こっちも
「しろすな」の夕食時間。
久しぶりに咲希、渚の他に明人も顔を出していた。
「…んーやっぱ渚の手料理美味い!久しく食べてなかったからさらに美味く感じる!」
「そ、そう?それなら、よかった、ね?」
「なんだその微妙な反応。褒められてんだからもうちょっと喜べよ渚」
その返答に咲希が突っ込む。
渚はと言うと、ものすごく悩ましい顔をしていた。
「まあでも、神谷君くるの久しぶりだもんな確かに。どういう風の吹きまわしなんですかねこれは?」
その咲希の言葉にばつの悪そうな顔になる渚。
散々この前明人のことで喧嘩した後なのでそりゃ回答にも困る。
「色々あって…」
「色々ねぇ…まあ、とりあえず一旦いいや。また後で聞くわ。飯が不味くなるしなぁ」
「はい…」
隣でそれを聞いた明人は不思議そうな顔を浮かべていた。
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というわけで明人が帰ってしばらくして。
2階のリビング。
椅子に座った咲希と、床で正座してる渚。
「いや、何してんの」
「隣に座るべきじゃないと思って」
「話聞きたいだけだし座っていいけど」
「いいのこのまま聞くから」
「別に説教したいわけじゃ無いんだが…それで、どうなったんあいつと」
「どうにも、なっては、いないよ。一応」
「んーでもそもそも会いたくないー!って言ってたから夕飯呼んだって聞いてふぇ?ってなったんだが、なんかくらいはあったんだろ?」
「うん、私ね、実際、今日会った時はすごく居心地悪かったし、どこかにいなくなりたくなるくらい気持ちが悪かったよ」
「うん、まあ知ってる。そもそも昨日、今日仕事場出ろって言った時のクソ嫌そうな顔覚えてるもんな」
「だからさ今日、私神谷君に話したくないって言ったんだよね」
「ほう、それで?」
「それでも神谷君は私と話すのが楽しいって言ったの。私が適当に返事しても、そのことについて聞いても、嫌な顔一つしなかったの。そしたらなんかさ、一人でそんなことずっと悩んでた挙句に、また結局向き合わずに逃げようとしてたんだなってことに気づいたんだよね」
「じゃあ、とりあえず一回向き合う気になったって感じなのか?」
「あのね、私、前言ったことは、まだ本当にそう思ってる部分もある…だけど、咲希姉の言ったことも、ちょっとだけ、分かった気がするの。だから、もうちょっと向き合ってみようと思ったの。ううん、思えたの。だから今日は、その第一歩」
「…はぁ、ま、とりあえず仲直りはした感じってことで良い?」
「仲直り、なのかな。まだよく分からないけど、でもこの間よりはずっとマシな気がする」
「うんまあそれは。お前の顔が今日は死んでない」
「でもやっぱり咲希姉の言ったことが絶対だとは思えないんだ。それに、やっぱり私は自分が誰かよく分からない。だからやっぱり私は、神谷君から離れないといけないかもしれないし、嫌な思いをさせないといけないかもしれない。でも、もうちょっと、ちゃんと神谷君と向き合ってみようと思う」
「まあ、それならいいんじゃないの。向き合わずに逃げたらどうなるかは俺が言うまでもなく知ってるだろうしな。それに、ちゃんと向き合って、結果駄目でもさ、まあなんか逃げるよりかはマシな結末が待ってそうじゃね?」
「そうだね、そうだといいな」
「ま、とりあえず良い方に転がったみたいで何よりだわ。ここ最近のお前完全に生気抜けて幽霊かなんかみたいだったしな」
「うん。そう、だから咲希姉。この間は怒鳴って逃げてごめんね」
「いいよ別に。また勝手にデリケート部分に俺が突っ込んだだけだし…まあまたなんかあったら相談くらいはしてくれよ。どうせ一緒にいるんだし、境遇だけなら一緒だからな」
「うん。ありがと」
「じゃあこの話は終わりで。…とりあえず正座やめたら?」
「うん、そうする、ちょっと痺れてきた。私も、ソファの方がいいかも」
「そりゃそうだろ。何故か子供を叱る親の立場を知った気がするんだけど」
「おかしいね。私の方が本当だったら半年は年上なのに」
「ほんとだよ。俺より人生経験豊富なくせに」
足を痺れさせた渚が、ソファに座りなおした。




