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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
3/177

夏虫

ピンポーンと夕方過ぎの「しろすな」の中に呼び鈴が響く。

その音に反応して2階の自室の布団の上から跳ね起きる一人の影。


「はーい!」


咲希が家に響く声で返事しながら慌てて2階から降りてくる。

来客の対応は基本的に咲希の仕事である。

タンクトップスタイルの格好なのは変わっていない。


「あ、お届け物です」


「ああ、ごめんなさい。ありがとうございます」


扉を開ければ、帽子被った宅配業者。

まあ今この家に出入りするのはそもそも咲希と渚を除けば、こういった宅配系統しか存在しないので当然ではあるのだが。


「着払い、48万4800円になります」


「あ、パソコンか」


「そうですね」


「ちょっと待ってくださいねー」


そう言うと一度部屋に戻る咲希。

戻ってきたその手には諭吉と野口と小銭が握られていた。


「すいません。一応数えてきましたけど確認だけ…」


「ああ、しますします。えーっと」


パラパラと諭吉たちの枚数を確認する宅配人。

でかい買い物である。

まあパソコン2台分なので当然かもしれないが。


「ちょうど受け取りました。あ、ここにサインだけお願いします」


「あ、はい。えーっとここでいいのかな?」


「あはい、そこですね」


指定された位置に詰まりながらサインを書く咲希。

書き初めとかに詰まったのは、以前の名前があるせいである。

名前が2つあるのも考え物である。


「じゃあこちらに置いておきますね」


「はーいありがとうございました」


そうして玄関口から出て行こうとする宅配人。

と、そこで歩みを止めて振り返る。


「あ、すいません。一ついいですか?」


「え?なんでしょう?」


宅配人の言葉で大型段ボールを持っていこうとしていた咲希の手が止まる。


「いや、ここに入ってくるときにですね、その、女の子が家の中の人を呼んで欲しいと言っていたので。お知り合いかなと」


「え、ちなみにどんな感じの子ですかそれ」


「可愛い感じの子ですね。あ、たぶんツインテールだったかな?」


「あー…えっと、それはどこで?」


「ああ、すぐそこです。玄関口真っすぐ行ったところです」


「分かりましたありがとうございます」


「えっとやっぱりお知り合いですか?」


「妹です」


「ああ、なんだ妹さんでしたか。すいません気になったもので」


「いえーありがとうございます」


「では今度こそ、失礼します」


そう言って今度こそ玄関口から出ていく宅配人。

咲希もほどなくして玄関口から表通りの方へと向かっていく。

そうして、通りに出る辺りで渚の姿を発見した。


「おう、渚」


「あ、咲希姉。よかった」


「どうしたん」


「家に帰れない」


「突然すぎる。ほんとにどうしたんだ」


「家の前にいっぱい虫が…」


「へ?虫?」


季節は夏である。

当然虫はそこいらにいるわけで。


「あ、もしかして家の前の蛾とかのせい?」


「そう、入れないの」


「虫そこまで駄目だっけお前」


「虫は、無理、無理です。蛾とか絶対無理」


渚は虫嫌いであった。


「え、なら裏口からこればよいのでは」


「裏口に行くまでにどれだけ草むら通ると思っているのっ」


「それも駄目なのか」


「いやもう虫がいそうと思う場所を通りたくない」


「どうしろと言うのだ。裏口までお姫様抱っこで運ぶ?」


「それは恥ずかしいから嫌です。というか虫がいるところ通りたくないという根本的な解決になってないし」


どうやら裏口までの道のりも草むらなので虫的な意味で

通れなかったらしい。


「ダメじゃないか。どうすんだよ」


「虫用のスプレーって家にあるよね」


「ん、ああ、この前買ったやつはあるけど」


「あれ、あれ使ってなんとかして」


「殺せばいいのか?効くのかなあれ」


「き、効かなかったらコンビニ行って効くやつ買ってくるから」


「分かった。ちょっと待ってて」


数分後、すっかり家の前の虫は綺麗になっていた。

ようやく家の玄関口を潜ることができた渚であった。

まあ綺麗になったと言っても死骸はあるが。


「やっと帰れたー」


「おかえりー」


「本気で今日は家に帰れないと思った」


「やけに帰りが遅いなと思ったらそういうことだったのか」


どうやら虫をどうしようか悩んで立ち止まっていたらしい。


「もうさあ、宅配の人いなかったら詰んでたよね。まさしく天の助けだったよね」


「あれ、というかそんなことしなくても電話してくれればすぐに出たのに」


「スマホ持ってくの忘れてたんですよ。コンビニ行って来るだけだったので今日は」


「スマホの意味」


「ちょっと出かけるだけならいいと思うじゃん。というかそもそも出るときは何もいなかったから大丈夫だと思うじゃん」


「で、帰れなくなったと」


「もうどうしようもなくなったら近所の人連れてくるしかないかなって思ってた」


「虫ごときで呼び出される近所の人」


「咲希姉には分からんのですよ。私がどれだけ虫嫌いなのかは」


「分かってはいたつもりだったけど、ここまでとは思ってなかったわ。ちなみにセミは」


「無理だから。セミ爆弾あったらもうそこ通れないからね」


セミ爆弾とは死んでるふりしてる地面に転がってるセミのことである。

近づくとだいたい鳴いて動く。


「ゴキは…」


「無理に決まってるよね」


「ですよね。いやまあ好きなやつはいないと思うんだけどさ」


「この家には出ないで欲しい」


今のところまだ出現は確認されていない。


「というか今更ではあるが大丈夫か。ここ都会とは言い難いから虫結構でるぞ。ってかでてるぞ」


「えぇ…ええー…どうしよう。やだなぁ…家に出たら私もう帰る場所がないし…」


「…虫対策しときます?」


「するっ」


「じゃあ、これ。さっきのスプレー。持続型だからまいとけばしばらくは大丈夫かと」


「すぐ自分の部屋やってくるっ!」


自室にダッシュする渚。

そんな姿を見ながら玄関口に置きっぱなしだった段ボールを持って階段を上がる咲希。


「やってきた。ありがと」


「明日ぐらいにちゃんとした虫よけグッズ買いに行きますか」


「そうしようそうしよう。毎日家に入れなくなるのは御免だわ」


流石に毎日これは困るとかいうレベルではないので明日以降の対策が決定された。

今すぐ外に出ないのはどうせ光があるところは虫だらけであるからである。


「あ、そういえば、その段ボールはいったい」


「ああ、パソコン。頼んでたの届いたよ」


「あ、あの配達人さん、これの配達の人だったの?」


「そうそう」


「パソコンを起動する前にパソコンに助けられた」


「パソコンに助けられる(物理)すぎる」


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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず使うパソコンは、中古ノート5万円ぐらいで十分と思う。てか、無かったの?
[気になる点] 実はたまによく見かけるよな…ゴキ好きの変人… そしてそういう人は大抵極端に頭おかしい… 部屋中ゴキだらけとか、路上のゴキを助けるとかの頭おかしい行為ばっかりする ゴキは実は人間でも食べ…
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