誕生日
「おーい明人ー!来たぞー!」
「待ってくれ。今開ける」
インターホン越しに叫ぶ啓介。
当然それに応対しているのは明人である。
すぐに扉が開いて明人が顔を出した。
「おっす。あ、3人とも来てくれたのか」
「明人、あんた渚に誕生日教えときなさいよね。この前なんとなく伝えたら知らなかったって大慌てだったんだから」
「りょ、稜子ちゃん、それは私が聞くべきことだと思うから責めなくていいよ!」
「あー…そっか、なんか毎日のように会ってるからもう教えてると思ってた。言っとけばよかったな」
「気にしないで私も毎日会ってて、誕生日のこと聞くの忘れてたからお互い様?だと思うよ」
「むしろそんな急だったのによく来てくれたな。ありがとな渚」
「いいよいいよ気にしないで。むしろいっつもお世話になってるから祝わせてよ!っていうことでおめでとう」
「ありがとう。あ、とりあえず中入ってくれよ。今俺一人だし」
ということで家の中に3人は入っていった。
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そのまま明人の部屋に案内された3名。
「ちょっと待っててくれ。飲み物くらい持ってくる」
「なんかジュース頂戴」
「俺お茶でいいわ」
「え、えと。えと、手伝、う?」
物凄い困惑した様子になる渚。
それに対して明人が笑い返す。
「はは、渚。ありがと。いいよいいよ。いやお前ら渚見習えよ。図々しすぎるだろ」
渚にそう言った後に残る2人にジトっとした目を向ける明人。
致し方ない。
「いつものことだろ」
「だから言ってんだろ…あ、渚何がいい?あるものしか出せないけど」
「んー…?お茶?かな?」
「渚、遠慮しなくていいんだぜ?言えば大体出てくるからよ」
「んー大丈夫。お茶がいいかな」
「オッケー分かった。ちょっと待っててくれ」
そう言うと明人だけ部屋から出ていく。
後には3人が残された。
「…渚、どうしたのよ。なんかキョロキョロしてるし」
「えっと、人の部屋って、こんなんなんだなって」
「あ、渚入るの初めてか。俺とか割としょっちゅう来てたからもう自分の部屋みたいなもんなんだよなここ」
「そ、そうなんだ。私人の部屋入るの何年ぶり何だろう」
実際渚の中身が中学生だった時以来である。
実時間換算だと7年ぶりくらいである。
長い。
「渚そういうの気にするんだ?」
「気にしてると言うかなんだろう、緊張する、のかなぁ?」
「大丈夫だって。あいつの部屋典型的なスポーツ男の部屋でしかないしな。怖がるようなもんねえよ」
「怖がってるわけじゃぁないよ?ただ感慨深いなぁっていうかなんというか、でもなんだろう。特に何か芳香剤が置いてあるわけでもないのになんかいいにおいするね」
「え?する?駄目だ俺分かんね」
「え、しないかな。お日様みたいな匂いって言うのかな」
「それあいつの匂いじゃない?明人の」
「え」
「私は結構来たことあるから知ってるけど。あいつの部屋の匂いだと思うわよ。幸い不快なにおいじゃ無いから気にならないのよね」
「そ、そ、そういうこと、なんだー…へぇー…」
男の匂いがいいにおいと感じてしまったことで、今更女であることを自覚する渚。
まあどうせすぐ忘れるが。
「あ、お待たせ。持ってきたぞ。…え、どうしたみんな」
微妙な空気に突撃してくる明人。
なんか何とも言えない目線を投げられて困惑している。
「なんというか相変わらずタイミング悪いなお前」
「え、何、何があったんだ」
「今それについて語ると余計な誤解生みそうだし私は言わないわよ。詳細聞くならそちらからどうぞ」
と、渚が指される。
「え?何があったんだ渚」
「へ!?ああ、えっと、な、何でもないよ!?」
「絶対なんかあったよな!?」
「ほ、ほんとにどうでもいいことだから!気にしないで!」
「気にしない方が無理だろうこれ!?」
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その後一通りの状況を説明された明人。
「…そんな俺匂うかな…一応気は使ってるんだけど…」
それに対して渚が大慌てになる。
普段の余裕はどこかに飛んで行った。
「ほ、ほんとに嫌な臭いとかじゃなくって!な、なんだろう落ち着く匂いっていうのかな…じゃなくって!ちょ、ほんと、ほんとに違うの!他人の部屋の匂いが気になるわけじゃ無くって、や、んー、あああ」
「渚あれだと、他人の匂いについて熱く語る変な子になってるわね」
「だいぶ変な壊れ方しちまったな。直るかな」
2名が横でひそひそと話している。
話をややこしくしたのはこの2人なのだが。
「お前ら滅茶苦茶言うなよな!渚おかしくなってるだろ!渚、分かった、分かったから落ち着いて」
「だから、その、変な、匂いじゃ、ないよ」
「お、おう」
「すごい反応に困るなあの回答。俺お前にあれ言われたらどう反応していいか分からんもんな」
「言わないわよ私は」
「マジで俺いない俺の部屋でおかしな話題渚に振るのやめてくれないか?渚半泣きなんだけど?どうしてくれるんだよ」
「え、マジ?あ、ごめん!ごめんって!そこまでなるとか思ってなかったんだって!」
「やりすぎた。ごめん渚」
「んー…大丈夫」
部屋が再び何とも言えない空気になる。
そこで啓介が無理矢理話題を塗り替えた。
「あ、あーそうだ。誕生日、プレゼント渡そうぜ。持ってきたんだろ?」
「そ、そうね。渚、ほら、渡しちゃいなさいよ」
「お前らな…」
もはやごり押しである。
「え、あ、うん。えっと、お誕生日おめでとう。プレゼント買う暇なかったからありきたりなものになっちゃったけど、よければ貰ってくれるとうれしいかな」
「ありがたく貰うよ。わざわざありがとな渚」
「うん!いつもお世話になってるからそのお返しだよ」
ごり押しを押し通した。
渚のテンションが戻ってきたので周辺がほっとする。
なお原因を作ったのはその周辺である。
「…渚、ちなみにこれ中身聞いてもいいか?」
「えっとね、ガトーショコラなんだけど、食べれる、かな?」
「え、渚そんなの作れるのか?え、わざわざそんなの作ってくれたのか。いや食べるよ。食べる。すげえ嬉しい。ありがと」
「ほんと!?よかった!おかし作るの初めてで、3日前から練習した甲斐があったよ!」
「3日も前から!?」
「渚…本気ねあなた」
「うん、本気だよ。だって人にあげるんだよ?しかもプレゼントなんだよ?不味い物なんてあげれないじゃん!」
なおその過程で出来上がった合計5つのガトーショコラはだいたい咲希に収納された。
咲希は当分ガトーショコラはいいかなという感じになっている。
というか正直しばらく甘い物みたくない。
「なんか渚の本気加減に比べたら急に用意したものが陳腐に見えてきたんだが」
「…奇遇ね私もよ」
中を確認する明人。
「…お、結構大きい」
「うん、みんなで食べれるようにしようと思って」
「よし、じゃあとりあえず渚のプレゼント食べてから他のことするか!」
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「…完食。ごちそうさまでした」
「うん、うん。…初めて作ってこれって何なのこの子…」
「美味しそうに食べてくれてよかった」
「渚お菓子もいけるんだな。美味しかったよ。宿の方でもやったらどうだ?」
「そうそう!やれるかなって思ってそう言う意図もあって作ってみたんだよね」
「じゃあ今度一緒にやらないか?俺もちょっと興味あるし」
「ほんと!?じゃあガトーショコラは私もうできるから他の奴試してみたいかも」
「よし、じゃあ今度までに色々調べて持ってくよ」
「分かった!じゃあ私も調べておく!」
ハイテンションで約束を交わす二名。
数十分前まで涙目だった奴と同一人物である。
「…え、付き合ってた?あの2人」
「いや…そう言うわけじゃ無いんじゃないか…」
あまりにもナチュラルなお家デートのようなものの取り付けに唖然とせざる得ない稜子と啓介。
「え、あのさ、2人とも」
「ん、どうしたの稜子ちゃん」
「…2人付き合ってる?」
「ナイナイ。ないよそんなこと。ねえ?」
「そうだな。そういうんじゃないよな?」
「…えぇ?」
目の前の光景がよく分からなさすぎて首をかしげる稜子であった。
書きだめを放出しきったので、更新を毎日更新から週1更新に切り替えます。
勝手ながらご理解をお願い致します。




