おともだち
「というか、あんた何か私に用があって来たんじゃないの?まさかわざわざそこで倒れ伏すために来たわけでもあるまいし」
「あ、そ、そうだった」
生気を失った顔に生気が戻る。
落ちるのも早いが復活も相応に早いらしい。
「テニスに誘いに来たんだよ。ほら、せっかく今休みだしさ」
「まーた?あんたほんとにそれ好きね?学校でもやってるんでしょ?」
「いやそうだけどさ、稜子とも久しぶりにやりたくて」
「はーしっかたないわね。いつよ?」
「来週の日曜日とかでどうだ?」
「日曜、日曜…分かったわ。特に予定があるわけでもないし。付き合ってあげる」
「よし、じゃあまた当日になったらここに迎えに来るから」
「はいはい」
そのへんで二人の話を聞いていた渚が話に入り込んだ。
「2人ともテニスやるの?」
「ああ、小学校時代からずっと続けてるんだ」
「まあ、私はそこの明人に連れまわされてただけだけど」
「そう言いながら稜子も楽しんでるだろ?呼ぶと来てくれるじゃないか」
「別に嫌いじゃないから。あと、どうせあんたやる相手私以外いなかったでしょ、昔は。今は知らないけど」
「じゃあ2人ともテニスうまいの?」
「私は別に、せいぜいそこの明人と付き合いにやるだけだからね。まあ明人はお世辞抜きでうまいと思うけど」
「いつでも一緒にやってくれる相手がいるからな。みんなのおかげさ」
「あんた毎日のようにやってるしね」
「楽しいからな!」
笑顔でそう答える明人。
実際今も背中にラケットを背負っているので、やってくるのか、やってきたのかもしれない。
「ねえねえ、さっきのテニス、私もついていっていいかな?」
興味が出たのか渚がそう聞く。
「え?まあ私は構わないけど?どうせ2人じゃ人少なすぎて疲れるし。まあ一応明人がいいなら、だけど、どう?」
稜子がそう答えて隣の明人の方を見る。
「渚も来たいのか?」
「うん、2人がやってるの見てみたい」
「お、おう別に俺はいいけど」
微妙に歯切れの悪い反応の明人。
「あれ、どうかした?」
「い、いや、すまない。再会してこんなに早く遊ぶと思ってなくて…さっきも怪しい奴って思われてたみたいだったからさ…」
「あれは第一印象だし、そこまで深刻に捉えなくてもいいんだけどなぁ。それにもう友達でしょ」
インパクトが強かったのは確かであるが。
「よし、じゃあまた渚の家にも迎えに行くから待っててくれ。昼過ぎの1時くらいで大丈夫か?」
「うん、いいよ」
「分かった。じゃあそれで決まりだな」
いい笑顔でそう言ってくる明人。
笑顔が眩しい。
さっきまで沈み込んでいた同一人物とは思えないレベルである。
「というか渚もテニスやるとは思わなかったわ。昔はやってたイメージないし。今どこかでやってるのかしら?」
「ううん、全然できないよ」
残念ながらできると言えるほどテニス経験はない渚である。
「あら、そうなの。まあ、できなくても教えてあげればいいわね。そこにテニス馬鹿もいることだし」
「馬鹿は余分だろ」
「やりすぎなあんたにはそれくらいでお似合いなのよ」
「だが渚に教えるのなら任せろ」
なんか勝手に流れが渚も参加する前提になって進んでいく。
渚にその意思は無かったのだが。
「私は2人のプレイを見れればいいかなーって」
「何水臭いこと言ってんのよ。せっかく一緒に行くんだから」
「で、でも私ラケットとか持ってないし、それに全然うまくないから楽しくないと思うよ?」
「ラケットなら本数あるから俺の貸すから大丈夫だ。それに俺も渚と一緒にやってみたいしな」
「んーじゃあ、お言葉に甘えようかな。あ、でもお手柔らかにお願いします」
「それで決まりね。ああ、水分以外は持ってこなくても大丈夫よ。明人が用意一式持ってるから」
「うん。分かった」
□□□□□□
その後も明人と稜子の会話の間に挟まりながら話していると、時間は過ぎていっていた。
「そういえば、渚は時間大丈夫なの?」
「え?あ、そろそろスーパー行かなきゃ」
時刻は5時。
夕飯の支度のことを考えるとそろそろ行かないとまずい。
「じゃあ私はそろそろ帰るね。稜子ちゃん、これ買ってもいい?」
ラノベだけはしっかり買っていくらしい渚。
1冊じゃなく数冊。
「あ、そうえいばまだ仕事中だった。いいわよカウンター来て」
「うん」
明人と渚以外誰も来なかったせいなのか、仕事中であることを忘れていたらしい稜子。
「はいじゃあ2000円ね。ありがとうございます」
「ありがとー」
「はーいお待ちしてます。明人も渚を見習いなさいよ。あんた何回も来てるくせに何にも買わないじゃない」
「稜子と喋りに来てるだけだからなあ俺」
「商売邪魔してんじゃないわよ」
と言いつつもそもそも人があまり来ないようだが。
「それじゃあ稜子ちゃん、また来るね」
「じゃあなー稜子。また来るわ」
「はいまたね渚。明人は次来たらなんか買ってきなさい」
「はいはい考えとくよ」
「絶対考えてないでしょそれ!」
そんな声を後ろに受けながら本屋を後にする二人。
「神谷君、本買わないの?」
「体動かしてる方が好きなんだよな…全く読まないってわけじゃないんだけどな」
「そうなんだ。確かに運動好きそうだね」
「ああ、体動かすのは大好きだからな。今日もやってきた後なんだ」
「だからラケット背負ってるんだね。部活?」
「ああ。丁度帰り道に稜子の本屋があるからあんな感じによく寄ってるんだ」
そう言いながら歩を進める渚。
当たり前のように横をついてくる明人。
「…あれ?神谷君、家こっちの方なの?」
「いや、俺の家はこっちの方かな」
と真反対を指さす明人。
「じゃあなんでこっちの方に?」
「いや、この後スーパー行くんだろ?俺もこの後スーパー行く用があるからさ。帰りに買ってこいって言われてるものがあるんだ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ一緒に行こっか」
その後スーパーを出るまでは一緒にいた2人であった。




