制服
4週間くらいは週間月曜投稿に戻ります。
その後はまた未定です。
ある日の夜の民宿「しろすな」にて。
渚は自室にてスマホ片手に何やらメッセージを打ち込んでいた。
『来週、学校帰り遊べる日とかあるかな』
連絡している相手は当然明人である。
数分後、明人からメッセージが帰ってきた。
『来週ならいつでも空いてる』
『部活とか大丈夫なの?』
『大丈夫。来週はテスト週間だから部活無いんだ』
『そっかテスト週間だったら部活無いんだね』
『あれ、だいたいの学校そうじゃないか?』
『そんな昔のことは忘れました。そう言えばテストはいつが最終日なの?』
『大先輩失礼しました。テスト自体は再来週の火、水』
『あれ、テスト週間って前の週からあったの?』
『そりゃあるけど。え、数年前って違うのか?』
『全然記憶に無いんだよね。大学はレポートとか多かったし』
『そうなのか…大学レポート多いのか…』
『私の行ってたところがレポート多かっただけだと思うけどね。そっか、でも来週大丈夫だったら、金曜日とかどうかな』
『オッケー。あ、でもどこで待ち合わせる?学校からだし、駅か?』
『もしよければ、学校の前で待っててもいいなら待つよ?』
『え、悪いよ』
『気にしないで。というよりは私がただ行ってみたいだけだから』
『そうか?…まあ結局家の周辺遊べるとこ無いもんな。分かった。じゃあ学校終わったら校門の前に行くよ』
『ありがとう。じゃあ楽しみにしてるね。お休み』
『お休み』
そこで明人とのメッセージのやり取りを終えて、そのまま続けざまに稜子に電話をかけ始める渚。
「もしもし、稜子ちゃん?頼みたいことがあるんだけどいいかな…」
□□□□□□
そして迎えた次週の金曜日。
「じゃ、俺今日はもう学校出るから」
「え、なんだよ、明人、今日早いじゃんかよ。勉強しないのか?」
「今日はこの後予定があるんだよ」
「そ、そんな、た、頼むぜ明人。俺来週のテストめっちゃわかんねえとこいっぱいなんだよ!頼む!お前の補習が無いと俺はやっていけねえ!」
「いや無理だって。最悪月曜日まだあるんだし、そこでなんとかしな。じゃあな」
「ちょ、ま、ま、待ってくれよ!」
明人を引き留める声を無視して明人は教室を飛び出した。
普段であればだれかと会話しながら歩く廊下であるが、今日は一人である上に、足取りも普段より明らかに早い。
あっという間に昇降口までたどり着いてしまった。
靴を履き替えている明人の元にまた別の声が飛んでくる。
「あ、神谷くーん!あたしたちカラオケ行くんだけど一緒に行かなーい?」
「あー今日は遠慮しとく」
「ええー残念ー。いつもなら乗ってくれるのにー卓也もいるよー?」
「ちょっと今日は先約がね、あるんだ。だからごめん」
「ふーん分かった。じゃあまた今度ね」
女子からの誘いも押しのけてそのまま外に出る。
自慢の脚力を活かして、普段の倍くらいの速度で門の方へと向かえば、人だかりとまではいかないものの、普段と比べると明らかに人が密集していた。
「…なんだ、アレ?」
どのみち約束の目的地はその場所であるため、接近してみれば、人だかりだけでなく、何やらざわついてもいる。
「やべえ、めっちゃ可愛い…」「肌しろーい」「あんな子居たっけ?」「誰待ってるんだろう?」
明らかに何かがいることを察するざわめき。
しかし誰がいようとも、明人の目的地はそこなので行かざる得ない。
寄ってみれば、当然その渦中の人物が誰であるのかは嫌でも目に入った。
「えっ…!?」
そしてその人物が目に入った瞬間に明人は盛大に硬直した。
件のその人物はスマホを片手にキョロキョロしている。
時間にして数秒、体感数分。
明人は再起動した。
「あ、あー…渚ー?」
渦中の人物に近寄りながら声をかける渚。
当然というかその人物は渚であった。
周りから何やらキャーキャー聞こえる気がするが、割と今の明人にとってはどうでもよかった。
そんなこと関係なくなるレベルの爆弾が目の前に設置されていたので。
「あ、やっと見つけた。おはよ神谷君」
「どう考えてもおはようじゃ無いけど…いや、そんなことよりも、その、格好…?」
「あーうん、言いたいことは分かるよ?でもね、これにはちょっと事情があるというか、あんまり気にしないで欲しいというか…」
「無茶言わないで欲しいんだけど。…いや、気にしないの無理だって、それ、制服…」
今の渚の格好は、女子高生のブレザー姿である。
そりゃ気になる。
「あーうん、やっぱ、そうだよね。そういう反応返ってくるよね。ん、とりあえず色々後で説明するから…デートに、行くよ!」
「あ、ちょっ!」
そう言った渚は明人を引っ張ってその場を離れた。
後ろから黄色い声と、発狂する声が響いていた。
□□□□□□
学校から少し離れた場所までやってきた2人。
「えっと…え、いや、制服?あれ、渚高校生じゃ…???」
「ないよもちろん。転入とかしてないからほんとに高校生とかじゃないよ」
「え、じゃあその制服はいったい?」
「これは…その…稜子ちゃんに、借りました。明日返すよ」
「稜子ぉ!?え、なんでだ?なんかの罰ゲームかまた?」
「ち、違うの!そうじゃなくって!な、なんていうかな、その…」
顔を赤らめてあからさまにもじもじする渚。
「せ、制服デートが、してみたかった、から…まあ、色々と他にも理由があるけど…」
「…ぷっ」
「ちょ、笑わないでよ!も、もちろん恥ずかしいのは分かってるつもりだよ!で、でも!ちょっと憧れてたんだよ!」
「人の制服借りてまでか?」
「そ、そうだよ。したかったの…」
「はは、やっぱ渚、可愛いなそういうの」
「や、やめてよ!今言われると恥ずかしさしかない!」
「いいじゃ無いか別に。どうせ傍から見たらただの高校生カップルだし」
「変じゃ無い?」
「全く?むしろ渚が高校通ってたらこうだったのかなーって言うのが見れたから俺も嬉しい」
「はあ良かった。ドン引きされたらどうしようと思ってたんだよね」
「引きはしないけど、だいぶ冒険したなとは思うけど」
「うん、まあ冒険だとは思うかな…実際の年齢考えると…ね」
実年齢換算で23くらいである。
まあよく見てもコスプレとかそういう年齢である。
再入学の説もあるが、そもそも学校に通っているわけでは無いのでコスプレである。
「似合ってるから問題ないって。ただ、急にどうしてだ?」
「えっと、前に話したと思うけど、私が私じゃないのは知ってるでしょ?それで、高校生の時灰色っていう悲しい話覚えてる?」
「うん、まあ一応」
「それで、なんというか、憧れがあったというか、いまならできるような気もして…それでちょっと、冒険を…」
明らかに性別的な立ち位置が真逆になっている気もするが、些細な差である。
「渚がそれで楽しめるなら俺は全然。普段と違う渚もそれはそれでいいし。…ただ、稜子よくオッケーしてくれたな」
「稜子ちゃんには、話したとき大爆笑されたよ。それはもう途中で話を聞いてもらえないくらい大爆笑されたよ」
なんなら途中で一回通話が落ちた。
笑いすぎて通話停止ボタンを間違えて押したらしい。
「あと、貸す代わりにプリクラでツーショット撮ってこいって言われました…」
「…やっぱ罰ゲーム入ってないか?」
「私自ら望んだことなので…罰ゲームでは、無いと、思う…よ?」
「うーん…」
釈然に落ちない顔の明人。
だが次の瞬間にはパッと笑顔になった。
「まあでも、制服の渚と写真撮れる機会とか無さそうだし、稜子に感謝だなこれは」
「う、うん、そうだね。そう言えば私、神谷君の制服見るの久しぶりかもしれない」
「ああ、まあそうかもな?家の方で遊ぶときは制服来てなんて合わないもんな」
「制服着てる神谷君もなんかピシッとしててすごくカッコいいね」
「そうか?…なんか制服の渚に言われるとちょっと照れるなこれ」
「そうなの?」
「ほんとに学校帰りデートしてる気分になる」
「私も今日はそのつもりで来てるから。じゃあ早速、デート行こっか」
「ああ、そうだな」
そうして2人で歩き出す。
が、歩き出した瞬間に明人が横を見ていった。
「…そういえば、どこ行くんだ?」
「あ、決めてない」
「…渚さん?」
「夢を叶えることしか考えてなかったので…プリクラってこの辺あるの?」
「…まあ、無いわけはないと思うけど…探すか」
「お願いします…」
締まらない滑り出しだった。




