順当
「さきー!来たー!」
「いや呼んでないぞ。相変わらず遠慮なしだなおい」
そう言ってぶーたれるのは咲希。
今日も今日とてやることが終わったので自室に引きこもりである。
その扉を突き破って入って来たのは美船。
もう最近は玄関から2階に来るまではほとんど何も言わず、咲希の部屋まで直行してくるようになった。
だいたい咲希はそこにいると理解したからである。
「今日は何の用さーもう」
「今日はー…喋りに来ただけ?」
「あれ、連れ出すんじゃないのか」
「そりゃまあ私だって常に毎回どっか行きたいわけじゃ無いし?」
そう言いながら咲希の寝そべっているベッドに突っ込んでくる美船。
「ちょっ!出ろって狭い!」
「いいじゃんいいじゃん。これくらい。昔はお泊まりで一緒に寝たりしたこともあったんだしー」
「今とは色々違うだろ色々!」
「変わってんのなんて体のサイズくらいなもんでしょー?」
「それが問題なんだろうが!」
そう言って美船から離れようとする咲希。
ただし、美船にベッドの半分を陣取られているうえに、逆側は壁に面しているので逃げ場がほとんどない。
やたら絡みついてくる美船から逃走するにも限度がある。
「ちょ、触るな、やめい」
「えーでも咲希手触り良いんだよねぇ。すべすべしてる」
「撫でるな。手がおっさんになってるぞ」
「まーまー私だからいいじゃんいいじゃん」
「よくねえよ!離れろって!」
ベッド上でもみくちゃしている2名。
そうやっているうちに美船が止まる。
「…あれ?」
「よっ」
「あ」
「よっしやっと逃げれた…絡みつくな気味悪い!」
そう叫んでなんとか逃げ出した咲希。
言葉通りの意味合い半分、女性にここまで接近されたことの無さからくる反応半分である。
が、美船はその言葉に返事せずに咲希に向き直り、今までにない真面目な顔を向けた。
「咲希…?」
「え、何?え、そんな傷ついた今の?」
「あ、そう言うわけじゃ無くて…いや、あの気のせいならいいけど…」
「え、何、何そんな深刻な顔になってんの?」
「咲希さ…あの、太った?」
「へ?」
「いや、あの別にライン崩れてるとかそう言うんじゃないんだけど、その、前は無かったこう摘まめる感じが…」
「え?」
「気のせいならいいんだけどね?…増えてない?」
「…ちょっと待って調べてくる」
「ある?体重計」
「あるよ。風呂場の横に。とは言えここ戻ってきた時から乗って無いからな…」
「ちょちょ、気のせいならいいけど、そうじゃなかったらやばいから!見てきて見てきて!違ったらもう私殴っていいから!」
「いやしないからそんなこと!?…ちょっと行ってくる」
そう言って部屋から出る咲希。
そのまま速足で風呂場まで向かう。
時間帯的に入っているお客もまずいない。
そのまま風呂場にたどり着くと、そこにあった体重計に実に半年オーバーぶりに乗った。
ちなみに初回に測ったのはここに咲希として飛んできてそう立ってない頃である。
つまるところ、初期体重しか知らない。
「…」
上に載って数秒。
結果が画面に表示される。
咲希の顔は渋かった。
「…やっべ」
□□□□□□
「あ、お帰り咲希。どうだった?気のせい?」
「…いや見立て合ってた。よく気づいたな。自分ですら気づいてなかったのに」
そう言う咲希の口はだいぶヘの字である。
「ああっ…本当に増えてたんだね…」
「…いやほんと、増えてました。そりゃま動いてねえもん増えるよなぁ…」
どこか遠い目になる咲希。
実際咲希の食べる量はというとかなり多い。
というか正直前と何ら変わってない。
むしろ肉体的にはどこに入ってんのレベルである。
そして基本的に咲希は日常業務以外で動くことはまずない。
むしろ増えない方がおかしいレベルなのである。
「…ちなみに、どれくらいだったの?」
「+5。むしろこの生活スタイルでこれだけで済んでると思うべきなのかなんなのか…」
「5かぁ…いやいや、女の子としては致命的!戻そ!咲希!今ならまだ間に合うから!さっきも言ったけど、見た目はまだそこまで影響出てないから!これから酷くなるから!」
「流石に私ももう一回デブるのは勘弁だしなぁ…減らしにかかるか…」
「え、もしかしてそう言う時期あったの咲希?」
「え、あったどころかバリバリそう言う時あったけど」
さらっと言っているがこれは咲希の過去ではなく咲玖としての過去である。
が、美船には分からないので自然に流された。
「へーそうなんだ意外ー私がいなかった期間にいったい何が…?はっもしかして私と離れたせいで…!」
「それはねえ。その理論で行くならお前と会ってるのに増えてるのはバグかよ」
「まあ冗談はさておき。じゃあ今日は特に何かする予定無かったけど、やること決まりだね!」
「え、何するのさ」
「走るよ咲希!」
「えぇ!?今から!?」
「ほらほらそうしてる今にもお肉増えてるんだからほらほらほら!」
「分かった。分かったからちょっと待て、流石にこの格好で外行けないからマジ」
「玄関いるからねえ!」
そう言うと美船は咲希の部屋から飛び出していった。
「…流石にこの体までデブりたくはねえしなぁ。しゃあないな」
そう言うと外に出る用の格好に着替える咲希であった。
□□□□□□
「はぁっ…はぁっ…きっつ。走んの久々すぎてきっつ」
「咲希体力無い?」
「あるわけねえ!こちとら引きこもりパソコンオタクやぞ!」
美船に連れていかれる形でランニングにおもむいた咲希。
幸い走れるルートは多く気ままに走っていたのだが、なまじ走り慣れない咲希は結構早い段階でぜえはあやっていた。
「うーん…まあとりあえず日課で走るなり運動するなりやれば戻るとは思うんだけどね…」
「正直…これならまだテニスとかやってた方がいいわ…」
「ああ、そういえば咲希テニスやってたんだっけ?」
「ああうんやってた」
過去の記憶で答えただけだが咲希もやってたらしい。
咲希本人も今知った。
「それならコート近くにあるからそこでやってみれば?」
「え?ああ、あそこ?あれ誰でもいいの?」
「とりあえず旧友たる明人に聞いた感じだと誰でも借りれるみたいだけど?」
「え?明人って神谷君?ああ、彼もラケット持ってるな確かに」
「そうそう。だからそっちのがいいならそっちやればいいんじゃない?運動してれば少なくとも増えるのにはブレーキかかるでしょ」
「…まあ走るよりはそっちの方がいいかな」
「とりあえずちゃんと体の管理しなよ咲希ー」
「ああ、ただ…運動ちゃんとできるのもう少し先になるかな…」
「え、なんでよ?」
「…その、結構気になるので、ここ。何とかしたい」
「…ああ、咲希おっきいもんね。それ用の買った方がいいね確かに」
走ってる最中も胸が気になって仕方ない咲希であった。




