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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
146/177

気まずい

民宿「しろすな」キッチン。

時刻はそろそろ夕方。

いつものように夕飯の準備のために渚と明人がそこで仕事をしていた。


「神谷君、そろそろ机拭いて来てもらってもいいかな」


「分かった。今日、客何人?」


「2組で7人いるから、机2つくらいちゃんと拭いておいてくれれば大丈夫だよ」


「そうか。拭いてくる」


一見普通に会話している2名。

声だけならば普段通りである。

が、普段だったら必ず相手の方を向いて話すのにも関わらず、今はお互いに相手のことを視界に入れていない上に無表情。

見る人が見たら何かあったのは一発で丸わかりである。

そもそも先ほどからしている会話も、仕事の会話ばかりで普段のような雑談がまるでない。

人が変わったかのような変容っぷりである。


「運ぶのこれか?」


「そうだよ。今日は4品あるから、置忘れに気を付けてね。私はお客さん呼んでくるね」


「ああ」


それだけ話すとお客を呼ぶためにキッチンから出る渚。

いやまあ流れとしてはだいたいいつも通りなのだが、空気は冷え切っていた。


□□□□□□


お客が夕飯を食べ終わった後。

いつものように2人で跡片付けをしている。


「…」


「…」


普段であればこの時間が一番2人の口が動く時間であるのだが、今日は会話が無い。


「はい」


「ん」


声が出るのは洗い物の皿等が渡されるその瞬間だけ。

しかもただの声でしかないので会話ではない。

いつもの賑やかな雰囲気は今日は一ミリたりとも無かった。


□□□□□□


「…じゃあ、俺、帰るから」


お客の片づけが終わり、普段であればさあようやくこっちの夕飯だという時間。

当然明人も食べていく割合が非常に高いのであるが、今日はもう帰るそぶりを見せる。


「うん…今日もありがとう神谷君。じゃあね」


「ああ、またな」


「うん」


そう言ってキッチンから出る明人。

普段であれば渚も一緒に玄関まで見送りに行くのであるが、今日はキッチンから出すらしなかった。

そのまま靴に履き替えて、玄関の扉に手をかける明人。

だいたいいつもはここで渚との最後の会話が発生するのだが、そもそも話す相手が来ていないので早いものである。

が、そんな明人に声をかける人物がいた。


「あれ、今日、帰るの早くない?」


「え、ああ、咲希さん」


階段上から声をかけたのは咲希であった。

別に明人を引き留めに来たわけでは無い。

夕飯の匂いに釣られて降りて来ただけである。

が、普段なら絶対帰らない時間に帰ろうとする明人を見かけたので声をかけたわけである。


「もう夕飯終わった?」


「あ、えっと、今日は食べずに帰ろうかと」


「え、なんでさ急に。あ、なんか予定ある?」


「え、特には」


「じゃあいいじゃん。どうせ渚も3人分作ってるだろうし、遠慮とか今更じゃんね?」


「え、えっと…」


「はいはい、戻った戻った。私も腹減ったしさっさと夕飯にするよ」


一応明人からすれば咲希は雇い主。

こう言われては引き下がれない。

ここで無理やり帰れる精神の持ち主では残念ながらなかった。


□□□□□□


「渚ー夕飯何ー」


「今日疲れたからカレーだよ」


「お前最近毎日疲れてねえ?大丈夫?」


「え、なんで?そんなに疲れてるって言ってる?」


「言ってる。というか最近夕飯になる度に今日疲れたからワード飛び出てるけど」


「そうかな…気のせい気のせい」


「あ、んで、何故か神谷君どっか行きそうだったから連れてきた」


「なんっ…分かった」


喉元まで出かかったなんでを飲み込む渚。

仮に今咲希になんでと言っても咲希の方がなんでと返してくるにきまっているので。


「あ、でも、今日俺帰る予定だったし夕飯の数足りてないんじゃ…」


咲希に連れてこられた明人は物凄い居心地悪そうにそう言う。


「え?作ってんだろ?え、マジでない?」


「えっと…ちゃ、ちゃんと、あるよ?」


「えっ…」


「ほらー大丈夫だってもう神谷君の分まで含まれてるから人数に」


今日に限っては絶対ないと思っていた明人。

なんでの文字が明人の心の中も飛び交った。

なお渚的には、最初は咲希と渚の分だけにする予定だったが、もし食べてくとなった時に無いと対処に困るため、一応作っておいただけである。

最悪食べていかなかったら明日の朝飯になっていただけであるので。

だからこそ量をごまかすためのカレーなのであった。


□□□□□□


というわけで3人で夕飯。

普段であれば渚と明人が会話しているのを咲希が横で聞いてるパターンが多いのだが、今日はそもそも会話が今のところない。

咲希も話を振ることはしないため、現状ついてるテレビと食器の音以外しない状態である。


「そういえば咲希姉、この間戸川さんが来た時、最後の方どうしてたの?」


「いやどうもこうも…お前がランポ連れ出してくれたからその間に慌てて外まで引っ張ってったけど?」


「へーそうだったんだ。じゃあ結局あんまり大月さんとは話してないの?」


「まあでも下でお前がランポを押さえてる間に色々話せたからまあ話せないって程でもなかったかな」


「そっかぁ、それは良かったよ。また大月さん来るって言ってた?」


「今度は絶対大丈夫な日に来るってさ」


「そっか、それなら安心だね」


静寂に耐えかねたのか、渚が口を開くもその行き先は明人ではなく、咲希であった。

明人がそこに入ってくることも無かったため、逆に明人の肩身が狭い。

というかそもそも咲希と渚しか知らない会話内容であるため、明人が入る余地を与えなかったという方が正しい。

ぶっちゃけわざとである。

しかもそう大して盛り上がる内容でもないため、そこで会話が途切れる。

再びテレビと食器の音だけの世界に逆戻りである。

余計気まずくなった。


□□□□□□


というわけで夕飯が終わり、今度はそこで使った食器類の片づけに入る2名。

咲希は食器類をキッチン内に置いたら、そそくさと出て行った。

まあいつものことである。


「じゃあ神谷君、今日はもう私全部やっておくから、帰っても大丈夫だよ。神谷君も疲れてるでしょ」


「えっ、でもそれは」


「大丈夫、さっきと比べれば全然量も無いし、私だけでできるから」


「…そう、か。じゃあ、任せる。…今日は帰るよ」


「うん、今日は…夕飯付き合ってくれてありがとう。それじゃ、またね」


「…またな」


そう言うと今度こそ明人はキッチンから飛び出してそのまま玄関を出て行った。

そんな明人の後姿を、渚は見つめるだけであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ひたすら気まずい食事でしたね。
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