そのころ
「はぁ…どうしてこうなった」
自室でつぶやく咲希。
それを隣で苦笑いしながら見つめる雅彦。
本来であれば本日は誰にも邪魔されずに雅彦と2人でいられるはずだったのだが。
現実は非情である。
「いやほんと、お構いなくで、大丈夫ですよ咲希さん」
「私が構います。流石にわざわざ来てもらっといて放置とかできませんよ」
下で放置されているのが一名いるが、まあそれはそれである。
残念ながら優先度的には雅彦のが圧倒的に高い。
「…よし、雅彦さん。ゲームしましょゲーム」
「え?この状況でですか?」
「元々一緒にやりたかったですし、どうせ私の部屋でやるつもりだったし、状況がどうであれ一緒ですよ。まああんまり大声上げると下に聞こえるんで声は抑えめでですけど…」
やけくそ気味にそう言う咲希。
まあ元々一緒にゲームやりたいのはあったので多少予定は狂ったがもういいやで押し通すことにした。
「あ、でも自分今日パソコンとか持ってきてないですよ?」
「その辺は抜かりないですよ。2人プレイできるゲームくらい用意してありますとも。あ、流石にキーボード2つは厳しかったので片方はゲームパッドですけど」
「あれ。前は無かった気がするんですけど…?」
「そりゃまあとりあえず雅彦さん呼ぶならゲームしないと始まらないでしょ?その用意はしますよ?元々ゲーム友達から始まったんだし」
「あれ、取引先じゃ無かったですかね最初」
「あ、そうか。まあまあでもプライベートで会うようになった要因ってだいたいゲームなんで実質そこがスタートってことで」
「ゲームがキューピッドになってくれたってことか…」
「キューピッド…ああ、確かに、そうなるのかな?実際ゲームの話であんだけ盛り上がらなかったらこうはなってないですよねぇ」
実際興味があること以外に対して話があまりできないタイプの人間である咲希とここまで仲良くなれたのはゲームが大部分を占めているのは間違いない。
今でこそその人柄等も好いているものの、始まりは間違いなくそこであったので。
「…というかわざわざ俺のためにありがとうございます」
「え?ああ、パッドのことですか?別に気にしないでください。せっかく一緒にいるのに、一緒にやれないのとか寂しいですし?」
「ああ、それもそうなんですけど、椅子。ありがとうございます。これもこの前無かったですよね」
「あ、まあ席一個しかなかったんで…私だけ座ってってのも変な話でしょ?どうせなら隣合ってワイワイやりたかったので。ちょっとワイワイは無理かもしれませんけど」
「はは…そうですね。すいません、俺の確認ミスで」
「いや、ランポさんのことなら私からやっぱり断り入れるべきでしたね…任せきっちゃった私の方が悪いです。気にしないでください」
「でもせっかく気兼ねなく咲希さんと一緒に居られる機会だったのに…」
ものすごい残念そうな顔の雅彦。
思わず吹き出す咲希。
「ぷっ」
「え、何で笑ったんですか」
「いや、あんまり残念そうな顔してたのでつい。え、そんなに楽しみにしてくれてました?」
「そりゃもう、昨日の夜もあんまり寝付けず」
「小学生じゃないんですから。もう」
「あはは、流石に冗談ですけど。でも楽しみだったのは本当ですよ」
「ふふ…だったら大丈夫ですよ。今日は気兼ねなくはちょっと難しいかもしれませんけど、別に今日だけって話でもないでしょ?また来てくれればいいんですよ?」
「今度は絶対大丈夫な日に来ます」
「あはは、そうしてください。ささ、いつまでこうやってられるかもわからないんでやりましょ?」
「そうします。あ、でも何をやるんです?」
「これですかね」
提示したのは相手の妨害しながらゴールを目指すタイプのレースゲーム。
たぶん誰とやっても盛り上がれるタイプのゲームなので、一緒にやるゲームとしては悪くないのだが、状況が問題であった。
「…声抑えるのが難しくないですかねこれ」
「…確かに。別のにしましょうか」
「そうしてもらえると助かります」
意外と大声出せない制限きついなとお互いに思わずにはいられなかった。
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「あっ…ああーー駄目休憩。休憩します」
「えっ、早くないですか?」
「駄目です。声出せないのすっごい疲れる。あぁーー」
それからしばらく経って、結構熱中してゲームをしていた2名ではあったのだが、珍しく先に咲希が根を上げた。
ワイワイしたいのにできないというのは想像以上にストレスがたまるのを思い知った咲希である。
そのまま椅子から降りると後ろに倒れ込み部屋の床に置かれている丸型クッションへ沈み込む咲希。
雅彦も椅子から降りると咲希の横に座り込む。
「雅彦さんよくあんなに声抑えられますね。私無理なんですけど」
「ああ、まあ自分は普段から自分の部屋でそこまで大声出せないので。慣れてるのもありますかね」
「あーそういうことかぁ…いやー一人ならともかく、複数人でやるとやっぱ声抑えるの無理だなぁ…」
そう言いながら仰向けに寝ながら欠伸して伸びる咲希。
色々と無防備である。
「…ん、どうしました?」
欠伸している時に閉じた目を開くと雅彦と目が合う咲希。
「いや、可愛いなと思って」
「え?な、なにいきなり言ってんですか」
「いや、こんな無防備に目の前で寝転んでる咲希さん見て思っただけなんで気にしないでください」
「気にします!ちょ、というか今日可愛い可愛い言いすぎです!やめてください!」
「そういうこと言われるともっと言いたくなるんですけど」
「…ドSめ」
ジト目を放つ咲希。
ちょっとたじろぐ雅彦。
咲希の見た目から放たれるそれは結構強烈である。
「いや、なんか普段の雰囲気から想像できないほどうろたえるからつい…」
「もう…そんな私の反応楽しいですか?」
「楽しいですよ。目がキョロキョロするし、顔が赤くなるし。顔が明後日の方向くし」
「具体的に言わないでください。余計恥ずかしいわ」
そう言いながら横に置いてある別の丸型クッションを横にもってくる咲希。
「はい。そこ背もたれないし、座ってると腰痛めますよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってクッションを受け取る雅彦。
そのまま座ろうとすると咲希に止められた。
「違う違う。こっちこっち」
「え?ここですか?」
「横空いてますよ」
「え、寝ろと?」
「そういうことです。いやなんか一緒に寝てるの恋人っぽくないです?」
「い、いや、聞かれても、その、困るんですが」
「よし、雅彦さんが赤くなった、勝った」
「何の勝負ですかこれ…」
「顔を赤くする勝負?2敗したのでお返しってことで」
「謎のカウンターを受けた…じゃあ、そう言うことなら」
そう言うと咲希の隣に横になる雅彦。
仰向けである。
「…なんでこっち向かないんですか」
「…恥ずかしいんで」
その言葉で咲希が雅彦の方に目だけ向ける。
「くく、あの、寝てるのに体硬直しすぎですって」
「咲希さんが気になりすぎて色々無理です」
「じゃあこうしたらどうなります?」
そう言うと咲希が雅彦の手に手を絡める。
一瞬雅彦の体がびくっとする。
「お、なんか反応した」
「…咲希さん、遊んでません?」
「ちょっと?」
「ちょっとじゃないですよ。俺咲希さんがこんなキャラだと思ってなかったんですけど」
「え、どんなキャラです?」
「いや、こうなんか今の関係になってからかなり触れに来るなって」
「ああ…幻滅です?」
「いや、まったく」
「ならよかった。…元々こういうこと自体は好きなんですよ。距離感測りかねるんで普段だとやれないんですけどね」
「そうなんですか?」
「そうなんです。…今ならその、彼女だし、いいですよね?この前なんか変なタイミングで手繋いじゃったし」
「自分は、構いませんよ。むしろ、嬉しいんで」
「じゃあ、このまんまで。もうやれること無いし寝ましょ。ふて寝ですこのまま」
「ゲーム終わって即寝ですか」
「他にやることあります?」
「自分は咲希さんとこうやって喋ってるだけで全然楽しいですよ?」
「まあ私もですけどね。じゃあこのままおしゃべりしますか」
「このままですか?」
「いやですか?」
「いや…ではないです」
「もうちょっと絡まった方がいいですか?」
「これ以上されると俺の精神が崩れそうなんで今日のところは」
「ふふ…じゃあこれで今日は許してあげましょう」
「ほんと、咲希さんキャラ変わりすぎじゃないですか」
「どちらかというとこっちが素です」
その後しばらくそのまま喋った2名。
渚からランポを連れ出すメッセージが届いたのはそれからしばらく経った後の話である。




