帰宅
渚がなんとか宿を回してお風呂にこぎつけたあたり、夕飯を食べていた時に渚の連絡に気付いた咲希が慌てて帰ってきたところであった。
内容は分からないものの、電話をかけてくるということは何かあったのだろうと考えてである。
「ただいまっ!渚ー!」
家に入ってそのまま2階へと直行する。
リビングに飛び込んだ咲希を待っていたのは、咲希の声に驚いた顔をした明人であった。
「え、あれ、神谷君?渚は?」
「ああ、えっと。渚は渚の部屋の中です」
「え、何があったのこれ」
何本も連絡があったので帰ってみれば何故か明人がいる状況。
よく分からん状態である。
「お客さんが急に来たと渚からは聞いてます。手が足りないから手伝ってほしいとそんな感じで呼ばれて自分が来た感じです」
「えっ客?え、もういる?」
「あ、はい。一番最奥の部屋に4名」
「まじかぁ…今日来るって聞いて無いぞ…」
頭押さえる咲希。
想定外であった。
「とりあえず、自分はそろそろ帰りますね。渚一人にするのが怖かったのでいただけなので」
「あ、わざわざいてくれたんだ?ごめん。ありがとね」
「いえ、とりあえずなんとかなったみたいだったので良かったです。それじゃあ、後はお願いします」
そう言うと、明人は荷物をまとめて下へと降りて行った。
一応階段踊り場から明人を見送った咲希。
扉が閉まるのを確認した後、改めて渚の部屋へと向かった。
「渚ー!いるかー」
その声に反応した渚が、扉を開く。
「あれ、咲希姉?お帰り」
「ああ、ただいま。っていうか大丈夫だった?なんか客来てたって今聞いたけど」
「ああ、そう。お客さんがね?夕飯の買い物から帰ってからちょっとした後に来たの。それで咲希姉に電話かけたんだけど咲希姉全然出なかったから大変だったんだよ」
「ごめん、それ多分丁度電気屋で他事集中してた時だわ。なんとかなったんか?」
「んー…多分なんとかなったかなぁ…焦ってて色々すっ飛ばしたかもしれないけど、料金はちゃんと伝えれたはず」
「ああ、まああの辺の手続き周りは最悪個人情報だけちゃんとしてればそれでいいけど…」
「一応書いてもらったから大丈夫だと思うよ」
「そっか。え、ちなみに客どんな人?」
「多分大学生くらいの男の人4人だよ」
「ふーん…面倒タイプ?」
「どうだろう。この時期の人たちって基本的に元気がいいから面倒かどうかっていったらよく分からないけど、面倒は起こすかもしれないよね」
「ちなみに起きた?」
「ううん、全然起きてないよ。むしろ私が失敗しても軽く流してくれる程度には良い人そうだったよ」
「あーまあ、なら大丈夫か…この前の偏屈じいさんみたいなだと困るなと思って」
「全然そんな感じの人たちじゃなかったから大丈夫だと思うよ。あの時のおじいさんはちょっと怖かったよね」
「めっちゃ怒鳴られたしな…いやまあ、とりあえずことなかれで良かったわ。神谷君にもお礼しとかないとな」
「うん、ほんとに突然呼んじゃっても来てくれてありがたかった。でもその分、ちゃんとお礼しないといけないね」
「マジ。何時から来てくれてた?」
「んー…確か5時過ぎくらいかなぁ…もうちょっと遅かったかも?」
「ん、じゃあまあ5時からってことでいいか。とりあえずあとでシフト追加しとこ」
「ほんとに神谷君が色々してくれたからお願いします」
「まあそっちはやっとく。個人的なお礼もしとけよな適当に」
「それはまあ、もちろんするよ。あ、そうえいば話戻すけどお客さん2泊3日だって言ってたよ」
「マジかよ。長期滞在すんなら予約入れてくれマジ…」
「私その辺分からなかったからいいですよって言っちゃったけど駄目だったかな?」
「いやまあいいけど、前も急に泊めたことあるし。ただマジタイミングさぁ…」
「まさか咲希姉がいないタイミングで来るとか思わなかったよね」
「狙いすましたかのようにな。というか客が来てんならそういう内容のメッセ飛ばしといてくれよ」
「ごめん、お客さんが来て結構パニックになってて神谷君が来て全部終わったらなんか安心しちゃって、咲希姉に連絡してたこと忘れてた」
「まあパ二クってたのは電話の回数で察したけど…一応手続き周りやれるようにしといたほうがいいかもな」
「うん、それ神谷君にも言われた。私もちゃんと覚えないといけないね」
「基本家いるから大丈夫だと思ってたんだけどなぁ…まあ今度やることは教えとく。またこうなってもヤバいしな」
「お願いします」
「ん、てか風呂入ってないやつ?」
「うん、さっきまで寝てて神谷君に起こされたばっかだよ」
「え、まさかお前また下で…」
「ち、違うよ!今度は部屋で寝てただけだもん!普通でしょ普通!」
「え、それはそれで神谷がなんで部屋に侵入してんの」
「外から呼んでくれてたみたいなんだけど、私がなかなか起きないから多分心配して、様子を見に来たんだと思うよ。そしたら案の定私が寝てたんだよね」
「相変わらずだな…起きろよ」
「起きれるなら起きてる。起きれないから起きれない」
「だからって意識ない時に男に部屋に入られんのどうなのさ」
「大丈夫だよ。だって神谷君だもん。私に何かしようなんて思わないよ」
「え?いや、多少なりとも思うとこはあるんじゃねえの知らんけどさ」
「あるのかなぁ…だって女の子に不自由して無さそうじゃない?あの人。今はまだチェリーみたいだけど。どうしようもなかったらなんとでもなるでしょ」
「え、チェリーなのあれ」
「本人には内緒にしてね。気にしてるみたいだから」
「マジか。やることやってるもんだと。お前の方が進んでやがる」
「ちょっとそれどういうことですか?聞き捨てならないよ?」
「今は純潔保ってるけど、やるこたやってたもんな前」
「それ引きずるー?」
「そりゃもう永遠に引きずりますが」
「それは前であって今じゃないでしょ。それに前の負の遺産たちは忘れたいんだから言わないでよ」
過去の梛は良くも悪くも恋愛に振り回されてきた。
それもあってかその手の話題を梛に聞くとスルーしたがることが多い。
「まあ最悪それは別にいいけど。お前ちょっとは自覚持てよマジ」
「なんの?」
「美少女」
「え、ああ、そっか。そうだったね」
「自分で磨いといて忘れるのやめてもらえます?」
「だってほら鏡見てないとさ、自分のこと見えないじゃんね。だから偶に忘れちゃうんだよね自分の性別とか、色々」
「いや別に家でごろごろしてる時とかはいいけどさ、流石に男いる状況で忘れてんじゃねえぞ」
「私だって男の人がいたら警戒はするよ!でもほら神谷君は男というよりどっちかって言うと友達だからいいかなって」
「うっわ、あの子かわいそっ」
「ええ?なんで?多分あの人も私に興味ないよ?」
「知ってる?恋愛的感情と性欲って別物よ?俺よりよっぽど知ってるでしょそれ」
「いやまあ、私はさあ、そうだったんだけど…うーん、神谷君ってそう言うことあるのかなぁ…」
「知らん。知らんけど俺まだ男なら間違いなくエロい目でお前は見る」
「そっかあ、それはやだなぁ。可能な限り善処します」
「あい。じゃあまあ、風呂行って来いよ。やってくれたことはチェックしとくわ」
「分かったー。ありがとー。じゃあ準備は終わったから行ってくるね」
「おう。今日はありがとな」
「いいよいいよ結果的にはなんとかなったから。そういえば咲希姉はどうだった?楽しかった?」
「イベントそのものにはキレかけたけど、普通に面白かったぞ」
「そう、ならよかった。そのまま引きこもり卒業してくれることを祈ってるよ」
「それはたぶんない」
「えぇえー?卒業しなよー」
「用ないもん」
「もう大月さんとどっか行く予定とか無いの?」
「呼ばれたら行く」
「なら呼ばれるといいね」
「別に外行きたいわけじゃ無いんだけどな俺…」
「私が外に出て行って欲しい。深い意味じゃないよ?単純に引きこもり続けるのは健康に悪いなって思ってるだけだからね」
「まあ、またどっかさらわれるんじゃないかね」
「たまには咲希姉からも誘ってあげればいいのに」
「えー?ネタ無い」
「美味しい物食べれそうな場所とか連れてってもらいなよ」
「あ、それはいいな」
「あ、いいんだ」
「飯は至高」
「ほんと太らないのが不思議だよ、咲希姉」
「せやな。食生活前と変わってないのにな」
「ほんと気を付けなよ。気づいたら太ってるかもしれないんだからね」
「へいへーい」
「じゃ私行ってくるから」
「いってらー」
そうして渚が風呂に行くのを見届ける咲希であった。




