悩み
「…あー疲れたぁ。この仕事休暇ある時は固まってるけど、そうじゃない時は全然無いからなぁ」
風呂場で一人。
咲希が遅い時間に入りながら一人そう呟く。
本日もそれなりに団体の客が帰って行った後である。
普段はどちらかというと暇の多い仕事ではあるが、部屋が埋まった時は何だかんだ呼ばれたり、気を使わないといけないことが増えたりで普通に疲労する。
まあ咲希が人が多いと疲労するタイプなだけという話もあるが。
「ま、でも明日から3日くらいは客の予定も無いからいいか。マジで忙しい時との差が激しすぎるわこれ」
ぶつぶつ言いながら頭以外風呂の中に沈めていく咲希。
一応髪の毛は気にかけているので沈んでいない。
「それにしても最近は客安定して来たな…こんな田舎の辺鄙な場所で宿とか無理だろって思ってたけど…意外となかなか来るもんだよな。やっぱり元々宿多い地域ってのもあるんかな」
最近では1週間完全に暇になっている日はほぼない。
何だかんだだいたい平均4日ほどは必ずお客が来るようになっていた。
「しかも意外とリピーター来るっていう…やっぱ見た目の集客効果高いんかねぇ…そうじゃないなら他のとこ行くよなぁ普通」
目を下にやる咲希。
自分の体が目に入る。
最近体重を気にかけるようになったおかげか、一応体重の増加は止まっているため、プロポーションは維持されている。
「まあ、うん。この身体になった時点でこれ目当ての客来るかなぁとか思ってたけどさ。結構来るもんだなやっぱ…まあ、俺の目から見てなおえっちいししゃあないか」
今現在の体になってそろそろ時間がたったせいなのかは定かではないものの、人からの視線を前以上に敏感に感じるようになった咲希。
当然その中にはまあ男からのエロい目線というのも含まれる。
リピーター客のうち3割以上くらいはそんな感じの男集団である。
まあ幸い手を出すような阿保はいないのでスルーを決め込んでいるが。
ちなみにそんなリピーター客の中にちゃっかりランポこと悠太も混じっている。
既にあの後2回来た。
「まあでもやっぱネットで情報流した影響が一番でかいんかなぁ。あれ以降定期で来るようになったしなぁ…雅彦さんに感謝ね感謝」
独り言をつぶやきながら風呂場でぼーっとしている咲希。
が、そこまでつぶやいたところでふっと何かを思い出したかのように風呂場に沈んでいた体を起こした。
「…あ、そういや雅彦さん、明日話す約束してたな…」
先日ネトゲ中になんとなくその場の勢いで雅彦を食事に誘った咲希。
その日がまさしく明日であった。
「…雅彦さんなあ。…よく分かんないんだよなぁ」
再び風呂場に沈みながらそうつぶやく咲希。
眉間にしわが寄っている。
「ゲー友としては好きだし、友達だし…まあ仲はいいと思うんだけど…好き、なのかなぁ?別に嫌いじゃないけど…うーん…」
頭に巡る雅彦についてのこと。
この前美船流れで聞いてしまった雅彦の咲希に対する気持ちの話。
渚にも本人に言われたわけでもないし気にしないでいいんじゃないかと言われたし、咲希本人も理解はしているつもりなのだが、やっぱり気になる。
超気になる。
案外そういうの気にする咲希である。
なまじ恋愛経験0なのも関係しているのかもしれない。
「別に…不快感無いんだよね。仮に一緒になるって考えても…」
咲希の心が乱れているある意味一番の問題がそこであった。
不快感がまるでないのである。
ぶっちゃけそう言う話を聞くまでは、男と一緒になるとかなったらゲロるんじゃないかな…とか漠然と思うこともあったが、いざそう言う感じの話を聞いてみたら全然だったのである。
いやまあ流石に見ず知らずの男ならば無理と一蹴りする気満々であるが、なんか雅彦ならいいかなぁとかなってるのである。
正直このまま一緒にいてどこかで告白されたら余裕でコロッといける自信が本人にもあった。
渚にも突っ込まれたが、チョロインである。
しかし自覚しながらもなんか別にいいような気がするのもまた事実である。
「うーん…?一応男だったし、この身体に対してまだ反応できるから男失ってはいないと思うんだけどなぁ…」
咲希自身も思うとこはある。
まあ仮にも半年くらい前まで男であった身。
相変わらず胸大好きであるのは変わりないし、偶に自分の体エロいとか漠然に思ってるのでそういう感じの男が全部抜けているわけでは無い。
男と一緒になるってどうなんよっていう考えが無いわけでは無い。
が、どちらかというと倫理的というか世間体というか、とにかく中身男の女、というか自分なんかと一緒になるとかいろんな意味で大丈夫なのか雅彦という感じのところの一点に尽きてしまう。
咲希自身の気持ち的には、好いてくれるのであれば別に受け入れていいんじゃないのかな…とかなっているのである。
恋愛とかしたことない咲希にとって、好意を向けてくれる相手というのはそれだけで嬉しいものなのである。
「別に雅彦さんも仕事してるし、俺もしてるし、収入とかは問題ないし…性格も私的には全然問題ないし…趣味もあってるし…うーん、仮に行くとこまで行っちゃっても特に問題ないんだよなぁ…」
まだ付き合う段階ですらないのに、一気に結婚まで思考が吹っ飛ぶ咲希。
咲希の思考的に、付き合うのであれば最後まで行くべきという謎の考え方があるが故である。
しかし困ったことにそこまで考えてみても特に現状だと駄目な理由が見当たらない。
「…本人がどう思ってるのか、本人から確認してみたいな。これで勘違いだったが一番アレだし」
まあ結局まだ予想の範疇を出ていないので、確定させたい感じはある咲希。
ただ流石に直で聞くわけにもいかないので困ったものである。
「…まあ、明日また何か分かるかもしれないし、その時でいいか。あー…こんなことで悩むん初めてだから困るわぁ…」
人生初の恋の悩みで頭を抱える咲希であった。




