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看板娘始めました  作者: 暗根
EXTRA
171/177

ぐいぐい

ある日の渚の部屋にて。


「よし、ぐいぐい作戦第一弾。やるぞっ」


また変なことを一人で呟いている渚。

前来ていたお客さんから聞いた話で無駄に明人を意識した結果である。


「って言っても何やればいいかよく分からないんだよね。何しよっかなぁ。デートはもう散々してるしなぁ」


結局勢いで言ってみたはいいものの、特に何か妙案があるわけでは無い。

ただちょっと、明人に対して押してみようと思ってるだけである。


「うーん…うーん…はっ」


悩み顔からハッと何かを思いついた顔になる渚。


「情報収集だっ!好みを把握すればこの状況を打開できる気がする!情報が一番集まってる場所と言えば…部屋!よし決めた、明人君ちに行こう!」


というわけでさっそく明人に連絡を取ってみる渚。

この辺は思い立ったが即行動である。


『あのさ、今度明人君ちに遊びに行ってもいい?』


1分も経たないうちに明人から返信が返ってきた。


『いいよ。いつ来る?』


『明人君の都合に合わせるからいつでもいいよ』


『そっか、ええとじゃあ3日後とかどう?』


『分かった。3日後ね』


『時間はお昼くらいでいい?いつもみたいに』


『いいよ。直接行けばいい?』


『ああ、直接来てくれれば。それとも迎えに行こうか?』


『近いからいいよ』


『分かった。じゃあ待ってる。3日後な』


『うん、楽しみにしてるね』


□□□□□□


というわけで3日後。

明人の家にて。


「あ、これ、作ってきたからあげるね。お土産」


「え?お土産?ありがと嬉しい」


中身はいつぞやか作ったような記憶のあるガトーショコラであった。

既にマスターしてた。


「それにしても渚、家に来たいなんて珍しいな?」


「なんというか来てみたかったんだよね。ほら前に一回来たことあったけど、それ以来来てなかったし、偶には私から行きたいなって思ったんだよね」


「そう?まああの時とほとんど変わって無いし、そもそも面白いもの何にもないと思うけど…」


「そんなことないよ。人の部屋って自分の部屋と違うから新鮮だし」


と言いながら何やらキョロキョロしている渚。

まあ一応今日来た目的は情報収集であるため。

一般的な勉強机に本棚にベッド。

机の脇にラケットが数本置いてある。

本棚にはやたらめったら参考書だの問題集だのが詰め込まれていた。

その他娯楽と言えそうなものがあまりない。


「あれ、何これ?トロフィー?」


渚が指した先にあったのはいくつかのトロフィー。

本棚の空いたスペースを飾る場所にしているようである。


「ああ、それか?大会の優勝トロフィーたちだ」


「優勝トロフィー!すごいね!こんなにいっぱいあるんだ」


「ああいや流石に全部優勝じゃ無いけどな。準優勝とか3位とかのも混じってるから」


「準優勝でも3位でも十分すごいから!明人君ほんとにテニス好きなんだね」


「体動かすの好きだからな。まあなんでテニスって言われると昔っからやってたからなんだけどさ」


「昔っからって言うけど好きじゃ無きゃずっと続けるのも大変だと思うし、明人君とテニスは相性が凄く良かったのかもね。にしても明人君って本当にアウトドア派だよね」


「え?言うほどか?そんなに旅行とか行かないぞ?」


「旅行?まあ確かに旅行にいっぱい行くのもアウトドアな気はするけどそう言う意味じゃないよ。話を聞けば聞くほど、運動する人っていうイメージが強くなっていくなぁって思っただけ」


「うーん…まあ確かに、暇があれば外に遊びには行ってる気はするな…」


「明人君は漫画読んだり、ゲームしたりする姿が想像できないんだもん」


「まあ、そこまでやったりはしないかな…漫画は置いてないし、ゲームもやって数分とかだし…」


「え、むしろゲームやってたの?」


「スマホゲームはちょっとだけ。それ以外は…ないかな」


「スマホゲームか。私も昔ちょっとだけやってたなぁ懐かしい」


「渚はよくやるのか?漫画というか本はよく読んでるイメージあるんだけど」


「漫画とかゲームはここに来るまでは結構読んでたりやってたりしたけど、ここに来てからは読まなくなったしやらなくなったかな。別に嫌いになったってわけじゃないんだけどね」


「ああ、昔はやってたんだ。あれ、ということは今は渚は普段どうしてるんだ?趣味変わったってこと?」


「変わったのかな?元々読書は好きだし、他にやってることと言えば料理したりお菓子作ったりするくらいだけど、ああでも考えてみるとちょっと変わったかもしれないね。あとは何やってるかな。流行りのコスメのレビューとか見てるかも」


「ああ、なんかすっごい女の子っぽい趣味だった」


「うそぉ!?そんなことないよ。あれ、そんなことある?…ある…あるね。あれ?」


「え、自覚無し!?」


「う、うん、自覚してなかった。どうしよう」


「い、いやどうしようって、別にいいことだと思うんだけど」


「え、ほんとに?ほんとにいいの?どうしようゲームやろうかな」


「いやどうしてそうなる。いいじゃん渚っぽくて」


「私っぽいの?何が?」


「可愛いを追及してく感じが」


「そ、そうですね…」


ジト目で返す渚。

ちょっと明人がたじろいだ。


「あ、ごめん、なんか触らない方がいいとこだったか」


「触れてくれたのは別にいいけど、なんだかなぁって感じなんだよね。ほんと、なんだかなぁ…」


「え、何、何」


渚のジト目がより深くなった。

そもそも誰のためにそんなことやってると思っているのかという話である。

その辺の察しは悪い。


「別にぃ?神谷君が鈍感なのは今更だしね」


「なんか距離感離れた気がする…」


「気のせいだよ気のせい。私はそんな神谷君のことも好きだよ?」


「絶対いい意味じゃないよね!?」


「よく分かったね。でも気にしなくていいよ」


「気にするよ!」


「気にしなくていいよほんとに。私が好きでやってるんだもん。あえて言うなら明人君の発言が斜め上過ぎたのがちょっとうーんって感じだっただけだから」


「なんかごめん。これ以上突っ込むと余計墓穴掘りそうだから黙っとく」


「……ごめんごめん!そんなに落ち込まないで!まあちょっと

私も意地悪が過ぎたかな。じゃあちゃんと言うから聞いててね」


「ああ」


「多分私の趣味が変わったのは、明人君と会ってからだよ。お菓子は明人君に食べて欲しいからだし、化粧を頑張るのは明人君に可愛いって思ってほしいからやってるんだよ。ただそれだけだから。だから気にしなくていいって言ったの」


「え…あ、…俺の?」


明人が赤くなった。


「あ…いや、その、ありがとう?いや違う、なんだ、えっと、あー…」


「ふふふ、明人君赤くなってる、おもしろ」


「そ、そりゃ、なる!なるに決まってるだろ!いや、だって、そうだったら嬉しいけど、そんなことないだろうなって思ってたしっ、赤くもなるよ!」


「そんなことないってどゆこと!?私明人君のこと、すごく好きなんだからね!もう!」


「…ああもう、渚っ!」


抱き着かれた。


「可愛い、可愛すぎ!そういうのずるいってほんとにっ!」


「うんうん。ありがと、ありがと。そう言ってくれるのを待ってたんだよね」


渚も明人を抱き返した。

ちょっと苦笑気味だったが。


「年下っぽい明人君に言われると嬉しさより微笑ましさが勝っちゃうのかぁ。これは想定外…かも」


「え?」


「なんでもなーい」


□□□□□□


それからしばらくして。


「あ、ごめん、飲み物も何にも用意してなかった。ちょっと持ってくるよ」


「ん。ありがと。待ってるね」


明人がそう言って部屋を出ていった。

当然渚は一人部屋に残される。


「よし、やるか」


渚は当初の目的を果たすべく行動を開始した。

今日来た目的は明人の好みを探るための情報収集であるのだから、部屋主がいない今がベストというものである。


「まず定番と言えば…本棚」


そう言って本棚に改めて向かう渚。

参考書や教科書、問題集といったものばかりの本棚である。


「改めてみると本当に問題集と参考書しかないんだなこの本棚…明人君こんなにやってるの?疲れないのかな…」


適当に参考書を一つ引っ張り出す渚。

本のタイトルは『多次元理論概要』


「ナニコレ。分からない。何勉強してるんだろう…」


とりあえずしまう。

見てはならぬものを見た気がした。

別の何か本を引き抜く。

本のタイトルは『誰でも分かる!εδ論法』

渚は見た瞬間にそっとそれを元の位置に戻した。

私の彼氏はいったい何を目指しているのかと心の中で思わずにはいられなかった。


「まあまあ、これはもしかしたら隠れ蓑かもしれないし、実はこの本の裏に隠されてたりとか…」


雑に本を2,3冊引き抜いて裏に何かないか確認する渚。

そこには確かに何かがあった。


「なんだなんだちゃんと明人君も男の子してるじゃん」


そう言って引き抜いた手元にあったのは、

『受験対策難問集数A』


「ごめんね!ちゃんとしてるね!違う!こうじゃないの!なんでこんな普通なのが後ろに入ってるの!逆にしろ逆に!むしろ表に出していけ!もお!」


そう言いながらしまい直す渚。

ちなみに逆にしても結局参考書が奥にしまい込まれるだけである。


「はぁ、本棚ははずれか…じゃあ次は…」


そう言って目線をやった先はベッド。


「ど定番といえばど定番。でもなぁ、そんなありきたりなとこに入ってるのかなぁ」


といいながらベッドに近づき、しゃがみ込んでベッドの下に手を滑り込ませた。

そんな渚の指先に何かが触れる。


「うーん…あれ?何か、ある?」


それなりの大きさのそれは、明らかな紙媒体である。


「なんだなんだ本命はこっちなのね?よしよし」


そう言って引っ張り出した紙媒体。

タイトルは『よく分かる相対性理論』


「…うん、なんかそんな気はしてたよ。そうだよね。期待を裏切らないってそういうことを言うんだよね。分かってた。分かってるよ!」


そう言いながらも改めてベッド下を探す渚。

そんな渚に声がかかった。


「渚何やってんの?」


「うわっ!ーーいたぁ!」


「え、大丈夫か」


「う、うん、だい、大丈夫。大丈夫だよ。な、何かな?明人君」


「何かなっていうか飲み物持ってきただけなんだが、ベッド下に何か落としでもしたか?」


「落としてない!落としてないよ!あ、いや、落としたかもしれない!」


「いやかもしれないってどういうことだよ渚。え、何か探してた?」


「さ、探してないよ。何が?何も探してないけど」


「いやでも意味もなくベッドの下潜らないだろう普通」


「私は普通じゃないからなぁ。ベッド下にもぐりたくなる気分も多分あるんだよ」


「はーい。渚さん、何をしていたんですか?」


「う、弁護士呼んでいいですか?」


「大丈夫やましいことが無ければ呼ぶ必要もない!」


「そ、そうだね。やましくないよ。私何もやましいことしてない」


「じゃあ何してたのかな?」


「……」


スッと先ほど手元に来ていた『よく分かる相対性理論』を突き出した。


「…え?なんでこれ?」


「出てきたから…」


「いや待って意味が分からないんだけど。これ探してたのか?」


「まあ、有る意味?そうなのかな?思ってたのと違ったけど…」


「思ってたのって…ああ、えっと、ベッド下、あーそういうこと?」


「なんで明人君の方が冷静なの?私明人君のそういう趣味知りたがってたってことだよ?」


「いや、なんだろ、これ他の人ならそりゃ引くけど、渚ならそんなに…」


「そっち?そっちなの明人君。自分の趣味がばれる可能性については考慮しなかったの?」


「考慮はするよそりゃ!でもまあ渚なら別にいい気もする…」


「ふーん?じゃあ明人君どういう女の子が好き?」


「え?渚」


「ほら、いいんでしょ?教えてよ」


「え、だから渚だって」


「それは、それ。私が聞きたいのは、もっと本能的な方の好み、かな?」


「本能的な方って…」


「それはもう夜とかに元気になったりとか、朝とかに元気になったりする…」


「言うなよそれ以上!」


「言わないよ恥ずかしいもん」


「そこまで言えるのにか!?」


「前はもっと先まで言えたよ?」


「その情報は聞きたくなかったなぁ…」


「それで?明人君、明人君の好みはどんな子なの?」


「え、えぇ…?」


「それともシチュエーションで燃えるタイプ?なのかな?」


「え?シチュエーション?」


「ほらあるじゃん、何々ものとか何々ものって」


「いやそんな詳しく分けたりしないから…」


「そうなんだ。じゃあどんなのなの?」


「渚、口で言わせようとしないでくれないか?」


「じゃあ見せてくれてもいいんだよ?」


「えー…」


「…」


「…ああもう、分かったよ」


そう言うと明人は携帯を引っ張り出した。


「はい」


「……うん、なんか、ごめんね」


「その反応一番傷つくからやめて!」


写っていたのは水着の女性の一枚写真。

いわゆるグラビアの切り抜きであった。

大変健全であった。

健全過ぎてむしろ罪悪感が沸いた渚であった。


「そっか、そうだよね。私が穢れすぎてた。ごめん、明人君。私は駄目みたいだ。そうだよね、これがあるべき姿なんだよね」


「え…どういうこと?」


「もっとこう男女の営みが写ってるのかと思ったら、あまりに健全だったから、私は私を殴りたくなったよ」


「そ、そう言うのはその、まだ早いかなって…」


「そうだよね、そうだね」


とてつもなく恥ずかしそうな顔でそう言う渚であった。

エロ成分では明人より渚の完勝であった。



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