ら視力はいいから特徴教えてくれたら一緒に探せるって!」


「んーでも写真持ってないんですよー口だけじゃたぶん多くて分かんないと思います」


「大丈夫だって、髪型とか服装とか全部一緒の人なんて流石にいないじゃん?なあ?」


「そうそう、何人かで来てるなら人数でも探せるじゃんね?」


「うーん…でもなぁ…」


頭の中でナンパなんだよなぁ…とよぎる渚。

絶対探してくれないだろうなという確信はある。

じゃあスパッと断れやという話だが、それができるほど渚は精神的に強くない。


「やっぱり、いいです。ここで待ってれば、帰りには合流できると思うんで…」


「いや、でもさぁ?せっかくお祭り来たのにお友達と一緒に回れないの残念じゃん?探した方がいいと思うけどなー俺」


「残念ですけど、ほんとに見つかんなかったときが大変なんで、待ちます」


「そっかー…じゃあ、俺らも一緒に待ってよっ!」


「え、いや、その、楽しくないと思うんで大丈夫です」


「野郎と祭り行くよりかは楽しいから大丈夫だって!」


「そ、そうなんですね」


押し負けた。

連れてかれるのは拒否したが、隣に座られるのは想定外だったようである。

そのまま会話が始まってしまった。

渚が神経をすり減らしながら会話を続けている。

やたら下世話な話に持っていかれるので。

と、しばらく会話を続けていると聞き覚えのある声が聞こえた。


「渚ー!あ、渚っ!」


明人であった。

先ほど駅の方に向かうと言っていたので、戻ってくる途中に渚の姿を見つけたのだろう。

隣で渚に絡む男どもをスルーしつつ、渚に話しかけた。


「渚、こんなとこいたのか」


「あ、神谷君」


「戻ろうぜ、花火もそろそろ始まるだろうしな」


「うん、分かった」


立ち上がって、つい数秒前まで話していた男2人のことを思い出したのか、渚が後ろを振り返る。

男たちは興味を失ったのか、既にそこから離れた後だった。


「あれ?」


「知り合い?」


「ううん、知らない人。多分ナンパ」


「ナンパっ!?大丈夫だったか?」


「特に害は無かったかな」


扱いが害虫。


「そうか、気が付いたらいなくなってて、探したんだからなー」


「ありがと、ごめんね、心配させたよね」


「そりゃ心配したさ。連絡全くつながらないし」


「ここ人多すぎて繋がらなくて、1人で花火を見るのも覚悟してたよ」


「変な覚悟決めるなって」


「でも、よかった、ありがと」


「おう。じゃあ行こう。花火の時間に間に合わなくなるといけないしな」


明人がスッと渚の手をとって歩き出した。

なお、稜子と啓介に連絡したがやっぱりつながらなかった。


□□□□□□


お祭りの会場内を歩いて、先にある花火を見るポイントに向かう2名。

適当に会話しながら歩いていたのだが、明人が突然スッと脇にそれた。

当然、手を引かれていた渚も一緒である。


「うわっ。突然何っ」


「あ、すまん。いや、ちょっと…」


「ん、忘れ物でもした?落とし物?」


「いや、そういうのじゃなくて…正面に知り合いがいてだな…」


「知り合い?」


ちらりと先ほど歩いていたところの前方を見る渚。

浴衣に身を包んだ3名ほどの少女の集団が通過していった。


「ああー成程。要するに因縁のなんかってやつかー」


「いやそういうわけではないからなっ!?」


「で、実際どういう関係なの?友達?」


「…友達、でもない。名前も知らない」


「知らないのに隠れる必要あるの?なんで?」


「絡まれるからだよ…」


「え゛、友達じゃないのに絡まれるの?」


「俺のこと知ってる女子はだいたい絡んでくるんだよ…」


その言葉を聞いた渚が明人の顔を突然じっと見始める。


「え、な、なんだよ」


「ああ、そういえば神谷君ってイケメンだったね」


「なんだそれ」


「神谷君ってさ、普段からこういう感じのこと女の子にしてるでしょ」


「え?あっ」


自然とつないでいた手を慌てて離す明人。


「ん、どしたの?」


「な、何とも思ってないのか?」


「んー…別に。逆になんか思ってた方がいいかなぁ。ちょっとドキドキしてたなぁ…とか?」


「…マジじゃないよな?」


「マジなわけないじゃん」


「ああ、だよなよかった」


「ちょっと顔がこわばってるけど大丈夫?」


「…過去に色々ありまして」


「苦労してるんだね」


要するに明人のこれはそういうことである。

なまじ色々絡まれた経験が彼にはある。

結構面倒事もあった。

なお手をつないだりするのを自然にやってるのは無意識である。


「俺が昔色々やらかしてたのもあるんだけど…それでもかなり色々あったんだよな…」


「どういうことしたらどういうことがあったの?」


「…色々やってたら、俺の知らない彼女が3人できてた」


「うわぁ…悲惨。それ、どうなったの?」


「いきなり誰か1人選べみたいになって…そんな気なかったから全員お断りしたら、鬼畜扱いされてかなり長い間針の筵みたいな目線に晒された…」


「それはトラウマにもなるね」


「ああ…」


「そっか神谷君はもてるんだね。まあ実際神谷君は優しいから、女の子は惚れちゃうのかもね」


「え、優しいか?」


「え?ほら、気遣い上手でしょ?」


「…そうか?」


「え?無意識?」


「…無意識」


「あ゛ぁ~自覚がないのかぁ…」


「え、え?」


「天然たらしも考え物だね」


「天然…たらし?」


想定外のワードにキョトンとする明人であった。


□□□□□□


色々あったが、なんとか花火を見るポイントまでたどり着いた2名。

稜子及び啓介は既に到着していた。


「あ、渚見つかったのね。よかった」


「ごめんね2人とも、心配させました」


「もう、気をつけなさいよね」


「気をつけます…」


「まあ、戻ってきたからいいわ。そろそろ時間よ」


「うん」


周辺は相変わらず人だらけだが、稜子と啓介が場所取りしていたようである。


「あれ、なんで2人手繋いでんの?」


啓介から突っ込まれた。


「え、あ、それは…」


「ああこれ?私が迷子になるから、繋いでもらってるだけ」


「ああそういうことか。てっきりわずか1時間も経たないうちにできてるのかと思ったわ」


「ナイナイ。この1時間で落ちてるならもっと前に落ちてるよ」


「まあそうだな。なまじ顔はいいしこいつ」


「それに優しいしね」


「だってよ?」


「うるせえ!」


「はいはい、そろそろ花火始まるわよー」


色々あったがなんとか4人で花火を見ることができたのであった。

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