昔
渚のイメージが壊れるかもしれないので注意
ある日の民宿「しろすな」渚の部屋にて。
「そういえば渚。前からちょっと気になってたんだけど、一つ聞いてもいいかな」
「え、うん。いいけど、何?」
「いや普段の渚って何してるのかなって」
「普段…んー何やってるかなぁ。今とあんまり変わらない気もするけど、ごろごろするでしょ。動画見てるでしょ。偶に本読んだりする?あとは…本当にたまーにゲームをするかな」
「あれ、他の人と遊びに行ったりしないのか?」
「他の人って?」
「いや、俺以外の人と。友達」
「んー…稜子ちゃんは最近予定会わないし、神谷君以外でしょ?…あれ、誰もいない気がするなぁ。うん、友達、いないから、ないかな」
「え。友達いないのか俺たち以外に!?」
「う、うん。いない…全然、人に会わないし。べ、別にコミュ障とかそういうのじゃないから!頑張ればちゃんと作れるから!」
「い、いやコミュ障とは思って無いけどさ。学校の…あ、駄目だ渚学校に行ってない…」
「そうだよ。私は学校行ってないですよ。そもそも、私ここに来てから知ってる人、神谷君たちしかいない」
「え、ええ…?他に俺らくらいの年のやついないわけじゃないだろ?」
「え、いるの?」
「いるよそりゃ!ここそんなに限界集落じゃ無いぞ!?」
「うーん、なんだろうね。最初に神谷君たちと会っちゃったから、神谷君たちの行くところしか行かないから全然見てない気がする」
「マジか…いやいるはずなんだけどな…いるよな?」
「いたっけ?」
「いるはずだけど…俺と同じ小学校とか中学校のやつはここで降りてるし…」
実際この辺りに渚や明人と同い年くらいの人がいないわけではない。
ではないのだが、高校はこの周辺には一つも存在しないのでこうなる。
渚が出歩く時間帯に帰ってくる高校生はいないのだ。
また明人が言うように限界集落ではないものの、若い人はやっぱりそんなにいないのも当然ある。
「あーでも、確かにたまに見かけたことはある気がする。でも話しかけれそうな人いないんだよね」
「そうなのか?」
「なんていうか、すごい下向いて帰ってる人とか、携帯ずっと見てる人とか、友達と仲良さそうに喋って帰ってる人ばっかでさ。なかなかね」
「…今思い返すと割と黒歴史なんだけど、最初渚に無理やり話しかけてこれ正解だったか俺…?」
「え、なんで?」
「いや、いまの話聞いてる限りじゃ、これ俺話しかけに行かなかったらスルーされて終わってない?」
「あーうん。そうかも。なんだろう、話しかける勇気が無いと言いますか、ジェネレーションギャップ?」
「…え?ジェネレーションギャップ?」
「…あ」
「…渚、もう一個聞いていい?」
「う、うん。な、何かな?」
「…えー…おかしなこと聞くけど、渚って…今の渚ってここに来る前おいくつで…」
「え、えっとぉ…じゅう、ろくさい…なんて――嘘です。えっとぉ…あのぉ…」
「…え、マジで?ほんとに?え、じゃあちょっと古い曲とか普通に知ってるのも…」
「あ、はい…ね、年齢が…違うから、だと思います…」
「…お、お歳は?」
「えっとぉ…そのぉ…言った方がいいかなぁ…知りたい?」
「ここまで聞いといてやっぱいいですとは言い難い」
「はぁ、じゃあ言うね?えっと、私の年齢は…」
指で年を示す渚。
数字は23である。
「…え?に、にじゅう?にじゅう!?」
「そ、そうだよ!私の神谷君よりも年上なんだよ!敬いなさい!」
「…に、にじゅうさん…にじゅうさん…」
「ちょ、ちょ、ちょ、連呼しないで!つらい!」
「…その、なんというか、今まですいませんでした…」
「あ、あの謝らないで欲しいな。なんというか、その、私も言わなくてごめんなさいというか。今更言うのが恥ずかしくなったというか…頼りがいの無い年上過ぎて、言いづらかったというか…なんで年上なのに年下の子に助けてもらってばっかりなんだろうって不甲斐なくなったというか…」
「いやそんなこと思わなくていいから!…いやいいんだけど…え、今まで通りで逆に大丈夫なのか…?その、渚さん」
「や、やめてよ!さん付けで呼ばないで!こ、これでも最近はちょ、ちょっとだけ16歳って自覚が出てきたばっかなんだからさ」
「あ、いや、ごめん、その。そう言うつもりじゃないんだけど…え、だってだいぶそれだと俺年下…え?いいの?」
「む、むしろ、私でいいんでしょうか…中身が…おばさんでいいのかな…」
ちょっとおじさんって言いかけた。
まだいう自信は無い。
いずれ言うつもりではあるがまだその時ではない。
「いや、そんな風に見たこと無いから、大丈夫。むしろよくここまで俺と付き合ってくれたというかなんというか…その、出会い方謎過ぎたし今考えると…あれ、初対面だろ?」
「まあ、そうだね…あれが初めて神谷君と会った時かな…ちょっと、変わってるなって…」
「大丈夫…相当やばいことやったのは知ってるから…」
「ああ、それは気にしないで。そのことについてはもう、私も事情はしってるし、今更だと思うから」
「そう思ってくれるならいいけどさ…そうか、でも渚は年上だったのか…変な感じだななんか」
「そうだね…私も神谷君が年下だなんて今更あんまり思わないけど、思った方がいいのかな…」
「…なんか俺、それされたらおかしくなりそうなんだけど、色々と」
「どういうこと?」
「仮にも同い年だと思ってた彼女が年上だったうえに、急にお姉さん感出されても困るっていうかその」
「えぇ?じゃあ出してみよっかな。面白そうだし」
「やめろってば」
「でもあれだよね。神谷君ときどき、可愛い反応するから、そう言う時は年下だなって思うことあるよ」
「可愛い?俺が?」
「うん、可愛いと思うよ。もちろん普段はカッコいいと思ってるけど」
「え、どこが?」
「顔が近くなると赤くなるとことか、手を繋ごうとしてきてちょっと躊躇してるとことか、あと間接キスで恥ずかしがってるとことか?」
「流石に気にするって!…え、逆にそういうの年で気にならなくなるものなのか?」
「年っていうか経験かな?」
遠い目で語る渚。
それを聞いて固まる明人。
「…そういえばそんなこと言ってたな」
「だからちょっと初々しい神谷君の反応が見てて可愛いんだよね。あと安心もするかな」
「その経験の差はズルだろ…」
若干落ち込んだ表情の明人。
その顔を見て渚がフォローを入れる。
「…!で、でも、男の子としたことはないから!」
顔を真っ赤にして言い放つ渚。
フォローしようとして自爆した。
考えれば当たり前である。
一つ前の人生では男である。
そしてノーマルだったのでしたことあるのは女の子だけである。
だが目の前の男はそんなこと知らないので滅茶苦茶目を丸くした。
「え、え?え?女の子としか?え?あ、渚もしかしてそっち側だったのにわざわざ俺と?」
「……」
急に渚が明人の両肩を掴む。
当然明人は驚く。
「今から、大事なこと言うよ。一度しか言わないから、ちゃんと聞いててね」
「お、おう」
「じゃあ、言うから。前の記憶の私は、男の人だったんだ」
言った。
言ってしまった、そんな感じでちょっと俯く渚。
さっきまでまだとか思ってたのに勢いで思わず言ってしまった感じが凄い。
それでも明人に暗い顔をさせるのはなんか違うと思ったら言ってしまった。
「…え?」
「その…すごい、びっくりしたと思うんだけど、大丈夫、かな…」
「…えーっと、ほんと、だよね。ほんとか。嘘つく必要ないし…」
「ほんとに、今更、私、もっと前に言うべきだったと思うんだけど、これだけはどうしても、言い出しづらくって…せめて神谷君には、歪んだ性癖を持ってほしくなかったから…」
「…いや、もう、なんか、ずるいなぁほんとさ」
「すみません…もうなんか、何ていえばいいんだろう…すみませんでした…」
「…いや、別に謝らないで。その、なんだかね、驚いてる、驚いてるけどね」
「でも一つだけちょっと弁解させてください…私、確かに、前の記憶とか前の年齢とか全部今の私とは違うけど、今いる私は、前の人とも多分違うと思うんだよね。それは、直感でしかないし、よく分からないところでもあるけれど…」
「気にしないよ。だって、結局今、俺の彼女は今の渚だし。そりゃ驚きはするけどさ。それだけだから。昔の、いまと違う、渚じゃない渚がいるから、今の渚がいるわけじゃないか。だったら、俺は、驚きはするけど、それで何かが変わったりはしないよ。今の渚が好きだからね」
「…ありがとう。やっぱり私は、神谷君の恋人になれて幸せ者だね」
「まあそれはそれとして…どれくらいお相手が…?」
「あー…この流れ、終わりの流れじゃ無かった?」
「いやもう渚ずるいから全部聞いとく。また勝手にためて爆ぜても困るし。それに色々秘密にしてたんだから、これくらい聞いても罰当たらないだろ?」
「えっと…2…桁、くらい、かな…」
「にけたぁ!?え、そんな滅茶苦茶してたの!?え、渚!?」
「あ、あの、愛が無かったわけじゃ無いんです!いや愛が無かった気がしないわけでもないですけど!ちゃ、ちゃんと、同意の上ですが!お相手いる方ももちろんいません!お相手がいる時とかも無いです!」
「…うわぁ、すごいなぁ」
「やめて!そんな目で見ないで!」
「いやだってさ…俺の経験の遥か先を行く男性がよく、こんな、なんか女の子らしすぎる女の子になったなってさ。いや、なんかそう思ったら余計可愛く見えてきた。渚可愛い」
「え、え、え、ななな何!?神谷君!?ちょっと!大丈夫!性癖が歪んでるよ!」
「全部渚のせいだからいいんだよ。可愛い可愛い」
「怖い、怖いよ神谷君!」
そのあとめっちゃいちゃついた。




