いる
がらりと扉を開けて帰ってきた渚。
「ただいまー」
いつものように靴を脱いで玄関を上がると、すぐ横のソファーから声がかかった。
「お、渚ちゃん」
声に反応してすぐ横を見るとそこにいたのは戸川悠太であった。
渚がその状態で一瞬固まる。
頭で巡っているのは誰だっけである。
「あ、戸川さんこんにちは。来たお客さんって戸川さんだったんですね」
「名前覚えてくれてるー!あ、そうそう俺俺」
「や、まあ、咲希姉のお友達の人なので覚えてますよ。今日は何しに来られたんですか?」
「え、宿に泊まるのに理由いる…?」
「なんというかこの辺何にもないので。特にイベントがあるわけでもないですし、どうしたのかなーと思って」
「ああ、そういうこと?いや暇だしまた咲希ちゃんとか渚ちゃんと喋りたいなーって思って来ただけだが?って感じ」
「ああ、そういうことですね。了解です。それで咲希姉はどこに行ったんですか?」
「さっき上に慌てて上がってくのを見たからここで待ってる」
「ああ、そういうことなんですね。今日は上に上がらないんですか?」
「え?上がっていいの?」
「え、駄目なんですか?」
「いや流石に勝手に上がるのは不味いかなって思ってたんだけど、いいの?」
「一人で上がってこられたら流石にびっくりしますけど、咲希姉に会いに来たんだったら、普通は一緒に行動しません?」
「何か話す間もなく上がってちゃったから何にも聞けなかったんだけど、上がってもいいなら上がらせてもらいます!」
「え、いいと思いますよ、だって今日大月さんもいるでしょ?」
「あ、あああいつ?今日来てねえよ。なんか付き合い悪くてさ、無理なんだと」
「あれ?そうだったんですか?でも今日来るって言ってましたよ?」
「え?ああ、あいつが来なくなったってこと伝えてなかったしそのせいかな?」
「あーへーそうだったんですねー。おかしいなぁ」
と、そこで階段上からどたどた足音が聞こえて咲希が顔を出した。
「あ、渚お帰り」
「ただいま。咲希姉今日大月さん来てないの?」
「え、あ、雅彦さん?えーあー来てない、来てないよ。来れんくなったとさ」
「なーんだ。そうだったんだ。それに来たお客さんって戸川さんのことだったんだね。それにしても咲希姉せっかくお友達が来たのに、下にほったらかして何しに行ってたの?」
「どうしても片づけないといけない問題が上にあってね」
「そうなんだ。じゃあ私が代わりにやってあげるよ」
「え、ああ…じゃあちょっと上がってきて。ごめんランポさんもうちょっと待ってて!」
「うぃー了解」
その言葉に連れられて2階へと向かう渚。
「それで?何が問題なの?洗濯とかならやっておいたと思うけど」
「ああ、そういうことじゃなくて…まあ、部屋来てちょっと」
咲希がそう言うので咲希の部屋前まで行く渚。
「来たけど、どしたの?ゴキブリでも出た?」
「阿保、そんなんなら自分で対処するわ。今から開けるけど、ちょっと声出すなよ。下のあれに聞こえるとめんどい」
「え?どゆこと?」
そこで扉を開く渚。
目の前に現れたのはいつもと同じ咲希の部屋、とそこにいてはいけない一人の人物。
「え、大月さん!?」
「声がでかいって!静かにしてくれ!」
渚の口をふさぎにかかる咲希。
「むー!」
じたばたする渚。
まあでも叫びたくなるのも仕方ないというものである。
そこにいたのは雅彦だったので。
「あ、あはは。ごめん驚かせたよね渚ちゃん。お邪魔してます」
「いいか、絶対でかい声だすなよ。いいか」
そこで渚を開放する咲希。
「え、何してるの咲希姉?どゆこと?大月さん来てないんじゃ無かったの?」
「来てるよ!思いっきり!来るって言っただろ?」
「なんで最初嘘ついたの?」
「あそこでほんとのこと言うと滅茶苦茶面倒くさくなるからに決まってるだろ」
「え?だって大月さんも戸川さんも咲希姉も友達なんでしょ?何が面倒くさいの?」
「…渚、今俺と雅彦さんどういう関係?」
「付き合ってるでしょ?もしかして言ってないの?」
「もしかしなくても言ってないんだよ。前話してた時にそう言う関係じゃないって明言しちゃったから猶更!」
「あーーーー。そういうことかぁ…確かに戸川さんに言ったら面倒くさそうだね」
「1週間はねちねち言われそうだって…だからもうちょっと言えそうなタイミングで言うつもりだったんだけど…」
そのタイミングで隣の雅彦が後を引き継いだ。
「この前、悠太から咲希さんの宿に行かないかってまた言われてね…その、この前、咲希さんとようやく…こ、恋人?になったばっかりだったし断ったんだ。だからてっきりあいつも行かないと思ってたら…」
「来よった、ランポ普通に一人で来よったよあの男。で、仕方ないから雅彦さんの方を上に隠してる状況」
「どうするのこれ」
「とりあえずバレずに逃げるのは相当きつそうだし、一晩いてもらうしかないかな…」
「でも戸川さんずっといるんだよ?ずっとほかっとくわけにもいかないでしょ咲希姉」
「そりゃそうなんだけどさぁ…」
「あと私ご飯どうすればいいの?4人分作ったらさ、多分分かるよ?」
「最悪自分は抜きで全然…」
「もう何してんの咲希姉。とりあえず咲希姉さぁ、大月さんか戸川さんか、今日重要視するのはどっち?」
「こっち」
「よし分かった。じゃあさ、私がしばらく戸川さんのこと構っておくからさ、その間だけ楽しんでたらいいんじゃない?」
「…頼むわ」
「はーい、とりあえずじゃあ、そういうことで。戸川さんにはそれとなく伝えておくから。その間にどうするか考えておいてよね」
「おっけ。じゃあそっち頼む。どうやって脱走させるかは考えとく」
「はいはーい」




