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「あ、渚ちゃん、どうだって?」
階段を降りてきた渚にそう声をかける悠太。
咲希から放置を食らっているとは知る由もない。
「なんか咲希姉パソコンの調子がおかしいみたいで、私じゃちょっと分からなかったので、降りてきました」
「ああーそういうことかぁ。俺もパソコンはあんまり詳しくねえし、どうしようもねえなそれ…」
「なのでもうしばらく咲希姉は降りてこれなさそうです」
「まあそう言うことなら仕方ないか…あーでもどうしような。喋る気満々で来たから暇つぶし何にも用意してねえ」
「ゲームとか持ってきてないんですか?前持ってきてたみたいですけど」
「いやあるよ?あるけど一人でやってたらそれ家でやってんのと変わんなくねえ?今日雅彦のやつもいねえしさ」
いる。
上には。
そう思って若干苦笑いになる渚。
「え、なんか俺今変なこと言った?」
「へ?全然言ってないですよ。それよりも戸川さんどんなゲームやるんですか。私に見せてくださいよー」
そのまま悠太の隣に座る渚。
「お、何渚ちゃん興味ある?」
「ありますよ。私も前はゲームいっぱいやってたので」
「前はってことは今はやってないの?」
「こっちに引っ越してからはあんまりやってないですね。だから最近どんなゲームがあるか知らないです」
「なーる?まあでもガンシューやってるみたいだし結構やる時はガチるタイプっぽい?」
「ガチるっていうかハマるですかね。私負けるの嫌いなので。勝てるまでやっちゃいますね」
「へーじゃあ対人ある方がいい感じか」
「一人でやるよりはそっちの方が好きかもしれないですね」
「ほう!ならこれとか良さそうだな!」
戸川が自分のバッグをごそついて取り出したのは最近はやりの持ち運びもできるゲーム機であった。
「これさー子供むけかなーって思ってたんだけど買ってみたら意外と色々遊べるしさー、コントローラー分かれるから多人数プレイに便利で手放せなくなっちまったんだよね」
「あ、これなら見たことありますよ。でもどんなゲーム持ってきたんですか?」
「それはこれよ。いや前回結構やったら盛り上がってさ。そのまんま持ってきた」
がっつり鞄から出てきたパッケージ。
そこにあったのは某有名乱闘型格闘ゲームであった。
「やっぱ多人数でやるならこれだろ!って思ってさーいやクソ雑魚だけど俺とか」
「確かに大人数でやると楽しいですよね。私もあんまり強くないですけど。ちょっとやる分には好きですよ」
「お、ということはもしかして渚ちゃん経験者か!」
「もっともっと前の奴しかやったことないですけどね」
「え、いつの?」
「据え置きの…箱の奴です」
「箱の…え、20年前くらいの奴じゃんそれ。え、渚ちゃん何歳よ?」
「え、あーえーっといつだったかなぁー咲希姉がやったのを借りてやってたのであんまり覚えてないです」
「あー咲希ちゃんかぁ。流石ゲーマーだなぁ古いの持ってんな」
「でも前の家に置いてきちゃったので今は無いですけどね」
前の家など知らないが便利である。
とりあえずそうしとけば何も突っ込めないので。
「あーじゃあさ、渚ちゃんやろうぜ?」
「いいですよ、でも操作とか全然知らないので教えてくださいね」
「オッケーいやー渚ちゃんいてくれて助かったわ。一人でこれ延々とやってるとなんか寂しさで泣きそうになる」
「そ、そんな一人でゲームやって泣かないでくださいよ」
「いやパーティーゲーム一人でってやっぱつれえなって」
「そもそもパーティーゲームを一人でやることあるんですか」
「…やること無かったら、こんなこと言う?」
「そう…ですね。とりあえず、やりましょっか」
「おうよ!」
□□□□□□
「よしじゃあそろそろ普通にやるかぁ」
「なんとなく操作は分かったので大丈夫だと思います」
「よしじゃあタイマン?」
「いいですよ」
「じゃあタイマンガチステージアイテム無し…」
「え、アイテム無いんですか?」
「あ、あった方がいい?」
「お願いします」
「おっけ。じゃあアイテムありで」
そして実際に対戦を始める2人。
「おらっ食らえや!」
「あ」
「うっし1点!」
「今のは手が滑っただけですから」
「…の割には結構大胆に落ちてた気がするけど?」
「隙ありです!」
「おいちょっと待て!」
「喋ってる方が悪いんです」
「あ、ちょ、あああああぁぁああ!」
「ほら、手が滑っただけでしょ」
「きたねぇ!めっちゃきたねぇ!」
「こうでもしないと勝てないので」
「騎士道はねえのかよぉ!」
「無いですね」
「鬼畜ぅ!」
で、その後。
「勝った。めっちゃきたないことされた気がするけど勝った」
「も、もう一回やりましょう」
「受けて立つ!」
そしてまた1戦が終わった。
「よし、汚い手になれて来たぜ」
「なんで、なんでアイテム私は取れないんですか!取れてたらまだワンチャンあったのに」
「それをつぶすのもプレイングよぉ!どうするまだやる?」
「まだまだ序盤ですから!慣れてないだけですから、やります!」
そして何だかんだうん十回のプレイをし続けた2名。
「…渚ちゃん、あの一個聞いていい?」
「はい、なんですか?」
「あの、アイテム投げる以外知ってる?」
「このボタン押せば攻撃ですよね。知ってますよ」
「いやそうじゃなくてさぁ!いやコンボとか?立ち回りとか?あるやん!」
「できないです」
「マジか…え、やったことあるんだよね?」
「ありますよ。でも、ずっとこんな感じです。なんだか分からないんですけどこのゲーム凄く苦手なんですよね。練習もしてみたんですけど全然うまくいかなくて」
「それ先言ってよ、別の出したのに」
「いいです、手加減されるの嫌なので」
「負けず嫌いそこで来る?」
「1回倒せたらそれで満足できるのでいいです。というわけでもう一回お願いします」
「マジ!?やるの!?」
そして結局数戦追加で行った2名。
「…いややめとこ。駄目だこれ」
「はい…やっぱり苦手かもしれないです」
「いやはっきり苦手じゃ無いかなこれ!?俺この前の渚ちゃんのゲームプレイ見てるから言えるけど絶対渚ちゃんこれ苦手だって!」
「2Dのゲームへたくそなんですよね」
「3D出来てできない理由が分からないんだが?」
「ちなみに私は某赤い帽子が有名なアクションゲームはクリアしたことが無いです」
「え?マジ?それ」
「マジです」
「…得手不得手あるとは言うけどここまでとは」
「なんていうか搦め手が使えないゲームは苦手なんですよね。単純にゲームがへたくそっていうのもあるんですけど」
「下手は…無いとおもうんだがなぁ?」
「もうちょっとゲーム上手くなりたかったなぁ」
と、その辺で一瞬会話が止まる。
瞬間悠太が急にソファーの端っこの方へと移動した。
「どうしたんですか?」
「渚ちゃん近い!」
「え、あ、ごめんなさい」
「俺耐性無いんだって!やめて!死んじゃう!」
「え?…?」
不思議なものを見た顔をする渚。
実際不思議なこと言っている。
「…いやさぁ、女っ気無さすぎてさぁ、俺の周り。もうなんか近くに女子がいるだけで過剰反応するようになってたんだよねぇ」
「さっきまで大丈夫だったじゃないですか」
「さっきまではゲーム集中してたからまぁ?気づいたら真横どころかほぼ密着じゃんか?ビビったよ」
「あー成程、そういうことだったんですね。私もちょっと近すぎたかもしれません。気を付けますね」
「いやマジ渚ちゃん気を付けなよ。俺みたいなやつ簡単に勘違いするからね?」
「あーそれはちょっと困るんで気を付けます」
「遠回しに振られた気がする!告って無いけどさ!」
「ノーコメントでお願いします」
「逆に辛辣ぅ!」
会話しながら渚はサッとスマホを取り出して、咲希にチャットを送った。
『今から戸川さんを外に出すから、戻ってくるまでには全部終わらせといてね』
「そういえば、今日多分戸川さんしかお客さんいないので、戸川さんのリクエストで夕飯を作ろうかなって思うんですけど、今から買い物行くって言ったらついてきたりしますか?」
「え、それいろんな意味で大丈夫?」
「どういう意味ですか?」
「渚ちゃんこんなおっさんと一緒に歩いてて噂立たん?」
「そうですね戸川さんがもうちょっと若かったら分からないですけど、どちらかといえば保護者と被保護者って感じじゃないですか?」
「…いいのかそれで?まあいいや!どうせ暇だしついてっていいならついてくわ」
「じゃあ準備してきてください。私ここで待ってるので」
「おっけー。…はい準備終わりー」
「え?大丈夫ですか?」
「え、何そのこいつ頭おかしいんじゃねえのみたいな感じ」
「あ、そういうわけじゃなくて。貴重品とか大丈夫なのかなって」
「ああ、常に携帯してるから問題ない」
「まぁ戸川さんが気にされないならいいですけど。それじゃあ、行きますか。帰ってきたら咲希姉も多分落ち着いてる頃合いだと思いますし」
「そうだと嬉しいけどな!じゃあお供させてもらうぜぃ!」
「お願いしまーす」
そう言うと渚は悠太を連れて外に出た。
悠太もまさか誘導されているなど知るはずもなく、そのまま連れられて出て行った。
真実に気づくことは多分、無い。




