告白
ある日の民宿「しろすな」にて。
「こんにちはー」
いつものようにお手伝いに来た明人。
いつものように挨拶しながら扉を開けると、滅茶苦茶外行きの格好をした渚が目の前にいた。
格好も普段とは違いなんか清楚系である。
「こ、こんにちは」
「…お、おう。こんにちは。どうした?今日なんか特別な客でも来るのか?」
「来ないよ?」
「え?じゃあなんでその格好…」
「か、格好は、えっと、あのね、えっと、そういう気分なだけだから!なんでもないから!」
「お、おう、そうか。じゃあ、お、お邪魔します?」
「ど、ど、どうぞ」
渚の妙なペースに巻き込まれて一緒におかしくなる明人。
渚本人はと言うと、妙にソワソワしているうえに、なんか手を思い切り握っているわで明らかにおかしい。
そんな渚を気にかけながらとりあえず仕事場であるキッチンへと向かう明人。
向かった先では、何故か渚が扉を開けて待っていた。
普段であれば絶対しない行動である。
「え?」
「は、入って、いいよ?」
「あ、ありがと」
「う、うん」
死ぬほどぎこちない仕事が始まった。
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「…渚、あの」
「な、なんですか」
「いやあの、俺、なんかついてる?」
「ついてないよ!!」
「いや、ものすごい見てくるから…」
「み、見てない!見てないよ!」
「いや思い切り見てるじゃないか」
明人が渚の方に視線をやれば、隠す気のない渚の目線と視線が合う。
そんな渚の顔が徐々に赤くなっていく。
「し、仕事に戻る、から、話しかけないで」
「お、おう」
謎の気迫に押されて、それ以上の追及は出来なかった。
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夕食時。
「…」
「…」
「おい渚」
咲希が渚に声をかける。
「なんですか!?」
「いやなんですかって、どうしたし」
「な、何がぁ?」
「めっちゃ神谷君見るじゃん」
「え、あ、見てない。見てない」
明らかに無理矢理目線をご飯に合わせる渚。
「すごい食べづらそうにしてたからやめたれや」
「してない、してないから!」
「神谷君も言っていいからな?」
「は、はい…」
以前とは別の意味で気まずい時間が流れていた。
□□□□□□
というわけで明らかにおかしな渚ではあったが、それでも時間は過ぎて、明人の帰る時間になった。
今日はちゃんと明人を見送るために渚が玄関まで来ている。
「渚…その、大丈夫か?」
「え、な、何が?」
「いや、ものすごい言葉に詰まってるし、その、見られるし、何か俺やったか?」
「してないよ!違うの!神谷君は悪いわけじゃ無くって、ずっと言いたいことがあって!」
「言いたいこと…?」
「あ…!」
その言葉を言った瞬間一気に真っ赤になる渚。
ついでに体がプルプルしている。
完全にやっちまったという顔である。
「渚、とりあえず落ち着け?な?」
玄関先で靴まで履いていたのにもかかわらずわざわざ脱いで渚を落ち着かせに来る明人。
余りにもプルプルしているので明人が思わず手を握る。
一瞬渚が体をビクッとさせたが、少しづつ落ち着いていった。
「…多少は落ち着いた?」
「うん…ごめんね」
「いいってこれくらい」
「ごめんね、今日、私おかしかったよね。自覚は無いわけじゃ無かったんだよ。でも、ちょっと緊張しちゃってさ…」
苦笑いしながらそういう渚。
「…渚、話したいことあるんだよな?」
「う、うん。で、でも、やっぱり今日はやめとこうかな」
「…俺も話したいことがあるんだけど、聞いてくれないか」
「え…」
その言葉に驚いた顔になる渚。
寝耳に水をくらったような顔である。
「…少し、外、いい?」
その言葉に頷きで返す渚。
2人で手を繋いで玄関の外へと出る。
そのまま砂浜まで歩いて行く。
「えーっとさ、まず、今日の渚、可愛かったよ」
その言葉に渚の目が大きく開かれる。
口元が結ばれ、顔が赤くなっていた。
「…普段と違う格好だったし、なんか、ぎこちない動きとか、妙に俺の方に目線が飛んでくるのとかさ、なんか、色々ありすぎて、上手いこと言葉にできないんだけど、可愛かった」
手を繋いで歩きながらそんなことを言う明人。
「…ぅ…ぁ」
そんな明人の言葉に小さい声を上げることしかできない渚。
握っている明人の手にこもる力が強くなる。
「いや、今日だけじゃないか。この前映画行った時も、その前の時も、公園でただ駄弁ってるだけの時も、文化祭の時もも…」
「い、いい、もう、いいです。わか、わかったので」
そう言いながら明人をぺしぺしする渚。
その渚の反応を見て、明人が笑いながら言葉を止めた。
「神谷君は、ずるいよ…」
「ずるいって、何が?」
「そんなこと、言われたら、言おうと思ってた決意がさらに揺らいだじゃん」
「そりゃごめん。でも言わずにいられなくて」
「でも、すごく、嬉しかった」
「よかった。嬉しく思ってくれるなら」
そう言いながら浜辺にて立ち止まる2名。
「…お、渚、今日の月、綺麗だな」
その言葉に渚は明人の顔をちらっと見た後、少し笑った。
「うん、そうだ…ね。綺麗、かな」
その言葉を最後にしばらく沈黙が流れた。
「ねぇ、神谷君」
「なんだ、渚」
「私ね。神谷君のことが、好きだよ」
「…俺も、渚のこと、好きだ」
しばらくお互いに黙り込む。
渚が急に噴き出した。
「ぷっ」
「え、なんで笑うんだよ」
「こんな簡単な一言を言いたかっただけなのに、なんでこんなに遠回りしたんだろうなって思ったらちょっと笑えてきちゃって」
「…俺も、多分ずっと言いたかったんだけど、全然言えなかった。あんだけ一緒にいたのにな」
「そうだね。私なんか今日、言うためにこんなに気合入れて来たのに、結局神谷君にリードされちゃった。ちょっと残念」
「まあ、そこは、一応男として?…だから渚今日おかしかったんだな」
「そうだよ?今日朝からずっと言おうと思ってて、隙を伺ってたんだから」
「ちょっと伺い方が奇抜すぎないか?」
「だ!だって!どういおうかなって悩んでたりしたら、どんどん神谷君違う場所に移動してくんだもん」
「そりゃ仕事はしないといけないしな…でも、そういうことか」
「それに、神谷君があんなに直接的なことを言うなんて思ってなかったから、途中分けわかんなくなっちゃったじゃん」
「それ怒られても困るんだがなぁ…」
「すごく恥ずかしかった。でも、嬉しい」
「…じゃあ、渚、もう一個俺から言いたいこと言わせてもらってもいいか?」
「ちょっと待ってね…ふぅ。いいよ?」
「…白砂渚さん!俺と、付き合って、ください!」
「はい、喜んで。…これで、いいの、かな?」
顔を赤らめながら半笑い気味の渚。
「いいに決まってる!ありがとう渚!」
次の瞬間には明人が渚に抱き着いていた。
一瞬驚いた渚であったが、すぐに優しい顔になってそれを受け入れた。
「さっきまでの神谷君はすごくかっこよかったけど、今はなんだかワンちゃんみたい。ちょっと緊張が解けてきたかも」
「俺だって死ぬほど緊張してたんだからな…今はわんこでいさせてくれ」
「うん、いいよ。これから、よろしくね、神谷君」
終わ…りません
まだ、終わらん




