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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
26/177

旧友

「じゃあそろそろ行ってくる」


「てらー。まあ今日客もいないし帰る時に連絡くれればいつでもいいから」


「分かった。でも暗くなる前には帰るよ」


「おっけ。てら」


民宿「しろすな」2階。

いつものように渚を外に送り出す咲希。

本日は渚が稜子と出かける日であるが、咲希は家で引きこもり。

いつもの構図である。

一応お掃除しないといけないという建前はあるが。


「さてと…掃除だけするか」


そのまま掃除を開始する。

それなりに時間はかかるものの、これが終われば後はフリーなので早めにやってしまう。


「えーっと…まあ客いないしゆっくりでいいか」


お客がいないのでお仕事はゆっくりめである。

今のところそこまでたくさんお客が来る感じも無いので。

とか思いながら掃除するかとか思っていると部屋、というか家じゅうに声が響いた。


「たのもー!咲希ー!」


「え、ちょ?」


「2階ー?上がるわねー!」


そのままどたどたと音がしてきたので慌てて外に出てみれば、この前家に突撃をかましてきた美船がいた。


「ちょちょちょ、当然のように上がって来るなっ。ここプライベート空間だってば」


「え、だって咲希下にいないじゃない。上がるしか無くない?」


「呼べよっ、ていうか呼ばなくても入って来た時点で分かってるから待てよっ!」


あんだけでかい声張り上げといて、分からないのはさすがに無い。


「というか、何の用だよ」


「え?いや、ほら、この前は顔見せだけになっちゃったからもう一回来ようかなーって。せっかく久しぶりに会ったんだしさっ」


久しぶりの言葉を聞いたとこでちょっと咲希の顔が曇るが気にして無さそうである。

咲希も一応渚の報告等あったので過去がある以上めんどくさいことになっているのは理解しているが、ちょっと複雑な心境ではある。

だって、知らんのだもん。


「あー、来てもらって悪いけど、掃除するつもりなんだが…あと突然玄関口で大声やめてくれ。今はいいけど客いるとやばいから」


「え?あ、そっか、民宿やってんだっけ?ごめんごめん。普通の家の感覚で入ってたわ」


「いや、普通の家の感覚でもいきなり玄関でたのもーはねえだろ」


「咲希なら大丈夫かなーって」


「どういうことだよそれ」


前回話していた感じといい、今話した感じといい、それなりに親しかったのだろう。

それに、仮にもこの家の飲料周りで契約してる美船の兄の雅彦がいる以上、あんまり無下にはできまい。

と思いつつも、咲希はとりあえず仕事優先であった。


「それで、掃除するんだっけ?」


「そうだよ。日課日課」


「じゃ、私も手伝うわ」


「え?」


「え?」


「え、なんで?」


「なんでって、咲希が仕事終わればゆっくり話せるし、遊べるじゃん」


なんでそんなこと聞くのみたいな顔してる美船。


「…まあ、じゃあそういうことなら、手伝ってもらおうか」


相手から協力を申し出てきたのならいいかという感じで受け入れる咲希。

やらないといけないことが減る分には大歓迎である。


「よし、任せなさい。あ、手荷物この辺でいい?」


「ん、別にどこでもいいけど。まあ2階なら取る奴なんていないだろ」


「じゃあこっちの部屋に」


「いや、そっち私の部屋だから」


「どこでもいいって言うから」


「今の流れで部屋移動するとは思わんだろ。…そっちの部屋置いとけよ」


「あ、こっち?リビングだっけ?オッケー」


何故知ってると言いかけたが、かつて家に来てたのかもしれないと思いとどまった。


「よし、準備オッケー。何すればいい?」


「お掃除」


「分かってるって」


「じゃあはいこれ」


そのまま箒を突き出す咲希。


「それ使って1階の廊下とキッチンあるとこの床とりあえずお願い」


「うっわ広い。毎日やってんの?」


「そうだけど。家事は渚に任せてるからこれくらいやらにゃ」


「ふーん…分かったわ。ゴミはどこに?」


「塵取りも渡しとくからそこに入れといて。終わったら呼んで、トイレいるから」


「トイレね。おっけー」


というわけで内心ほぼ初対面の相手に掃除を押し付ける咲希であった。


□□□□□□


「さきぃ…」


「どうしたん」


「つかれたー」


「えーまだ残ってるんだけど」


「掃除しに来たわけじゃないもん!」


「まあそうだろうけど。言葉に甘えたけど」


「あと細かいってー姑さんですぅ?」


「一応人使う場所だし下」


「んにゃぁー」


なんかだるだるになって1階のソファーに倒れる美船。

それを見て咲希も座った。

先ほど言っていたようにそこまで今日は急いでない。


「そういえば…えっと、美船、さん?」


「ちょ、さんいらないって。美船美船」


「んーじゃあ美船。結局ほんとに今日何しに来たのさ」


「ん?ほんとに遊びに来ただけだーよ。だってさ、せっかく旧友がいるんだから、来たくもなるでしょー?」


「旧友って…ぶっちゃけほとんど覚えとらんのだけど」


ぶっちゃける咲希。

ほとんどどころか記憶にございません状態である件については考えてはいけない。


「だいじょぶだいじょぶ。私が覚えてるから。女っ気低めの咲希のことは」


「すごい侮辱された気がする」


「安心しなって、昔からだからね」


「安心する要素無くないか」


昔から咲希はこうだったらしい。

ということは昔からお洒落とは無縁であったのだろうか。

そうなのだろう。


「それにー…見たところ、どうせ咲希また家にずーっといるんじゃないの?」


「え、何で知ってんの」


「だってそれも昔からだもん。そう簡単に変わらないでしょ」


事実である。


「だから連れ出しにきたってわけよ。咲希が本格的にもやし化する前にー」


「もやしって…いやまあ、ほとんど出ないけど家…」


何度も言うが、出れない面も一応ある。

言い訳の材料にしてる節がかなり強いが。


「でしょっ!だから一緒に遊び行こっ!外に!」


「ちょちょちょ、引っ張るな引っ張るな」


振りほどいていいのか分からなくて困惑する咲希。

女子免疫0なのでこういう時の対処は知らないのである。

今自身が女であることは置いておく。

しばらくしてから手は離された。


「というか遊びに行くってどこ行く気だよ。何にもないんだろこの辺」


「…海?」


「考えてなかっただろ」


「ばれたか」


「そりゃばれるだろ」


「まー最悪電車に揺られれば遊ぶ場所なんてどこでもあるって!」


実際数駅行けばそこそこ大きな町だの、温泉街だのあるので、遊ぶ場所を求めればその辺になるだろう。

ただし、電車の本数的に帰れるのが数時間後なのは確定するが。

ちょっと遊びに行くは無理である。


「そんなに家空けれないから…」


「むーそんなじゃ家出れないじゃん」


「いや出るとも言ってないし…」


「まあ、いいわ。なんか行くとこ決まったら連れてけばいいもんね!」


「私の同意は」


「おっけーだよね当然」


「選択権」


「忙しくない限りは無い」


横暴な気もするが、拒否られて引き下がる程度では咲希は外に連れ出せまい。

アプローチとしては正しい。


「…昔っからこんなだった?」


「…割と?」


「おおう…」


そう言われると何も言えない。

過去がそうならこの対応はどうしようもない。


「…まあ、今日は無理だから。準備も何にもしてないし」


「ま、いきなり引きずり出すのは勘弁するとして、その代わり今度連絡するから…ほら、連絡先教えて!教えて!」


「引きずり出すって言ってる相手に教える奴いる?」


「咲希」


「断定ひどくないか。…まあいいけど」


「あ、どうせだから電話とメールとアプリの方もお願いね!」


「全部かよ」


というわけでスマホの連絡先と呼べそうなものをすべて交換する2人。

と、そこまでやったところで美船が少し申し訳なさそうな顔になる。


「…というか、こんだけ喋っといてあれなんだけど…お仕事いいの?」


「え、今更?」


「今更だけどさー。だって、お仕事ならやった方がいいでしょ?」


「まあ…今日はお客いないしゆっくりでもいいから別に。いつ次来るか分かったもんじゃないし」


「…咲希、今までお客何人来た?」


「2人?いや3人か」


組的には2組である。


「咲希、広告とか出してる?宣伝してる?」


「いや?口コミ?」


「ちょ、それいつか生活立ち行かなくなるって。なんかした方がいいって。こういうとこ認知度って結構生命線じゃないの?」


「と言っても何すればいいのやら…て感じなんだけど」


ど素人故致し方なし。

先人の知恵を借りようにも既に死んでいるようなので無理である。


「うーん…ネット上でならうちの兄貴ならやり方知ってると思うから聞いてみよっか?」


「いいの?」


「いいわよいいわよ。なんだったら兄貴連れてこればいいし」


「それはちょっとなんか申し訳ないんだけど」


「気にしない気にしない。可愛い妹の頼みくらい無理矢理でも聞かせてやるって!」


「それは可愛い妹と言っていいのだろうか」


「まあそこは置いといて、じゃあ今度兄貴ここによこすから、その時にやってもらって。あ、パソコンある?」


「私用のならあるけど」


「じゃあ問題ないね。また言っとく。あ、時間帯いつならいいとかある?」


「…今くらい?」


「お昼くらいね。分かった。兄貴に伝えとく!」


実際、これしか収入源無いので、客来なくなったら死ぬ。

そう言う意味ではこの提案は受け入れる理由以外は特になかった。


「じゃ、咲希とりあえずお仕事やってきなよー。その後ゆっくり私のこと思い出させてあげるからさっ。今度は忘れないようにね!」


「多分もう忘れない気がする」


少なくとも記憶から消えることは無いだろうなと思う咲希であった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 2度目の襲来。 最初は飲料宅配のお兄さんだったのに有能さが+されていく? 咲希さん、水着フラグ? 今の時期はしろすなは大変ですね。
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