お断り
「あー…どうしようかな悠太…」
大月家、雅彦の部屋。
先ほどまで割とウキウキ気分で咲希といつ会おうかなとか考えてた雅彦であったが、その考えは咲希からの一つのメッセージで打ち砕かれた。
「断りづらいんだよなぁ…理由が無いし…」
悠太がまた咲希のところに雅彦と一緒に泊まりたいと言ってきたのである。
いやまあ普段であったら雅彦も断る理由はない。
が、ついこの間告白したうえに、なんなら成功して今ここであるため、正直咲希と2人でいたいのが雅彦の気持ちである。
「…いっそのこと直接理由を言うか…?いやでもなぁ…」
悠太は2人がそう言う関係になったことは当然知らない。
知らない上に、そう言う関係じゃないとこの前言い切っているため、今急にそれを悠太に伝えるのはどうしようかなぁという感じなのである。
正直咲希とクリスマスに出かけただけで過剰反応された感じから言って、物凄く面倒なことになりそうだなぁと思わずにはいられないのである。
「いや、でも咲希さんと2人でいたいな…」
色々考えたがそこで落ち着いた。
結局今雅彦的に一番なのは咲希のことなので。
雅彦は咲希の先ほどのメッセージに対する返信をすることにした。
『さっきの話ですけど、咲希さんは受け入れる方向性ですか?』
とりあえず咲希にそう送る雅彦。
一応咲希が受け入れるならそれに従う方針である。
すぐに返信が返ってきた。
『私としては一応お客だから…って言う感じですね。都合よく空いてる日だったのでそこに私情を挟めないかなぁって感じです』
『そうですよね…』
『ただ正直私個人としてはどうせなら雅彦さんと一緒に居たいかなという感じです。土日だし?』
そんな返事を飛ばしてくる咲希。
一緒にいたいと言われてちょっと喜ぶ雅彦。
「咲希さん…なら」
『もし咲希さんがいいなら俺から断っときます。俺も咲希さんと一緒にいたいんで』
『あ、ほんとですか?じゃあ…お願いします』
なんだかんだお互いに同じ考えであったようである。
悠太がかわいそうな気もするが、なんにせよタイミングが悪い。
『あ、あとそれから咲希さん、その、次会う日なんですけど、明日、会いませんか?』
そして流れでそのまま会いたい日を言う雅彦。
即返信が来た。
『明日ですか?いいですよ。どこ行けばいいです?』
『また迎えに行きますから家の前で大丈夫です。時間お昼くらいで大丈夫ですか?』
『いいですよー。じゃあお昼食べてからでいいですか?』
『分かりました。じゃあお昼過ぎにまた迎えに行きますね』
『はーい。今度こそちゃんと喋りましょ』
『はい。楽しみにしてますね』
「よしっ」
一人でテンション上がる雅彦。
とりあえずさらっと最初のデートの約束を取り付けられた気がする。
咲希も割と乗り気なので全然スムーズであった。
「さて…いや悠太どうしよう」
そして結局残るのはそこである。
悠太どうしよう。
そう思っていたら別のメッセージが飛んでくる。
相手は件の人悠太であった。
『雅彦ーあのさーちょっと相談あるんだけどー』
『分かった。通話でいい?』
『いいぞ』
とりあえずそう言われたので通話に入る雅彦。
まあどのみちどうするにせよ会話しないことには始まらない。
「よう」
「おっす。どうした?」
「ああいやさあ。雅彦に相談なんだけどさぁ。前咲希ちゃんちの宿行ったじゃんね?」
「ああ」
やっぱその話だよなと思いながら話を聞く雅彦。
咲希から話が流れてきている以上、まあそれしかないだろう。
「それでまあ俺はあそこにもう一度行きたいわけよ。咲希ちゃんとも話したいし、渚ちゃんにも会いたいし?でさでさ、さっき咲希ちゃんにちょっと話してみたらさ、来ていいって言われたわけよ。もうこれは行くしか無くね?」
「お、おうそうだな」
「で、まあお前も行きたいだろうな思ってとりあえず連絡したわけよ。で、どうよ?来週の土日予定なんだけど、行くよな?まあどうせ暇だろ?」
「…」
困った。
断るつもりだったがどうやって言えば納得してくれるだろうかというところである。
頭を回す雅彦。
「おい、どうしたんだよー。なんか予定入ってても2日とも入ってるなんてことないだろ?なあーせっかく咲希ちゃんとこ泊まれる機会だぜ?」
「あーいや、その、あー…ごめんちょっと待ってくれ。予定見てくる」
「え、マジ?お前が予定入ってるとかそんなことある?」
そんな悠太の声をいったん無視して席を外すふりをして考える雅彦。
何かいい言い訳を考え中である。
とはいえ基本的に仕事を言い訳にするのは難しい。
なまじ周辺にしか仕事行かないので。
となるとどうするか。
色々考えを巡らせるものの、なかなか良さそうな言い訳は見つからない。
そもそも隠してるのが悪い気もしているので言い訳するのも何か違う気はしている。
「あーごめん悠太。その2日は無理だ。行けない」
「えーなんでだよ。暇じゃねえの?なんか予定あるのか?」
「まあ…ある。予定が。ごめん、詳細は今話せない。いずれ話すから今は勘弁してくれ。ただその日は無理なんだ」
結局雅彦が取ったのはぼんやりとはっきり無理だと伝える方向性であった。
嘘を言うのも何か違う気がしたのだ。
「えー…なんだそれ。え、なんかヤバいこと巻き込まれたとかじゃないよな?口封じされてるとかじゃねえよな?」
「そう言うのではないから大丈夫。ただ、ごめん。今は内容が話せないんだ。いずれ時が来たら何の予定だったかは話すからさ。ごめん」
「…まぁ、そう言うなら仕方ない。なんか事情があるってことなんだろ。それなら諦めるわ」
意外とあっさり引く悠太。
まあここはある意味雅彦との信頼関係なせる業である。
付き合いが長いので多分本当に何か言いづらい事情があるんだなということくらいは分かるのである。
まあその内容がどんな内容であるかまでは分からないだろうが。
「おっけーまあそう言う時もあるだろ。また行ける時に行こうぜ」
「ああ、すまん」
「気にすんな。別にその日逃したら二度と行けないってわけじゃねえしさ。あ、でさーそろそろ一緒にゲームやらね?最近全然まとまれてないから進んでねえんだわ」
「あ、おっけ。行くわ」
「よし来た。最近お前付き合い悪いんだもんな。やれるの待ちくたびれたぜ」
「あはは…」
思わず苦笑いになる雅彦であった。




