咲希と雅彦
時系列的には、渚が仲直りしたあたり。
「あー…」
部屋の中でベッドに横たわる咲希。
何にもやる気しないという感じである。
「なんか客いないといないで暇だなぁ…掃除やると仕事終わりだし」
一人ぼやく咲希。
今日は客もいないので昼過ぎれば仕事終わりである。
渚も今日は出かけていってしまったので家には咲希一人。
まあやろうと思えばゲームで時間つぶしなんていくらでもできるのだが、今はそんな気分でもない。
そう思っていたらインターホンが鳴った。
「え?客?そんな予定は…」
とりあえず下に行って誰が来たのか確認しに行く咲希。
まあ今までも唐突な来客は結構あったので、別に不思議なことではない。
が、玄関を開けてみた咲希が一瞬固まった。
「え!?雅彦さん!?」
「どうもです咲希さん」
そこにいたのは雅彦であった。
当然今日会う予定はない。
「あ、えっと、とりあえず入ってください。どうぞどうぞ」
「あはは…いきなりすいません。お邪魔します」
そう言って中に戻る咲希と雅彦。
咲希はというと、いきなり雅彦が来たのでちょっと困惑していた。
「え、どうしたんですか?何かありました?」
「ああえっと…その、咲希さんに、会いに来た、感じですかね?」
「え?」
「あはは…お邪魔でしたか?」
「い、いや、そんなことないですけど」
「よかった」
「え、でも何で」
「最近会えなかったので…」
若干寂しそうな雅彦。
まあ確かに実際にあったのは既に数週間前である。
いつぞやかのランポ襲撃に隠れるように民宿「しろすな」の2階で会ってからというもの会う機会が無かったので数週間ぶりでもある。
雅彦も襲撃で少し慎重になったようで、しばらく時間を空けた方が良いという話になっていたし、咲希も咲希で、隣の渚が沈んでたので野放しで自分だけ遊ぶ気にはならなかったのもある。
渚と明人の関係が回復したようなので、大丈夫っぽいかなーとか思ってたらこうなった。
「そんな寂しがりなキャラでしたっけ?雅彦さん」
それを聞いて咲希がちょっと笑う。
少なくとも割としっかり者の大人の男性のイメージがあったからの反応であるが。
「いや…せっかく咲希さんと恋人になったのにこんなに長いこと会ってないと忘れ去られるかなって…」
「そんなこと無いですよ。流石に2週間直接会えない程度で忘れるほど薄情じゃないですよ?」
それを聞いて笑う雅彦。
「流石に冗談です。でも寂しかったのはほんとですよ」
「あはは、そんなに寂しがってもらえるとか彼女明利に尽きますね?何にもしてないけど」
なお別に実際に会うのは数週間ぶりであるが、通話自体は毎日のようにしているので、あんまり咲希としては会っていない感じはしていない。
流石に実際に2週間会って無かったら咲希も少しは寂しがるかもしれないが。
「とりあえず上に上がりますか?今日は偶々渚もいないし」
「ああ、じゃあ上がらせてもらおうかな?」
そう言って2階のリビングへと向かう2名。
階段を上がりながら、咲希がぼやく。
「というかなんでアポなしで来るんですか。アポありで来てくれたら色々準備しとくのに。というかお客さんいたらどうするつもりだったんですか」
「いや、いきなり来たら咲希さん、驚くかなって」
「そりゃもう驚きましたけども。だって私にアポなしで突然来るタイプの来客ってほとんどお客さんか美船だけだし」
「あ、あはは…美船に関してはスイマセン。でもそんなにお客さんアポなしで来るんですか?」
「偶にですけどね。でもあるっちゃあるんで、今日もまたそうかなと思ったら雅彦さんだし。ほんとにどうするつもりだったんですか。普通に休日とかでも仕事ある時はあるんですけど?」
そのままリビングにたどり着く2名。
とりあえずソファに座って、雅彦が話を続ける。
「ああ、えっと、正直知ってました。今日お客さんいないのは」
「え」
「美船から聞いたんですよ。今日誰もいないらしいよって」
「…ああっ!この前あいつ!」
実は数日前に美船が襲来して暇な日を聞かれていたのである。
てっきり遊びに行く約束か何かかと思って空いてる日を伝えたのだが、美船通じで雅彦に伝わっていたらしい。
「すいません。美船がにやにや顔で咲希さんの空いてる日を教えてきたもので、乗っかちゃいました」
「もう…直接聞いてくださいよ、そういうのは」
「この前みたいに迷惑かけれないですし」
「いいんです。迷惑かけても。言ってくれれば予定なんてずらしますし、どうしてもだめなら大丈夫な日教えますから。雅彦さんもうちょっとぐいぐい来ていいんですからね?どうせ私奥手なんだし」
というかこの前のは事故なので、と付け加える咲希。
まああれは事故だった。
間違いなく。
「じゃあ、咲希さん」
「はい?どうかしましたか?」
「…その、恋人っぽいこと、してもいいですか?」
「え、きゅ、急ですね?」
「奥手って言うなら俺から何かしないと駄目かなって思ったんですけど、駄目、ですかね?」
「えーっと、いい、ですよ?」
と言いながらも咲希も目が泳ぐ。
何されるかとか何するのとか全く分かっていない。
咲希はそう言う意味では純粋である。
無知ともいう。
頭に知識はあれど、具体的に恋人って何やってんのとか聞かれると何にも言えないのが咲希である。
なので期待半分ではあるものの、いざ何かやると言われると困る。
「じゃ、じゃあ。ちょっと、立って、目、閉じてもらっても、いいですか?」
「は、はい」
とりあえず言われた通りにする咲希。
いや、まあなんとなく状況から何されるかは察しはつく。
流れとしては少しおかしい気もするが、仮にも恋人2名、しかも恋人っぽいことしたいと言ってきた相手がすることとかそんなに多くは無いと思っている。
何をされるかの知識はあるので。
ドラマで見た。
だが問題になってくるのはそこではない。
何をされるかは分かるが、どうやってされるのかは正直よく分かっていない。
というかいざされた時にどう反応していいのとか、こっちどうやって動けばいいのとかそういうのが頭をよぎる。
予習はしていない。
する機会無いと思っていたので。
自爆したかもしれない、そんな思いが咲希の脳みそをよぎった。
「…」
目を閉じていてもなんとなくの周辺の様子というものは分かるものである。
今は特に、咲希と雅彦の2人しかこの場にはいない。
周辺の音もあまりなく、静かである。
故に雅彦がいた場所からする小さい音とか聞こえる。
隣にいたため、距離的には遠くなかったが、キスするには遠いかったもんなぁとかちょっと冷静に思う咲希。
なんか薄目開けたい気分になってきたが、そこは雅彦のためにも我慢する。
咲希自身の心音が滅茶滅茶聞こえた。
こんなで緊張するとか学生かよとセルフ突っ込みいれつつも、でもやったこと無いもんなとか考える。
「…え?」
とか考えてたら背中に手が回った感触がして、そのまま、前に軽く引っ張られる感覚のした咲希。
何やらごつい物に体が当たる。
思わず目を開ければ、めっちゃ抱きしめられてた。
「…えっと?」
「いや…恥ずかしくて、すいません」
「…こっちかぁ」
「あ、えっと、何か違うこと想像してましたか…?」
「ふふ…いいですいいです。そう言えば、こうやってちゃんと抱きしめてもらったこと、無かったですもんね」
そう言いながら雅彦の方にも手を回す咲希。
ちょっと混乱してた心が落ち着く。
想定外ではあったのだが、咲希的にはキスするよりかはハードル低いのだ。
「…いや、雅彦さん大きいですね。あんまり考えたこと無かったですけど、こうやって密着してるとすごく思います」
「…そんなことないですよ。咲希さんは…」
「私は?」
「…すいません、なんか、いい表現が思いつかない…!エロオヤジみたいな言葉ばっか思い浮かぶ…!」
「アハハ、エロオヤジはやだなぁ」
「すいません…」
「謝ってばっかじゃないですか。いいんですよ。こうやってやるの、好きですし。言葉なんて、いらないです。好きだって分かるから、それで十分です」
「…咲希さん」
なんで急にこうなったと冷静に分析する自分を感じつつも、それでも状況受け入れる咲希。
落ちたなぁとか思う心も、別に不快感は感じない。
むしろ幸せであった。
「あ、でも」
「はい、なんでしょう」
「やられっぱなしは癪に障るので…次は私の番ですよね?さあさあ、目を閉じてください」
「えっと…何を?」
「いいからいいから、さあさあ」
「はい…」
目を閉じさせる咲希。
ぶっちゃけ今からやる行為のやり方合ってるかな大丈夫かなと思っている。
なんかやる瞬間見られたくないから目を閉じさせた。
正直顔が赤い。
「いきますよ?」
「…!?」
ほとんど瞬間的に唇を重ねた。
軽い軽いキスである。
ディープなんざやり方知らないのでほんとにソフトな、一瞬のもの。
それでも、雅彦には効果てきめんだったようである。
瞬間的に目を見開く雅彦。
「あ、目開けるの早いですよ」
「え、咲希、咲希さん」
「…恋人どうしですし、いいですよね?ディープなのは、やり方を知りませんので許してください。…やりたいなって、思ってたんですよ?」
さっきやられると思ってたのは内緒である。
「…咲希さん」
「なんでしょう?」
「もう一回しませんか。…次は、もうちょっと長めで」
「ふふ…分かりました。行きますよー」
この後滅茶苦茶くっついた。
咲希と渚のイラストを頂きました。
1話目の前に掲載しましたので是非ご覧ください。




