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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
120/177

男子禁制

「うわ。来ちまったよ」


「咲希ー何やってんのー?入るよー」


「あいあい…」


内心うへぇと思わずにはいられない咲希である。

今目の前にあるのはランジェリーショップ。

そもそも目的がそれであるので当然と言えば当然である。

というか咲希の方から場所教えてくれと言って連れてきてもらっているので今更引き返す理由もない。

無いはずなのだが、どうしても入る前に足が止まる。


「咲希ー?」


「ああ、うん、行くよ」


よく買い物に付き合わされてはいたものの、ガチのランジェリーショップにインするのは咲希も初だったりする。

なんというかもう入口一歩入ると場違い感がやばい。

いや間違いなく今の咲希の姿的には何の問題もないはずだが、本人の意識に残る男はそれを拒絶している。

空間から謎の圧力を感じる。


「…圧巻」


「え、何が?」


「いやなんでもない」


漏れ出る本心をかき消しつつ、頭をぶんぶんする咲希。

とりあえずどうせ買うもの買わない限り出られないので覚悟を決める。


「美船、場所分かる?」


「んー…確かあのへーん」


「ん、ありがと」


とりあえず目的の物を探すために美船に言われた方に向かう咲希。

果たしてそれはまあ当然あった。


「うわ、多いな」


「まあこんなもんじゃないの?」


「え、こっから探すの?めんどくさっ」


「いやまあめんどくさいってこれくらいは普通な気もするけど…」


が、数が多い。

いや世の女性からしてみれば普通のことなのかもしれないが、咲希からしてみればそんなもん知るわけない。

自分に合うやつ適当に買って帰ろうとか思ってたのでちょっと面食らう。


「私に合うやつどれよこれ」


「んー?サイズは書いてあるけど?」


「正確なサイズとかわっかんねえよ私」


「あれ、そうなの?えでもさっきFって…」


「ああ、うんあれ、使ってるやつがそうなだけだから。詳しく測って無いから」


今付けてるのはここに飛んできたときにタンスの中に押し込められていたものである。

出所不明だが、とりあえずサイズは合ってる感じだったのでそのまま使っている。


「え、そうなの?最後実際に測ったのは?」


「…さぁ?あれは今から…どんだけ前だろうか」


実際は不明である。

とりあえず咲希が咲希になってからは測ったことは無い。


「んー流石にそれ一回測りなおした方がいいと思うよ?というかある程度お店の人に選んでもらった方がいいかもよ?こだわりあるなら別だけど」


「いや無いよ無い無い。んーそうしよっかなぁ。どうせわけわからんし…」


「じゃああたしお店の人呼んでくるねー」


「あ、任せた」


そう言ってちょっと離れた場所まで店の人を呼びに行く美船。

取り残された咲希が目の前の光景をじっと見つめる。


「売られてるのまじまじ見るのがすげえ変な感じなんだけど…」


ぶつくさ呟いていると、美船が店員連れて戻ってきた。


「あたしじゃなくてこっちを」


「ああ、こちらの方ですね。では胸のサイズを測りなおすとのことでよろしいですか?」


「あ、お願いします」


「では試着室の中で上を脱いでお待ちください」


「じゃあ行ってくる」


「行ってらー。その辺いるから終わったら教えてー!」


というわけで試着室の中にやってきた咲希。

上半身裸と言われたので仕方なく上を脱ぐ。


「…うーむ、何気に完全な他人に見せるの初めてな気がする…」


つんと胸をつっつく咲希。

当たり前である。

渚や美船とかには掃除のときとかに何度か見たり見られたりしている気もするがそれくらいか。

くだらないことを考えていると店員の声が聞こえた。


「お待たせしました。それでは測らせてもらいますね」


「あ、はい。お願いします」


すっとメジャーを回されて測られる咲希。

メジャーの感触がなんとも言い難い。

少なくとも普段感じない何かである。

なんか直視するのもあれなので前を真っすぐ見た状態で測り終える。


「…ええと、アンダー75、トップ99.3。Fです」


「え、99.3もあんの私」


思わず真下を向いて胸を確認してしまう咲希。

でかいことは承知の上ではあるが、改めて数値で出るとビビる。

というか100近いってなんだよとか思わずにはいられなかった。


「あの、スポーツブラ買いに来たんですけど、どれがいいのかよく分かんなくて。よさそうなやつってありますか?」


とりあえず胸のサイズも改めて分かったところでそれを聞く咲希。

どのみち分かったところで正確によいものがどれかとか分かるわけもない。


「ああ、そうなんですか?よさそう…と言われるとなかなか困りますが、どのようなご使用用途でしょうか?」


「あ、えーっと、走るのと、後多分テニスとかかな?」


「それでしたらお勧めでよろしければいくつか見繕いますが、いかがいたしますか?」


「あ、お願いします。全然分かんなくって」


「では少々お待ちください」


引っ込む店員を目で追う咲希。

店員がいったんいなくなったのを確認してからもう一度改めて自分の胸に手をやる。


「…99、ほへー。数字で見るとインパクト凄いんだけど。え、怖い」


何かに恐怖しながら鏡を見る咲希。

もはや見慣れた姿ではある。


「お待たせしました」


「あ、すいません。あります?」


「一応数種類お持ちしました。一度お試しになって、サイズ等のチェックをした方が良いと思いますが、どうされます?」


「あ、じゃあします」


そう言って店員から何種類かのスポブラを受け取る咲希。

とりあえず試着してみろとのお達しなので、へいそうですかと試着してみることにする咲希。

スポブラそのものを付けたことが無いため、少々悪戦苦闘しつつ、試着が終わる。


「…これでええんかの。すいませーん」


一応確認しながら、でもやっぱりさっぱり分からないのでもう一度店員を呼ぶ。

申し訳ない気もするがブラ知識レベルとしては自己流の域を出ないため致し方ない。


「あの、これ合ってるんでしょうか?」


ちらと試着室のカーテンを開けて聞く咲希。


「…サイズ的には問題なさそうですね。あとは軽く動いてもらって、動きづらかったり、苦しかったりしなければ」


とりあえずそう言われたのでジャンプしてみたり体をひねったりと何やらやってみる咲希。


「…大丈夫そうです。すいませんありがとうございます。他のも試してみますね」


「はい。では終わったらお呼びください」


再び店員が離れる。

試着室の中で咲希が一人胸をつんつんしながら一言漏らす。


「…いや効果すげえなこれ。結構暴れ馬だったんだけどなこいつ」


そんなこんなで時間をかけながら試着とか一通り終わらせた咲希。

だいぶ経ってから美船の下に咲希がやってきた。


「すまん、待たせた」


「あ、お帰りー。どうだった?」


「ああうん。買えたよ。買えた」


「もう買ったんだ?よさそう?」


「着けてみた感じはな。やっとまともに走れるわ」


「良かったね!それでそれで…」


「なんだよ」


「いくつだった?」


「聞くのかよそれ」


「えーだって気になるじゃん!咲希のここの数字!ねえねえいくつだった?」


「…75、99.3だって」


「え、うわ。うわお。すごいね。G近くね?」


「え、そうなの?」


「そうだよ?もうそれほとんどGじゃね?でっかい!ちょっと頂戴!」


「だから声がでかいってば!というかあげれねえから!」


試着室を出た後も、気の休まらない咲希であった。



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