変化
ある日の民宿「しろすな」昼頃。
咲希がリビングのソファにて携帯をいじっていた。
そこに昼食の洗い物を終えた渚が歩いてきた。
「ん、あー渚。また客来るってー」
「え、ああ、そうなの。いつ来るの?」
「明後日ー」
「明後日ね。分かった。何人来るのかとかまた後で教えてね」
「あい。ん、というかなんか今からやるのか?」
「え、別に何も無いけど」
「じゃあ今聞いてけやめんどくせぇ」
「ええーだって洗い物終わったんだよ。ゆっくりしたいじゃん」
「いや人数聞くのってそんなに労力か?」
「んーなんか考えたくないだけかな」
「なんだそれ。とりあえず5人ね」
「5人ね。分かった。5人かぁ…買い物行くの大変そうだな」
「明人とやらに手伝ってもらえばよかろうて」
「明人君は荷物持ちじゃありません」
「ええやん。彼氏なら彼女の荷物くらい持つんじゃね?」
「別にこき使いたくて彼女してるんじゃないんだもん」
「いやまあそれは知ってるけど。最近の行動見ててもわかるし」
「え゛分かるって何が?」
「いや、なんか何、雌になったよなぁって」
「雌って言い方!落ちてないもん!」
「それ落ちとるやつのセリフやで」
「それ言うなら咲希姉の方が落ちてるでしょ」
「ん、まあ、ずぶずぶだけど。否定しないよそこ」
「否定されないと否定されないでなんかムカつくぅ」
「事実だし。お前も頑なになる必要あるんけそこ?」
「何が?」
「いや落ちてるって話」
「人に言われると認めたくないってそれだけ」
「ああじゃあ自覚はあるんだ」
「それはまあ…もちろん、あるけど。咲希姉に言われるとなんか恥ずかしいし…」
「お、顔赤い」
「うるさい!」
「ふふ…いやなんかお前ほんとに変わったなぁ?すげえ今の妹っぽい」
「なんでさっきからにやにやしてるの。怖いんだけど。そんな変わった?」
「だってさ、俺ら2人の時って割と前は対等に喋ってたじゃんね。今のお前みてると完全に思春期で恋してる妹にしか見えんもんな。だから変わったなぁって」
「そ、そんなに、変わった?嘘!?うそでしょ!?」
その言葉に慌てたように、顔をぺちぺちしてみたり、おもむろに携帯の画面を鏡代わりにして顔を確認したりしだす渚。
その様子を見た咲希が余計噴き出した。
「いや、顔は変わって無いけども」
「わ、わかってるよ。でも言われたら確認したくなるのもサガ何だよ。そんなに変わったのかな。明人君にも同じようなこと言われたし」
「いやー毎日会ってる俺が気づけるって相当やで多分。明らかに言動というか行動というか、なんというか、恋する乙女だよなぁ」
「そんなしみじみとした顔で言わないでよ、恥ずかしくなってくるじゃん!」
「そう言う反応見てるとこっちもなんか姉っぽく振舞いたくなるよね」
「振舞わなくても咲希姉は咲希姉じゃない?姉っぽくするってどういう風にするの」
「え、いじらしい妹見てニヨニヨする」
「それは姉では無くてもできると思う。というかなんで私だけニヨニヨされないといけないの。咲希姉もなんか恥ずかしがるようなこと無いの?」
「え、例えば何があるよ」
「ほら、大月さん関連で」
「ええ…?恥ずかしいこと?…別にやるこたやってるけど恥ずかしいわけじゃ無いしなぁ」
「なんでそんなサラッというの!もっと恥じらいを持って言いなよ!なんだかこっちが恥ずかしがってるのが馬鹿みたいじゃん!」
「いやだからそう言う反応がいちいち思春期少女っぽいよねっていうかそう言う感じ」
「でも確かに言われてみれば…なんでいちいちこんなことに突っかかってるんだろう…前ならスルー出来た気がするのに」
「前ならスルーどころか俺がスルーできない話振られる側だった気がするけど」
「それは、そうなんだけど、でも、今はもうしてないでしょ!する話も無いし」
「そういやそっち方面まだなんだっけ?」
「そっち方面ってどっち方面の話?」
「そら下の方やろ。前のお前が好きだった方だよ」
「言い方に悪意を感じる…!してないけど、何も…なんならキスもまだですけど…それが何か!」
「え、キスもまだなの!?あんなにディープなのしてたのに!?」
「いいいい、言わなくていい!してないよ!するわけないじゃん!ていうかできないんだよ!」
「え、なんで。技術が失われたわけじゃ無いんだろ?」
「技術は、いやしたことないから分かんないけど。する機会が無いというか、しなくても満足するというか…」
「ほーう、なんかすっごい清い交際してんね。以前のお前に見せたりたいわ。肉欲におぼれていた時代のお前に」
「う゛…確かに、ほんとに頭痛くなってきた。でも、私だってこんなに清くなるなんて思ってもいなかったよ。でも、そう言う欲が湧く前に満足するっていうか、なんかよく分からない気持ちに満たされるというか…」
「幸せいっぱいってことですね。よかったよかった。すっげえ絵にかいたような美しい高校生カップル感ある。実際見てくれは超美女とイケメンだけど」
「まあ、そうだね…恥ずかしぃ…なんでこんな初心な反応してるんだろう…」
「それな。というか渚になってからそう言う経験まで消滅したか?反応がなんかいちいち初心いんだよね最近のお前」
「別に消滅はしてないと思うけど、思い出そうと思えばある程度までは思い出せるし、そういうことをしたって記憶はずっと残ってるはずなんだけど、どうしてもそういう場面に直面すると体が言うこと聞かなくなるっていうか、感情がぶれるというか…とにかく言うこと聞いてくれなくなるんだよね」
「恋してんね」
「ほんと、これが恋ってやつなんだね。今まで私が恋だと思ってたものが霞むくらい振り回されてる気がするよ」
「行動が恋愛初心者って言う感じあるな。なんかやったらそわそわすること増えてる気がするし最近」
「そんな、そわそわしてる?え?いつ?」
「だいたい明人と会う前?」
「そんな分かりやすかった?」
「普段はそうでもないけど、外に遊びに行くーとかなると結構分かりやすいよな」
その言葉を聞いてまた顔が赤くなる渚。
「お、茹蛸いっちょ上がりだぜ!」
「うううるさいなぁ!私だってこんな反応したくないよ!でも、女の子側がこんな気持ちになるなんて私知らなかったんだからしょうがないじゃん!こっち側初めてなんだもん!」
「いや初めてじゃ無かったら怖えよ。いやーでもしゃあないしゃあない。女の子だからしゃあない」
「よく分かんないんだけど…まあそうだね、変わったのかもしれないね。まあ今更もとの自分に戻る気なんて無いけどさ。戻りたくも無いしね。あんな人」
「あんな人呼ばわりは流石に草生えるんですけど」
「うんまあでも今考えるとありえないなって思うんだよね。別にそのこと自体が悪いとは思って無いけど、今この状態からああいう状態になりたいとは全く思わないかな」
「まーそりゃねえ。ちゃんと好いてくれる人いるっていいよねぇ」
「うん…そうだね」
「ま、とりあえず、幸せそうで何よりです」
「それは、どうも」
「…そういえば、今日のお昼なぜか弁当箱で出てきたけど、また何か企んでる?」
「…!別に企んでるわけじゃ無いけど…明人君にあげるだけだし」
「お!超献身的彼女ぉー!」
「や、やめろぉ!そう言うの言うの良くないから!やめて!」
大慌ての渚であった。




