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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
114/177

部屋の中

夕飯を作り終えた渚が、客を呼びに部屋の前までやってきた。

扉にノックをする。


「すみません。夕飯の準備ができたんですけど、大丈夫ですか?」


普段であればここで何かしら声なりなんなり返ってくるのだが、今日は応答がない。


「あれ、すみませーん。あのー、いますかー?」


応答なし。

が、部屋の中ではない別の場所から声が聞こえてきた。

風呂場の方である。


「あ、お風呂場。夕飯の時間言うのそう言えば忘れてたかもしれない」


実際遅くなるかもとは伝えていたが、時刻そのものに関しては伝えていなかった。


「んー…盛り付けまで終わっちゃったけどどうしようかな。とりあえず残り2食分も作って、先に私と神谷君で食べればいいかな」


というわけで一旦キッチンに戻る渚。


「お客さんお風呂入ってていなかった」


「あれ、普段はこの時間いるはずじゃ?」


「ちゃんと夕飯の時間伝えてなかったかもしれないからそのせいかも」


「ああ、そういうことか。どうする?作り終えちゃってるけど」


「2食分だけ一回戻して、後で再加熱するとして、あと2食分作って今ある2食分は私たちで食べちゃおう」


「分かった。じゃあとりあえず残りの分だけ作るか」


「幸いもう形は出来てるし、焼くだけで終わるからすぐできるよ」


「そうだな。いつお客さん戻って来るかもわからないし、すぐやろう」


というわけで残り2食分の準備をさっさと進める2人。

ほどなくして残りが完成する。


「よし、これで後で温めなおせば一応大丈夫かな」


「そうだな、4人分ちゃんとあるな」


「ほんとは出来立てを食べて欲しいんだけど、やらかしちゃったから勘弁してくれないかな」


「まあ言い忘れてたならもうしょうがないし、勘弁してもらうしかないな」


「じゃあこっちの机にある分だけ食べちゃおっか」


「そうだな。腹も減ったし」


「これ咲希姉にばれたら怒られるだろうなぁー」


「そういうとこ細かいんだ?」


「人ができてるというか私が雑だというか…」


「経営主だし敏感なのかな」


「まあ敏感なのかもしれない、ほんとは今回はやらかしたと思ってるし反省もしてるから、次はやらかさないようにしよう」


「同じこと繰り返さなきゃ大丈夫だろう。たぶん」


「頑張ります。じゃ、いただきまーす」


「いただきます」


ということでとりあえず夕飯にありついた2名であった。


□□□□□□


その後、風呂から出てきた4名にも食事を提供した渚。

伝え忘れの件と再加熱の件は説明したが、特に問題なく受け入れられた。

そして跡片付けを終えて、2階のリビングにて。


「そうだ、結構長くいてくれてるけど、まだ大丈夫なの?」


「流石にこの状態で渚一人で残すのも怖いから咲希さん帰ってくるまではいる気」


「家の人には何も言われないの?」


「報告さえいれれば基本的には何も。一応スマホ通じて連絡はしてるから大丈夫だぞ」


「そっか。ならいいや。それでなんだけど、お風呂入ってく?時間的には女風呂の時間だけど、女性のお客さんいないし、私くらいしかいないから別に入ってもいいよ」


「え、いいのか?」


「うん、全然、あれだったらタオル持ってくるから待ってて」


「じゃあ、お言葉に甘えることにする」


「分かった。じゃあタオル持ってくるね」


そうしてタオルを持ってきた渚。


「あ、着替えとか大丈夫?突然呼んだから無いよね」


「ああ、確かに今日は持ってくるの忘れたな…ああ別にいいよ。今日はそんなに汚れてるわけでもないから、今着てるのもう一回着るからさ」


「そう、ならいいや。はいどうぞ。あと私、自分の部屋にいるからお風呂から出たらここの廊下手前の部屋がそうだから呼んで」


「分かった。じゃあ先に風呂もらうな」


「どうぞどうぞ」


ということで明人が風呂に向かって行った。


□□□□□□


それからしばらくして、ゆっくり風呂に入って来た明人が2階へと戻ってきた。


「ふう、いいお湯だった。とりあえず渚呼ばないと…」


そう言って渚に言われた通りに渚の部屋へと呼びに向かう。

とりあえず扉をノックして声をかけた。


「渚ー出たぞー」


だがしかし、渚から返ってくるはずの反応がない。

とりあえずいるはずなのでもう一度呼びかける。


「おーい。渚ー」


扉を叩きながらもう一度呼びかけるがやはり返事はない。

一応トイレも確認したが誰も入っていないので、部屋にはいるようである。

埒が明かないのでとりあえず部屋の中を確認してみることにする明人。


「渚ー。いるかー?部屋入るけどいいかー?」


残念ながらやっぱり返事は無いので仕方なくとりあえず扉を開けにかかる明人。


「入るぞー。…お邪魔します」


そう言って部屋の中へと足を踏み入れる明人。

なにげに渚の部屋に入ったのは初である。

扉を開けた明人が部屋の入り口で固まる。


「…これほんとに渚の部屋か?…え、間違えてないよな俺」


一旦外に出る明人。

間違いなく先ほど言われた廊下の手前の部屋なので間違いはない。

もう一度部屋の中に入る明人。


「…なんというか渚の雰囲気と違う。白と黒しかない」


渚の部屋は基本的に白と黒基調のモダン系の家具しか置いてない。

少なくとも目に映る範囲内ではそう言った色味の物しか置いていない。

さらに、無駄なものもほとんど置いておらず、精々パソコンくらいなものである。

普段どちらかというと女の子としてバリバリおしゃれしている渚とは到底結び付きにくい部屋ではある。


「…でも、部屋の香りはなんというか…女子の部屋のそれだ。合ってるんだよな?ほんとに…」


まあ正直扉を開けた段階で寝ている誰かさんは見えているので間違いようが無いのだが、それでも疑いたくなる時はある。


「…寝てたのか」


渚はというとベッド上でぐっすりであった。

横を向いた状態で掛布団を抱き枕状態にして寝ている。

当然意識なんてあるわけないので色々と危うい状態である。

具体的に言えば下が部屋に入った段階から見えそうである。

ギリギリ見えてないが。


「…というか全く起きないな。渚」


明人がそんな危うい状態の渚の下の方を視界から外しながら接近しているのにもかかわらず、相変わらず寝息一つ変わる気配なし。

筋金入りである。


「なんというか…危なっかしいよな。ほんと」


渚の寝顔を見ながらそう呟く明人。

まあここまで接近されているのにもかかわらず一切気づかないのでこういいたくもなる。

明人としては正直もう少しこのまま寝顔を見ていたいような気もしたが、そもそも時間も結構遅いので、とりあえず渚を起こしにかかる。


「渚ー。起きろー。風呂から出たぞー」


とりあえず近くで呼びかけてみる明人。

少々うめき声というか寝言というか、多少の反応は合ったものの、すぐ元の通り寝なおした。

意味ない。


「渚ー。起きろって。渚ー」


肩に軽く触れて、揺さぶってみる。


「…ん…神谷、君?」


「ああ、ようやく起きた。お風呂、出たよ」


「ごめん寝てた。分かった。ありがとう…」


そう言うと立ち上がろうとする渚。

そのまま足に力が入ってないのか明人の方へと倒れ込む。


「うおわっ!?」


流石に明人も想定外だったのか、そのまま渚に倒される形で床にぶっ倒れた。


「ちょ、なぎっ、渚っ!?だ、大丈夫!?」


「ご、ごめんね。つまづいたみたい。神谷君こそ大丈夫?」


「い、いや、問題ない。問題ないけど、その…近い」


現在の明人と渚はほぼ密着状態である。

渚が顔を上げているので多少空間が空いているだけであるのでそりゃ当然近い。

目と鼻の先である。

顔はともかく、体のいろんな箇所が触れ合いまくっている状態である。

渚が明人の発言を聞いてスッと体を起こした。


「ほんとごめんね!痛かったよね!?大丈夫?」


渚は明人の近いを痛いと聞き間違えたようである。


「ああ、うん…痛くはないよ。大丈夫。渚こそ、もう平気か?」


「う、うん。私は幸い神谷君がクッションになってたから全然平気だよ」


「そうか。その様子だと目も覚めたみたいだな?」


「うん、目もばっちり覚めました。なんか起こされてばっかりだね」


「一回眠るとなかなか起きないな渚は」


「眠たくて寝るっていうか、気づいたら寝てるっていうか。そんな感じだから全然、深く眠ってるのも知らないんだよ私は」


「何度も呼んだんだぞ?部屋に入るのもなんか申し訳なかったからする気無かったけど、流石に全く反応ないから入っちまった。ごめん」


「ううん、そこは全然いいよ。私こそ呼んでもらったのに起きなくてごめんね。それに私の部屋だったら勝手に入ってもらっても全然構わないよ。何にも無いからね」


「いやそこは何かあるとかそう言う問題じゃなくて…」


「それに神谷君は信頼してるし、別に変なこともしないでしょ?」


「…いや、する気無いけどさ」


「なら私は別に大丈夫だよ」


「…じゃあとりあえず出るから。風呂はもう空いてるから」


「うん?分かった。ほんと、ありがとね」


「ああ、気にしないで」


そう言うと明人はリビングへと戻って行った。

リビングに退散した明人がぽろっと漏らす。


「…何もしないって、即答は、あれ見た後はきついって、渚」


色々見えかけてた渚の姿は明人の瞼裏に深く焼き付いていた。

当分忘れ無さそうであった。




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[一言] 神谷君、バイト代代わりの眼福?
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