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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
152/177

もう一度

ある日の駅前。

駅前と書くと人が滅茶苦茶いそうであるが実際この場所の駅前は閑散としている。

誰かいるのを見かける方が珍しい。

そんな場所に男一人。

嫌でも目立つ。


「お待たせ神谷君」


「おっす、渚」


そこにやってくる渚。

相手の男は当然明人である。

今日は先日約束した映画に行く日なのである。


「あれ、今日は可愛い系なんだ?」


「あ、服のこと?うんまあ、適当に選んだからね」


「やっぱ渚はそういう格好の方が渚って感じがするな」


「そう?ありがとう」


今日の渚の格好はある意味普段通りである。

前回映画に行った時のような格好ではない。


「あ、そういえば何見るか全然言わずに誘っちゃったけど、大丈夫か?こんなんだけど」


そう言いながら明人がスマホの画面を渚に差し出す。

最近巷で話題の恋愛ものであった。


「へぇー恋愛ものかぁ。ちょっと意外かも」


「え、なんでさ」


「だって神谷君がこういうの見るイメージ無かったもん」


「いや過去に色々あったけど見ること自体は好きだよ?自分が主演になるのは勘弁願うけど…」


「ふふ、まだその話引きずってるんだ」


「そりゃもう。一生の黒歴史決定だよあれ」


「似合ってたと思うけどなぁ。ちなみに映画はどんな内容なの?」


「んー…学園青春ものって話?ごめん正直俺もよく分かってない」


「よく分かってないんだ。へー楽しみだね」


「そうだな。あ、電車来る」


「じゃあさっさと乗ろっか」


□□□□□□


というわけで映画館までたどり着いた2名。


「えーっと…時間まだもう少しあるな。あ、席ここね」


「とっててくれたんだ。ありがとう」


「無理矢理誘ったしな。それくらいするって。あ、今度は普通の席だから、安心して」


「ほんと?それはよかったよ。前みたいに窮屈なのはもういいかなって思ってたんだよね」


「真ん中に置くスペース無かったしなあれ…あ、飲み物とか買う?」


「ううん、今日はいいよ。お金無いし」


「あれ、いいのか?それくらいおごるぞ?」


「ううん、いいよ。悪いし。食べなくても平気だから全然。なんたって映画を見に来ただけだからね」


「いいって、遠慮するなよ。前と同じでいい?」


「ううん、本当に大丈夫、大丈夫だから。気にしないで。映画は、別に、ポップコーン食べないといけないなんて決まりは無いんだし。それにほら、もうすぐ映画始まっちゃうでしょ?」


「流石に買う時間はまだあるって。じゃあ俺が食べたいから買ってくる!それならいいだろ?」


「う…まあ、神谷君が食べたいなら止めないけど」


「じゃあ、そういうことで。ごめん、ちょっと待っててくれ」


そう言って売店に向かう明人。

戻ってきた明人の手に塩のポップコーン。


「ん、お待たせ」


「ううん、全然大丈夫だよ。あれ、神谷君キャラメルのポップコーンじゃ無いの?」


「普段ならそうだけど、今日塩食べてみようかなって思ってさ」


「へー珍しいね。そんな日もあるんだ」


「毎回毎回キャラメルばっかだと流石にちょっと飽きるしな。ただ、普段食べないから余るかもしれないし、その時は食べてくれよな」


「あ、うん、それは全然大丈夫だよ。なんか、ごめんね、ありがとう」


「よし、じゃあ行くか。始まっちまう」


□□□□□□


数時間後。

映画が終わってロビーに戻ってきた2名。


「んー終わった。こういうジャンル正直初めて見たんだけどさ、意外といいな。ちょっと涙腺来た」


「うん、そうだね」


少々余韻に浸っているのかぼーっとした様子の渚。

途中で実は泣いていたりした。

感情移入を激しくしていたようである。

涙腺崩壊系だったのもあるが。


「渚も泣いてた?」


「うん、途中ですごく、グッときちゃって。恋愛ものなんて久しぶりに見たけど、こんなに感情移入したの初めてかもしれない」


「途中の展開あれずるいよなぁ…俺そこまで泣いたりしないはずなんだけど、目元拭って涙つく程度には涙出てたよね」


「うんうん、そこもよかったよね。私はね、最後でヒロインが心に秘めてた思いを全部吐き出したシーンで泣いちゃったんだ。はぁーすごい良い映画だったなぁ」


「話題になったのも納得だった…話変わるけど、お腹空いてない?」


「凄く変わるね?うんちょっと空いたかも」


「ごめん、俺がお腹空いてきて…じゃあお昼どっか行かないか」


「うん、いいよ。それに神谷君が食いしん坊なの知ってるし」


「言うほど食いしん坊かな俺…」


「いっつもお腹空いたって言ってるよ?」


「えぇ!?そんな言ってないけど!?」


「気づいてないだけで言ってるんだよ?知らなかった?」


「し、知らない。え、マジか。俺そんなに腹減ったって言ってたのか…」


「はは、心配するほどは言ってないから安心して。でもよく言ってるよ」


「マジか、気を付けよ…あ、行く場所ここでいい?近場のあそこだけど」


スマホで付近の飲食店から一件表示して渚に見せる明人。

ファミレスである。

前回と一緒である。


「うん、いいよ。またファミレスだね」


「財政難なもので…あ、渚」


「何?」


「ドリンクブレンドやめてね?」


「分かってるよ。しないよ。安心して」


「安心できないんだよなぁ…」


「ほんとに今日はやるつもりないから。大丈夫だよ」


「そうか?安心して飲んでいいのか?」


「むしろ神谷君、心配なら自分で汲みに行った方がいいんじゃないかな」


「前回取りに行く暇与えられなかったんですけど」


「それは神谷君が立ってなかったからじゃないかな?」


「じゃあ今日は渚の分も俺が持ってこよう」


「うん、いいよ」


「どのブレンドがいい?」


「どうぞお好きに?」


「その返答はズル。変なことできないじゃん」


「私は神谷君がきっと私が好きそうなものを選んでくれるって信じてるから」


「ここで滅茶苦茶なやつ持ってったら俺ただの屑なんですけど」


「まだまだ甘いね神谷君」


「渚に学ぼうそうしよう」


「じゃあお手並み拝見といこうかな」


「あ、でもそこはやっていいんだ。どうしようかなー…」


「ほら考えてないで早く行くよ」


「そうだな。行くか」


□□□□□□


そんなこんなで昼飯食べて帰りの電車に乗った2名。

今日は渚も寝ないで横で起きていた。

電車降りてからの帰り道。


「今日は寝なかったな」


「うん、まあね。前回の反省もあるし。それに、眠くならなかったから」


「まあ寝ると起きないもんな渚」


「そうそう。一度眠るとね、起きれないんだよね」


「寝過ごしてたもんな。一回」


「そんなことも、あったかな」


「いや過去系だけど過去じゃ無いからな。現在進行形の危機だからな」


「大丈夫だよ。だってほら、今日は寝なかったでしょ?」


「今日はな。だいたい寝てないか帰り」


「今まではね、そうだったかも。でも、もうしばらくは寝るつもり無いかな」


「まあ寝たら起こすだけだけど」


「それにお姫様抱っこなんてもうされたくないしね」


「俺もあれは勘弁してください…」


会話しながら歩いていれば、小さな駅なのですぐ道に出る。


「それじゃあ神谷君。今日はありがとう。楽しかったよ」


「え?送るよ?」


「ううん、ここで大丈夫。この後夕飯の買い物もするし、今日はここまでで大丈夫だよ」


「んーそうか?分かった。わざわざ今日付き合ってくれてありがとな!楽しかった!」


「ん、私こそ、ありがと。誘ってくれて。またね」


「おう、またな」


そう言って2人はそこで分かれた。


「はぁ…なんで今更、こんなにほっとしてるんだろう…私は結局どうしたいんだろう」


温かいような痛いようなチクチクするような胸に渚は手を当てた。


分かっている、自分が本物じゃないことも、近づきすぎてはいけないことも、分かっているはずなのに。

また近くに居られることがなんだか妙にほっとする。


そんなほっとする気持ちが渚にはなんなのか分からなくなっていた。


今年の最終投稿です。

来年もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや告白せんのかーーーーーーーーい!笑 温かい目で見守ります( ¯▽¯ ) 良いお年を
[一言] 再びの映画、前回のやらかしはせず。 今年も楽しませて頂きま、どうもありがとうございました。良いお年をお迎えください。
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