いじられ
「なんか久しぶりね。こうやってあなたと一緒に外に遊びに出るの」
「確かにそうかもしれないね。まあ稜子ちゃんが誘っても忙しい忙しいって言ってるから、仕方ないよね」
ジトっとした目でフラペチーノを飲みながらそんなことを言う渚。
現在2名は隣町のカフェに来ているところである。
限定商品の情報が出てたので飲みに来た。
「し、仕方ないでしょ!ほんとに忙しいんだし!」
「そっかぁ、そんなに積極的なんだねぇ。よかったねぇ」
「言葉の節々に何か悪意を感じるんだけど!?」
「もちろん悪意を混ぜてますから。まあ冗談だけど。でもほんとに久しぶりだね」
「…もう。でも本当に予定が全然合わなかったから遊びに出れなかったのよね。聞きたいこと色々あったのに」
「まあ予定と言えばうちもちょくちょくお客さん来てるし、それもあって会わなかったよね。でも聞きたいことなんて何かあったかな」
「ん、んー…まあある。あるわね」
「あるんだ。むしろ私が聞きたいこといっぱいあったのにな」
「どうせ私と啓介の話でしょそれ」
「あたりー」
そんなことを言いながらフラペチーノを飲む渚。
それをなんとも言えない目で見つめる稜子。
「それこそ聞いても代り映えなんかしないわよ」
「今のところそれぐらいしか私の楽しみは無いので」
「流石に別の楽しみ見つけなさいよ…」
「交友関係の狭さと、少なさを舐めてはいけない」
「誇るな」
「友達もっと欲しいんだけどな。ネットで作る気にはなれないんだよね」
「やめときなさい。変なのがいっぱい引っ付くわよ」
「前一回やってみて変なのついたから知ってる」
ちなみにこれは渚が今の「しろすな」に来て間もないころ、軽いノリでゲームで通話したところ、粘着された経験に基づいている。
そのせいでSNSアカウントを一つ消す羽目になった。
本当に面倒くさかった。
「ってそんなのどうでもいいのよどうでも。あのね渚」
「何改まって。何を聞かれるんですか」
「え、何って明人どうなのってことだけど」
その言葉を聞いた瞬間に大きくせき込む渚。
「ちょ、ま、ちょっ、喉入ったっ」
「え、ちょ、大丈夫?」
「ま、待っててっ。えほっ、げほっ」
激しくむせ返る渚。
器官に何か入ったらしい。
しばらくしてなんとか元に戻った。
「び、びっくりしたぁ…」
「いや何をそんなに驚いてるの?」
「突然変なことを聞くからだよ」
「そんな変なことかしら」
「変だよ!だって話題にもなってなかったのに」
「だから最初からそれを聞く気だったんだってば。なんか喧嘩してたんでしょ?」
「うぅ…喧嘩って、わけじゃ、ないよ?でも、まあ、元通りには、なったかな…」
「え、元通り?うそでしょ?」
「な、何、何がウソなの?」
「いや別に。ふーん、でもちゃんと仲直りはしたのね。その感じ。話は聞いてたけど、まあよかったわ」
「き、聞いてたんだ。知らなかった」
「メッセージで一言、仲直りできたって明人から来てたから。一応知ってはいたわ」
「知ってるんだ…それもびっくりだったけど、どちらかと言えば、わたしは、喧嘩っていうか、そう言う時期があったことを知っていることに驚いているんだけど…」
「そりゃもう滅茶苦茶思いつめた顔で一回私のとこ来たからねあの阿保」
「思いつめてたんだ…そう」
傍から見ると分からないくらいではあったが、渚の口角が少し上がった。
「で、今どうなってるんだろうと思って。少なくとも酷いことにはなって無いのかなと思ったけど」
「…へ?なってないよ?」
「そう。じゃあ今どうなってるの?」
「ど、どうなってるって、何が?」
「いや、付き合ってんのかなって」
「つつつつつつ付き合ってるわけっ!!!」
ガタンと立ち上がる渚。
それを稜子が呆れた顔で見ている。
「いや動揺しすぎでしょ。漫画か」
「付き合ってるわけ、無いじゃん。ありえないしっ!」
「なんでよ。仲直りしたんでしょ?だったらもういいんじゃないの?」
「な、何がいいか分からないよ!だって友達だよ!?友達!」
「それ何か問題あるの?」
「問題、あるよ!」
「でも私と啓介も元々そうなんだけど」
「ち、ち、違くて!友達は友達でもそうじゃなくて!えっと、えっと!とりあえずなんか違うの!」
「渚、興奮し過ぎよ。声、大きい」
「っ!!」
周りをキョロキョロしてゆっくりと座りなおす渚。
羞恥を刺激され過ぎて下を向いてしまった。
「…ふーん」
「もうやだぁ…」
「散々私にやっておいてよく言うわね」
「だって、違う、もん」
「じゃあ明人好き?嫌い?」
「ずるい。そんなの嫌いって言うわけないじゃん」
「じゃあ好きでいいじゃない。何が問題なのよ」
「わ、分かんないんだよぉ。なんか、気づけば目で追ってるし、目を合わせるのがなんか恥ずかしいし、気づいたら四六時中ずっと考えてるし、こんなの初めてで知らない」
「渚…それ、何なのか、ほんとに分かんない?」
「分かんないわけ無いじゃん。私、この気持ちがよく分からなくって、少女漫画とか小説とかさ、あとラブコメ映画とか、この一週間で何十作品と読んだんだよ。そしたらもう、分からないわけ、無いじゃん」
「なんだ、どこぞの阿保と違ってちゃんとわかってるじゃない。だったらなんでそんなに頑なになってるのよ」
「…それは、なんか恥ずかしいから…」
死ぬほど小さい声でそう言う渚。
それを聞いた稜子が噴き出す。
「ぶっ」
「な、わ、笑うこと無いじゃん!」
「いや、ごめん、だって、あんだけ私に先輩面してたのに、私より反応初心じゃない、あはは」
「わ、私だって落とされる側なんて初めてなんだもん。知らないよ!」
「でも、恥ずかしいだけなんだ?だったらもう認めちゃいなさいよ。楽になるわよ?」
「み、認めたら…負けなきがする」
「いや働いたら負けじゃないんだから。恋心に勝敗とか無いから」
「それに、神谷君が私のことなんて好きになるわけ…」
「いやどっからどう見てもあなたのこと大好きでしょあれ」
「す、す、す、だ、す、だ、す、だ」
「やば、渚が壊れた」
「うううそだぁ!意味わかんな!」
「いや別に意味は分かるでしょ。あんだけ一緒にいたんだからむしろ自然じゃ無いの?」
「し、し、し、自然。そ、そう。ふーん、そ、そう、なんだ」
「顔、にやついてるわよ」
「にやついてない」
滅茶苦茶にやついている。
「まあ、それはいいけど、明人があなたをどう思ってるかなんて火を見るより明らかよ。なんならあいつが私にあなたのことを話した回数教えましょうか?」
「いい、いらない!何か本当に恥ずかしくなってきたからやめて」
「なんかこういう渚も新鮮でいいわね」
「よくない!もう…」
「ふふ…まあでも、嘘つきたいのは分かるわよ。私も最初そうだったしね」
「そう、だったの?」
「私の場合は啓介に惹かれてるって思った時から、なんであれに?って自問自答を繰り返し続けてたわね」
「な、なるほど。でも、なんかちょっと分かる」
「でしょ?でも結局答えなんて出るわけ無いから諦めたわ」
「つまり?」
「もう好きって認めた。死ぬほど恥ずかしかったけど」
「そっかぁ…そっかぁ…あああああああ…」
顔を覆う渚。
「でも結局いつかはそうしなきゃ。いつまでもそのまんまとか絶対無理よ?どこかではっきりさせないと、進むに進めないんだから」
「うぅ…なんかどこかで聞いた気がする…」
「あら、そうだったかしら?誰かさんからの言葉そのまんまだけどこれ」
「耳が痛ーい…!稜子ちゃんがいじわるする…」
「そりゃまあ今までさんざんなじられてきたし当然よね?」
「すみませんでした…」
「いや謝らなくていいから。でも本当に、はっきりさせないと、どっか行っちゃうかもしれないわよ。行動できるうちに、はっきりさせときなさいな」
「分かった、頑張る…」
「ふふ…やっぱりなんか恥ずかしそうな渚可愛いわね」
「やめて、もうほんとに、やめて。穴があったら本当に入りたい」
「やめなーい」
その後もしばらくなじられる渚であった。




