山積み
とある日の民宿「しろすな」2階。
咲希が階段を何かを持って上がってきていた。
「渚ー!!渚ー!なんか届いたー!」
声を張り上げる咲希。
結構マジで重たそうな段ボールを運んでいる。
「くっそ、あいつ何やってんねん。というかこれなんやねん」
キレ気味にそう吐き捨てながら仕方ないので渚の部屋の前までその謎の段ボールを運ぶ咲希。
ちなみにこの段ボールは先ほど届いたものである。
渚の注文したものらしく中身は見ていない。
「渚ー!」
ドアをノックする咲希。
しかし返事はやはりない。
「え、何、生きてる?入るよー!」
そう言って扉を開ける咲希。
入って見てみれば、渚はベッドを背もたれに、真剣に何かの本を読んでいるところであった。
「渚ーなんか届いたぞ」
「うわっ!咲希姉!何突然!どうしたの?」
「突然ちゃうわ!100回くらい呼んだわ!荷物、届いてたから持ってきたよって」
「うわ、ありがとう。待ってたんだよね」
「なんか滅茶苦茶重たいんだけど、何、新しいパソコンでも買った?」
「まさか、今のパソコンで十分すぎるほどスペック高いのに。違う違う、違うよ。うわ、おもっ!」
「だから重いって言ったろ?階段上がるのに腰砕けるかと思ったわ」
「ごめんね、ほんとに集中してたから気づかなかったよ。よいしょっと」
「相変わらず集中すると何にも聞こえなくなるんだからお前。で、何よそれそんなに重いのってさ」
「うんとね、本だよ。小説」
「ああー成程。重いわけだわ。って言いたいけど、何、段ボールで来るほど買ったわけ?」
「うんちょっとね、読みたいものがあって、シリーズ全部買っちゃった」
「うわ出たよ大人買い。昔からそうだったけど、シリーズまとめて全部買うの多すぎだろお前」
「だってほら、続き気になるじゃんね。そのたびに新しいの買いに行くの面倒くさいし、それに置いてあるかもわからないし、あるうちに買っちゃった方がよくない?」
「いやまあ分かるんだけど、分かるんだけどさ、下にまだあるんだけど」
「そっちも届いてたんだ」
「何、急に本の虫にでもなったか?ラノベの虫かもしれんけど」
「うんとね、今回買ったのは、この間見に行った映画のシリーズで、それが凄く面白かったからその作者さんの別のシリーズもまた買ってたんだ」
「上納金の量がやべえ」
「だってすごい面白いんだもん。もちろんまあそれだけじゃないけど」
「何さ」
「ちょっと蹴りつけたいなって思って」
「何に」
「内緒」
「そこ内緒にするんかい」
「だって私もまだよく分かってないし」
「まあいいけど。いいけど下の段ボール運ぶのは手伝って。もう多分腰死ぬ」
「分かった。ちゃんと自分でやるよ、自分で頼んだ物だから」
「頼んだ」
□□□□□□
別の日。
「しろすな」2階、リビング。
「ただいまー」
「お邪魔します」
咲希と一緒に雅彦も階段を上がってくる。
咲希が呼んだ。
特に理由はない。
「…あれ、渚いるはずなんだがな。何やってんだ?」
「テレビの音的に、何か見てるんじゃ?」
「…こんな爆音で何見てんだ?」
そのまま廊下を進んでリビングに入ると、リビングのテレビで渚が何か映画を見ていた。
画面に男女2名が映っていて何か告白しているので、多分恋愛ものである。
相変わらず渚は入って来た2名に気付く様子はない。
ティッシュで涙を拭きながら集中している。
「あの、渚?ただいま?」
「ん、ん!咲希姉!お、かえり」
「お、おうただいま。どしたん急に映画見て」
「見たくなっちゃって、見てた」
「大泣きしてるし」
「だって。だって。すごい悲しいんだもん」
「いやそれはいいんですけども…そろそろ夕飯…」
「あっ!待って、でもあとちょっとで終わるから」
「いいけどさぁ…」
「ありがとう。ああなんでそこで引き留めないの!」
「…なんかすごい感情移入してますね、渚ちゃん」
「おっかしいな。こんな奴だっけ?」
よく分からないものを見た顔になる咲希だった。




