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看板娘始めました  作者: 暗根
EXTRA
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覚悟

「明人君明人君。そういえば、次出かける日にちを決めたのはいいけど、どうやって目的の遊園地まで行く?」


「…あぁ、確かに、行き方決めてなかったな」


「電車とかだと弾丸遊園地デートになっちゃうよね。せっかく遊園地乗り物一本とか二本しか乗れなかったらちょっと残念だね」


「それは嫌だなぁ…ただこの辺足になるものが…」


「ないよねぇ…頼みの綱が電車だもんね」


「電車止まるとどこにも行けないからな」


「はぁ、免許が欲しい、車が欲しいよ」


「まだ取れないから…」


「過去に一度とってるのに無くされてしまった現実。辛い」


「ああ、そうか。取ってるのか。…渚が車かっ飛ばしてるのなんかすごい構図だな…」


「そうかな、私は車運転するの好きだったよ」


「そうなのか。…いや、その、渚、今は凄い女の子っぽいから…」


「確かに…でも車を軽やかに運転できる美少女って良くない?」


どや顔をかます渚。


「それ、可愛い系よりもクール系じゃないか?」


「それはほら、免許取れる歳になったらクール系になってるかもしれないし」


「渚はそのままでいいよ。というかそのままでいてくれ」


「頼まれると真逆のことしたくなる。そんなあまのじゃく的な気持ちが沸き上がって…」


「というか渚はそのまま行くだろ?変わらないよ多分」


「そ、そんなことないよ!か、変われるよきっと!多分!」


「ははは、まあ、頑張れ?」


「ああ、でもなぁ、電車しかないよねぇ」


「そうだよなぁ…新幹線使うにしても通ってるとこまで行くのが電車だしな…」


「そもそも新幹線使うところまで行ったらゴールだけどね。新幹線なんて乗ったら反対側の夢の国まで行っちゃうよ」


「確かに」


「あーでも弾丸デートは嫌だな…あ、そうか。泊まりなら弾丸じゃなくてもゆっくりできる」


「泊まり?ああ、泊まりか。確かに?というかあそこまで行くなら泊まるしかないか…」


「高校生だけで泊まりとかできるのかな」


「ちょっとまた調べてみるよ。流石にわざわざ遠くまで行くんだし、ゆっくりデートしたい」


「だよねえ。私もせっかくの遊園地ならゆっくり回りたいな。私も調べてみるね」


「頼んだ」


いったんそこで会話を止めて、2人で洗い物へと集中する。

いつもの作業だが、今日はそこそこ量があるので。


「そういえば、渚」


「なあに?」


「いや、あのさ。…こう考えると、俺たち結構デートしたなって」


「確かに、結構いろんなところに行った気がするね。いっぱい行ってるけど、毎回毎回新鮮ですごく楽しいよ」


「そ、うか。それならいいんだけどさ。…」


「どうしたの?」


ちょっと近づいて明人の顔をのぞき込む渚。

それに気づいた明人が皿を落とす勢いで飛び上がった。


「うわっ!」


「うわあ!何?どうしたの!?」


「いや、渚の顔に驚いて」


「え、私の顔に驚くって何?待って、なんかついてる?」


「ああ、いやいや、そう言う意味じゃなくてっ!単純に意識の外から急に来たから驚いて」


「ああ、そういうことね。えへへ、ごめんね。明人君の言葉がしりすぼみになったから気になって」


「ああ、いや、何でもないよ。ほんと」


「どしたの顔赤いけど」


「え!?…赤い?うわ、熱いほんとだ」


「え、自覚無かったの?」


「全く。え、そんなに顔赤い俺?」


「うん、なんかいつにもなく、赤いよ?大丈夫?」


自然と手をおでこに伸ばす渚。


「うぃ!?」


「ぅあ!?へ、何!?」


「え、あ、いや、渚の手が触れて驚いただけ。ほんと」


「ごめん。熱があるのかと思って」


「いや大丈夫。ない、ないはず」


「そう?じゃあなんでそんなに顔赤いの?」


「…なんで、だろうな」


「私下着とか透けてたりしないよね?」


「それ、俺もっと取り乱すぞ多分」


「そうだよね。見えそうになってたら教えてくれるもんね」


「その言い方だと俺変態みたいだな…」


「むしろ変態から護ってくれてるから感謝です。自衛能力は私にはまだないみたいだから」


「とりあえず渚は何も悪くないから。大丈夫。驚いただけなんだ」


「何も悪くないって言われた時の悪くない確率って少ないよね。ほんとに大丈夫?私が言うのもなんだけど」


「大丈夫、ほんと」


「…もしかしてさ、照れてたりする?」


「え?…あ、いや」


「じょ、冗談だよ冗談!照れるんだったらもっと前から照れてるよね。今更照れるなんてないか」


「ま、まあそうか?」


「だよね。だよねー。変なこと聞いてごめんね。私の方が熱くなってきたかも…」


「それは自爆だ。いや、ごめん、驚きすぎた。仕事戻ろう」


「そうだね。戻ろう戻ろう」


□□□□□□


隣で洗い物をする渚を見てふと思う。

やっぱり渚は可愛い。


…今更なんだと自分でも思う。

もともと、最初から渚は可愛かった。

でも、どうも俺は、それに鈍かったみたいで、ずっとそれを気にしないでここまで付き合ってきた。

恋人になると宣言したあとも、そこについて俺が考えることはあんまりなかった。


いや、客観的に見れば可愛いということは分かってはいた。

外を一緒に歩けば、嫌というほど、男の視線が飛んでくるのを俺までも肌で感じる。

一人で待ってればナンパされることも数知れず。

間違いなく、渚は魅力的な存在なんだと。


ただ、やっぱり2人でいるとそれを意識する機会はあまりなかった。

喋ってると忘れてしまう。

渚と2人でいる時間は何者にも代えがたいほど愛しくて、それだからこそ、あんまり外見的なところまで俺の目が言っていなかったのかもしれない。


でも、今は違う。


きっかけは先日の啓介の何気ないカミングアウトに過ぎない。

『キス』したことないのか?という一言は強烈な打撃を俺の脳天に与えた。


いや、あの、そもそもキスどころか、一緒にいる以上のことをほぼやってない。

満足してしまっていた。

この心地よい空気に。


渚と俺は『恋人』になったのにも関わらず、だ。

これじゃ友達時代と何にも変わっちゃいない。


渚は、こんな不甲斐ない俺に、自身の秘密を打ち明けてまで一緒にいてくれている。

…ああ、まあ流石に、非現実的な話過ぎてちょっと驚いたけど、それでも、渚がウソを言うとは思って無い。

むしろ、あの話が本当だとするならば、…渚、あえて『彼』と呼ぼう。

『彼』は元々の性別という壁を壊してまで、わざわざ俺の横にいてくれることになる、

きっととてつもなく大変であったはずなのに、だ。


だとしたら、今の俺は、あまりにも何もしなさすぎなんじゃないか。

むしろ、啓介のように、もっと積極的になるべきなんじゃないか。

それに、一度そうやって意識したら思ってしまった


俺も、渚と、キスしてみたい。


――でも、どうするべきなんだろうか。


キス。

…急にやったら、渚は可愛い反応してくれそうだけど。

それはちょっと見てみたい。


だけど、だが、やっぱり渚は可愛いんだ。

ちらりと横に目をやる。

渚はこちらがこんな風に思っていることなんて露知らず、洗い物を進めている。

…女の子らしい長い髪。

奇跡的なレベルでまとまった、可愛らしい顔。

整った鼻、綺麗な目、瑞々しい唇。


…自惚れだって言われてもいい、やっぱり、俺の知る一番かわいい女の子、彼女、それが渚だって自信を持って言える。


でも、だから、やっぱり、意識すると、急に恥ずかしい。

渚は可愛い。

可愛いし、気兼ねなく話せる相手。

俺が一緒に居たいと思える相手。

健気で俺のためにって色々やってくれる相手。

…だからこそ、恥ずかしいのかもしれない。


それに、下手にそう言ったことをやって、この、今の関係が壊れるのが…一番怖い。



ふと、目があった。

物思いにふけりながら、渚を眺めていたら、渚がこっちを向くのを気づかなかった。

努めて自然に、目を逸らす。

…大丈夫、多分バレてない、と、信じたい。


心臓が高鳴るのを体で感じる。


最近の渚はずいぶんと女の子らしい雰囲気を纏うようになった。

いやもともと女の子ではあったんだけど、なんだか、俺の好みに刺さるというか…

勘違いかもしれないけど。

でも、実際、渚を見て、ドキッとする場面が増えてるのは事実だ。

…普段なら、そんなことを感じても、話してるうちに忘れてしまうのだが、今日はどうも、そういうわけにもいかなかった。

今日の俺はまだ、渚を直視できていない。

意識してからというもの、ずっとだ。


それでも、俺がきっと進まないと、ずっとこのままだ。

この心地よい空気を壊したくは無い。

だけど…渚と恋人になったのに、何もできないのは、嫌だ。

俺も、渚の特別であってほしいから。


□□□□□□


そのまま何事もなく帰りの玄関口。


「今日もありがとうね」


「ああ…」


「そういうば今日ほんとに大丈夫?なんかいつもと様子が違ったけど」


「…やっぱり、おかしかったか?」


「うん、だって今日言葉数が少なかったし、なんか悩んでる感じの顔してたから。何か悩んでることでもあるの?」


「…やっぱ分かるよな。…うん、あるよ」


「そっか…じゃあ少しだけそこのソファで話さない?私、お茶持ってくるよ」


「渚、あのさ。俺の悩み、聞いてくれる気はあるか?」


「当たり前じゃん!だって、大切な友達だし、それに、その…大好きな、人、だし…」


「…そっか、俺も、渚のこと、大好きだし、一番大事だ。…渚、俺の悩み聞いてくれるって言うなら、少しでいい。少しだけ、そこで目、閉じてくれ」


「わかった…閉じたよ」


そのままスッと目を閉じる渚。

しかし、そのまま明人から応答が無くなる。


「…あの、閉じたけど、大丈夫?」


その時、渚の唇に、何か柔らかいものが触った感覚が走った。

渚が驚いて目を開けば、明人の顔が目の前にあった。


「…ごめん、俺、こういうのヘタレだからさ。ムード作るとかできなかった。…それでも渚と一回、やってみたくて」


「…えっと、その…ふえっ」


顔が赤くなる渚。

明人は既に真っ赤だった。


「あの、えっと、今のは…」


「…キス、したかったんだ。恋人、だし」


「うん」


「ごめん、驚かせたよな。…一日中悩んでたんだ。俺が渚にこういうのしていいのかなってさ」


「…そう、だったんだ。これが悩み…そっかぁ…そっかぁ…よかった」


「え?」


「あのね、もっとすごい何か重たい話をされると思ってたから、まさかこんなことになるなんて思ってなくて、ちょっと驚いちゃった。でもね、今私すごく嬉しい」


「…嫌じゃ無かった?こういうの」


「嫌なわけないよ。凄く嬉しいよ。むしろ気づけなくてごめんね。緊張したでしょ?」


「まだ、若干足が震えてるかな…」


「ほんとだ!ありがとう。頑張ってくれて」


そう言いながら明人をゆっくり抱きしめる渚。


「明人君…」


明人の目を下から渚が見上げる。

目と目があった。

渚が少しだけ笑みを浮かべると、明人の唇に渚の唇が重なった。


「っ!?」


ぱっと渚が明人から顔を離して、ほほ笑んだ。


「悩みは無くなった?」


「…綺麗さっぱり。ありがと、渚」


「うん、こちらこそ、ありがとう。えへへ。付き合ってもう何か月も経つのに、確かに今までキスもしたこと無かったね」


「…ずっと渚がいるだけで満足してたんだ。…でもさ、渚の彼氏になるって言いきったのにこれじゃ駄目だろって思って…」


「そんなことないよ。私も明人君が隣にいてくれるだけで、すごく幸せだし、それこそ、キスも何もしなくたって、私はずっと満足してるよ。だからね、そんなに焦らなくてもいいんだよ。明人君には明人君のペースがあるんだから、そこを無理する必要もないし、私はちゃんと待ってるから安心して」


「…ありがとう。渚。渚が彼女で良かったよ」


「ふふ、本当?私も明人君が彼氏で良かったよ」


「こんな不甲斐ない俺だけど、これからも、一緒に、いて欲しい。…恋人みたいなことするのは時間かかると思うけど…それでも」


「うん、一緒にいるよ。私は明人君が隣にいてくれるだけで幸せだから。それに、私こそ、あんまり察してあげられないかもしれないけど、よろしくね」


その言葉に2人はほほ笑み、唇を重ねた。



書き溜めが無くなったので不定期更新に戻ります。

ご愛読ありがとうございます。

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[一言] 遂にキスにたどり着いた。
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