水着
1年経った夏ごろの出来事。
ある日の民宿「しろすな」にて。
「ねえねえ咲希姉。もうすぐ海開きだって知ってた?」
「ああ、そういやそうだな。シーズンか」
「今度来るお客さんがそんなことを電話越しに言ってた気がする。そういえば隣の砂浜ってちゃんと泳げる場所だったね」
「そりゃ泳げるけども。一応そういうスポットとしてはそこそこ有名みたいだしあそこ」
「咲希姉は泳いだりする?今年」
「あー…去年は余裕さっぱり無かったから行かんかったけど、今年は行ってもいいかもなぁ。近いし、というか真横だし」
「大月さんとはそう言う話しないの?」
「どこそこ行くって話はするけどそういや海の話したことないな。今度聞いてみる」
「なんだろうね。近すぎてむしろ忘れる、みたいな」
「それ。いつでも行けるからいいかとか思ってて結局一度も足を運んでない気がする」
「でもせっかくだから一回は泳ぎに行きたいよね」
「お前海平気だったっけ?」
「そんなに好きじゃないよ」
「駄目やん。でも行くのか」
「行くよ。だって、アピールするチャンスですから」
「何を」
「私を」
「…不特定多数の男どもにか?」
「そんなわけ無いじゃん!神谷君に決まってるでしょ!」
「…ああそういや彼氏持ちになってたわ」
「なんでそこ覚えてないの!いるよ!絶賛ちゃんと彼氏してもらってるよ!彼女してるかは分からないけど」
「いやなんかあまりにも長い間一緒にいたっぽいからもうなんか普通になってたというかなんというか…でもお前これ以上アピールしてどうするん?」
「えっと、なんというか、神谷君私のこと保護者目線で見ることあるんだよね。だからちゃんとこう、彼女なんだよとアピールをしようかなと思って」
「おいおい、実年齢」
「逆ですけど、年下に心配されてる年上ですけど。威厳が皆無で悲しいんですけど。なんでかな咲希姉」
「とりあえず威厳云々に関してはそんなガーリーな格好してる時点で皆無だから安心しろ」
「最近はちゃんと落ち着いたのも着だしたよ。夏だからあんまり落ち着いたのって無いけど」
「というかその見た目で威厳は絶対無理だと俺は思うね」
「うーん、見た目かぁ…」
その言葉に反応して自分のことを見直す渚。
「うーん…駄目なのかな」
「駄目というか、うん、何、女の要素強いその体じゃ無理」
「年上女性にはなれませんか」
「よくて妹か後輩ポジ」
「おかしいなぁ…ふざけてないときはそこそこ真面目なつもりなんだけどなぁ…」
「普段の様子がそいつを作るんやぞ」
「で、まあそう言う話はいいんだけど、とりあえず神谷君は女としても見てないと思うんだよね」
「あれ、そうなの?てっきりもっとギラギラしてんのかと」
「ギラギラ?神谷君に限っては全然。でも出かけたときに他のなんか男の人にはギラギラした視線を感じることが増えたかもしれない」
「美男美女のカップル目立つしな。お前らなら猶更。嫉妬の目線も多分にありそう。というか神谷すごいなあいつ。これを前にして聖人君主か」
「聖人君主というか、愛玩動物というか…可愛いとしか言ってくれないというか、いや嬉しいんだけど。なんというか保護者?」
「危なっかしいと思われてるんでねーの。前言ったけど」
「気を付けてるつもりなんだけどね」
「惚けて事故りそうになってる奴そりゃ危なっかしいだろうよ」
「え、何で知ってるの!?言ったっけ?」
「いいや?神谷から聞いたぞ」
「んんん…なんで話してるのかなぁ」
「いやまあ俺が聞き出したんだけど」
「え、いつ?」
「…割とこの間?いや事故りそうになってた話は当日聞いてたけど、なんでって部分聞き忘れてたのを思い出したから聞いてみた」
「ああ、そういう。まあとにもかくにも、そろそろ意識をしてもらいたいというか、彼女らしいことをしてあげたいというか。もうちょっといちゃいちゃしてもいいんじゃないかなって思うんですよね!」
「ほうほう。具体的にはどういうエロいことを」
「え、いや、そこまではまだ考えてないけど。ちょっと意識をしてほしいというか、最近どぎまぎすらしてくれなくなってちょっと物足りないというか。マウントが取れなくて辛い」
「あの完璧超人相手にマウント取ろうとする方がおかしい」
「おかしくても取りたいの。びっくりしてる顔が見たいから。あと照れてる顔も見たい。最近少なくってむしろ私の方が赤面してるから悔しい」
「経験豊富なくせに初心だなおい」
「迫る側はあるけど、迫られる側は耐性無いんだよ!元々モテる人間じゃないし!落とすことしかしてこなかったの!だから反対なんて全然分かんないんだってば!余裕もなくなるよ!」
「照れさせるだけなら接触面積ふえれば勝手に赤面しそうだけどな」
「そういうのはズルだと思うからしない」
「謎のプライド過ぎんか」
「接触とかエロいとかそう言うの良くないと思うんです。ちょっとはいいと思うけど…」
「やること散々やっといて今更よく言うわ」
「生まれ直したことだし、反面教師というか全うに生きたいというか」
「自分を反面教師にするってなかなか不思議なことやってんね」
「時間も巻き戻ったことだし、ちゃんとトゥルーエンドに行きたいんです私は。そのために私はチートなぞ使わない!ちょっと使うかもしれないけど」
「おい宣言。1秒で手のひら回転させんな」
「しょうがない常にチートが起動してるから」
「…で、えっと、海だっけ?」
「海です。話それすぎでしょ」
「いつものことだろ」
「でまあ結論を言うんだけど、水着を一緒に買いに行きませんか」
「ああ、うん。それ聞こうと思ってた。持ってないよな?」
「持ってないね」
「だよな。水着かぁ」
「咲希姉はあるの?」
「何故か置いてあったけど俺の好みじゃねえ、というかあれは駄目だろ」
中高生時代の物だと思われるスクール水着は発掘していたが流石にそれを着て海に行く自信は咲希にはない。
「じゃあちょうどいいね。明後日はお客さんいないし、明後日買いに行こうよ」
「んーまあいいけど。行く先はしらんので調べるのはよろしく」
「大丈夫、多分検討はついてる。というか事前に聞いてあるから問題ない」
「誰に」
「稜子ちゃんです」
「なんかその稜子って子すげえないろいろと」
「女の子の情報源は優秀なのです」
「そうか…?そうか…」
美船の姿が頭をよぎった。
「あ、ちなみにどうやって行く?電車でいい?」
「雅彦さん呼ぶのか?」
「一緒に選ぶのかなと」
「流石に難易度たけえよ?」
「でもそう言う楽しみ方もあるみたいだよ?」
「もうちょい心の準備してからで」
「え」
「なんや」
「まだそういう可愛らしいところが残っていたのかと」
「やることやっても流石にそういうのなんか違うと思う」
「成程ぅ」
ちなみに渚も一緒に明人と買いに行く線も考えたが、結局保護者目線で見られそうだったのでやめた。
あとインパクトが足りなさそうな気もした。
どうせならサプライズでやりたい。
「じゃ、明後日ね。お金の準備だけしとけよ」
「了解」




