アクシデント
予約投稿遅れです。
失礼いたしました。
「じゃあ渚。準備いいか。いつでも打ってきていいぞ」
「うん。じゃあ、始めるね」
渚がボールを上にあげる。
流石に明人からサーブだと余りにも厳しすぎるとのことでとりあえずサーブ権だけは貰った渚である。
そしてそのまま振りかぶったラケットを振りぬいた。
「…あれ?」
そのままボールは下に落ちる。
ラケットは華麗にボールを掠め、空を切っていた。
要するにそもそも当たらなかった。
「渚ー。今のミスにカウントしなくていいからー」
「うん。分かったー」
それを見た相手の明人がそんな言葉を投げかける。
まあそもそもあまりまともにやったことないと言っていたのを聞いているのでその辺は温情であろう。
そのまま落ちたボールを拾い、もう一度上にあげてラケットを振りぬく。
「あ」
ラケットにボールが当たった衝撃が渚の腕に伝わる。
確実に当たった。
が、その後のボールは直線でそのまま斜め45度方向へと飛び出した。
アウトである。
初心者はサーブが普通に難しいので仕方ないのだが。
「いやぁー久しぶりだからかなぁ。全然飛ばないね」
「渚、ちょっと待ってくれ」
それを見ていた明人が自分の側のコートを離れて渚の方へとやってきた。
「えーとまずボール上げた後の構えはこう」
「えーっと、こう?」
「あーまず足がこう」
「こう?」
「そうそう。で、手がこう」
「こんな感じ?」
「えーっと、こう」
スッと渚の裏に回った明人が渚の腕に対して手を伸ばし、構えを修正する。
「こう腕曲げて」
「うんうん」
「こうやって上に伸ばす。前じゃないぞ。上に」
そのまま渚の腕をつかんで操作する明人。
「ボール上げたらこんな風に曲げて伸ばす。あとは体の向きを合わせれば入るさ」
「成程。こういう感じか。ありがと」
とそこまで話したところで明人がパッと腕を離した。
そしてそのまま後ろに数歩引いた。
それを見た渚が明人を不思議そうに見つめる。
「あれ、どうしたの?」
「い、いや、体勝手に触ってたから、嫌じゃないのかなって」
左右に目が泳ぐ明人。
あ、と何かを納得した感じの表情の渚がそれに答えた。
「ううん、大丈夫だよ。気にしてないから」
「そ、そうか?ならいいんだが」
どこか安堵した表情を浮かべる明人。
それに対し、やっぱ気にするんだなとか思う渚。
元の性別的にその辺は分かる。
「よし、じゃあ続きやるか。俺が戻ったら打っていいから」
「うん。分かった」
そして再びテニスを再開する2人であった。
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「よし、1回ボール集めるか」
「そうね。もう球無いし」
「分かったー」
「じゃあ集めたのここの中に入れてってくれ」
それから数十分後。
入れ替わり立ち代わりプレイを続けた結果、明人が持ってきていたボール一式を全て使い切っていた。
辺りに散乱しているため、一度集めることにしたようである。
それぞれ思い思いの場所に散ってボールを拾い始める。
「よいしょ…っと」
渚が中央ネット付近で身を乗り出している。
中央付近のボールを集めることにしたらしい渚であるが、当然先ほどまでゲームしていたコートであるので、その中央部分にはネットがある。
ボールはネットを挟んで両側にあるので、それらすべてを集めようと思うと、一時的にネットを上げて下からこちら側に通すか、上からとるか、回り込むかということになるのだが、どうやら渚は上からとるのを選択したようである。
「よし取れた」
そんな感じで上から逆側に落ちているボールを拾っていく渚。
微妙に奥にあるボールも少しつま先立ちになったりすることで手間取りつつも回収していく。
「…」
そしてそんな渚を見つめる一人の男。
渚が向いている方向に対して後ろになる場所でしゃがんでボールを集めていた明人であるが、ふとした拍子に渚を見た。
で、見えた。
何がってそりゃまあなんかスカート下に見えてるのでつまりそれである。
今日の渚は正しくスカート。
なんかその下にバリアがあるわけでもない。
見られた時の対策とかしてないし、考えてない。
つまり見えてる。下着が。
特にさっきからつま先立ちになってる瞬間とか、明人の視線がしゃがんでる関係で低いのもあってぶっちゃけもろ見えである。
明人サイドも見えちゃった衝撃で固まってるといった感じである。
まあ見えちゃってるのをそのまま享受してる面もあるが。
「…あっ」
そしてそんな明人から少し離れた場所でボールを拾っていた稜子。
目の端に映っていた明人が何故か動きを止めたのを不思議そうに見た。
そして固まってる明人の目線を追えば嫌でもまあ気が付く。
それを確認した稜子がつかつかと明人に寄った。
パンと乾いた音が響く。
「えっ!?」
その音に渚が後ろを振り向いた。
そこには頭を押さえる明人と、呆れた顔で渚を見る稜子がいた。
手刀を食らったようである。
渚は何が起きたのかよく分かっていない。
「渚。ちょっとこっち来てくれる?」
「え?うん」
そんな渚を稜子がコート隅、明人から離れた方へと誘導する。
明人はまだ悶絶していた。
結構強めにやられたようである。
「…渚」
「何?稜子ちゃん」
「…」
「ひゅぃっ!?何するの!?」
「やっぱか…」
コート隅にて明人からは絶対に見えない角度で突然スカートを一瞬上に持ち上げられた渚。
突然の稜子のスカート捲りである。
変な声がでたのは驚いたからである。
「渚、あんた下そのまんまでなんで来るのよっ。せめて下着の防御するべきでしょ」
小声で渚が突っ込まれる。
「え、いやその、これしか持ってないから…スコートとか持ってないし…」
「そうならそうで、スカートやめなさいよっ。思いっきり見られてたわよ!」
「え?あ」
頭を押さえる明人と自分の位置関係を理解したのだろう。
ちょっと顔が赤くなった。
見られる予定は無かった。
あってもおかしいが。
「ったく、見る方がそりゃ悪いけど、見られないような対策しなさいよね」
「だって、スカート以外ってショートパンツくらいしか持ってないんだもん…!」
「見られるよかましでしょうに」
「肌晒す面積ふえてる感じしてやだもん!」
「…はぁ。渚。明日服見に行くっていってたわよね。…スコート、買いましょうか」
「…そうする」
明人は涙目でボール拾いを再開していた。
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そのままテニスを夕方くらいまで続けた3人。
疲れもある程度たまり、暗くなる前に帰ると言っていた渚もいたので、お開きとなった。
丁度いいので帰り道で連絡先だけ交換した。
「じゃあ、私はこの辺で。じゃあね2人とも」
「またねー」
「またなー」
稜子が途中の道で離脱していく。
「2人ともすごくテニス上手かったね。でもやっぱり2人とも凄いね。私なんか全然だったよ」
「はは。ありがと。でも渚もほとんどやったことないって言ってたけど、打てるようになってたじゃないか。また一緒にやろうな」
「うん」
そんな感じで明人と渚で会話しながら民宿兼住居の「しろすな」までたどり着いた2人。
「じゃ、また今度遊ぼうな。また連絡する」
「うん、それじゃあ、またね」
「ああ、またな!」
そう言うと明人が「しろすな」の入り口から歩いて去っていく。
その姿を見送る渚。
そしてそれを見送り終わって帰る時にふと疑問が渚の頭をよぎる。
「…あれ、神谷君って、家、こっちだっけ?」
そうそれである。
明人の家はぶっちゃけ真逆のはずである。
「…もしかして、送ってくれた?」
そんなことを1人つぶやく渚であった。




