慌てる
咲希がいない状況で客が来てしまった民宿「しろすな」。
渚が大慌てで明人に電話をかけてから十分程度あと。
玄関のチャイムが鳴った。
それを聞いた渚がダッシュで2階から玄関へと向かい、扉を開ける。
目の前にいたのはまあ当然明人であった。
「おっす渚。入って大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫。突然呼んでごめんね」
「いいって。むしろ来れる状況で良かったよ」
「ごめんねほんとに。今日はバイトする日じゃないのに」
「学校も何も今はないし暇してたから問題ないって。それで、俺は本当に留守番だけしてれば大丈夫か?他はやらなくても大丈夫?」
「ほんとは料理も手伝ってほしいなって思うけど、今日はバイト代も出せないから今日は留守番だけで大丈夫」
「あ、手伝った方がいい?別にそれくらいならボランティアするぞ?」
「んー…んーでもなぁ、流石にいっつも神谷君に頼りっぱなしだし…」
かなり悩む渚。
「俺なら気にしなくて大丈夫。ほら、困ったときはお互いさまってことで」
「分かった!じゃあまたどこかでお礼するから、今日はお願い」
「おっけ。任せろ。じゃあとりあえず俺がまずは留守番でいいんだよな?」
「うん、今から夕飯の材料買い足してくるから、その間留守番お願い」
「分かった。お客さんに何か言われたら対応はしとく」
「本当?それはすごい助かる。もし鍵を預かったらそのカウンターらへんに置いといてくれればいいから」
「そこだな。よし。じゃあ番は任せろ」
「うん、じゃあ行ってくるね」
というわけで明人を一人残して買い物に再び出かける渚。
全力ダッシュで近場の唯一のスーパーへと向かった。
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それからだいたい20分。
大急ぎで走って帰ってきた渚が足で扉を開けて玄関口に転がり込んだ。
両手が買い物袋で塞がっているので仕方ない。
「はぁ、はぁ…」
「あ、渚お帰り…って大丈夫か?」
「だい、じょう…ぶ」
「全くそうは見えないんだが…とりあえずその買ってきた食材は運ぶからしばらく休んでていいぞ」
「ありが、とう…」
玄関近くの床部分に、靴を脱いでない状態で倒れ込む渚。
相当走ってきたようである。
渚が倒れている間に、明人が買ってきたものをきっちり冷蔵庫へと運んでいく。
「入れ終わったぞ」
「はぁ、ありがとう。んじゃあ、さっそく作っていかないと間に合わない」
「大丈夫か?息戻ったか?」
「神谷君のおかげでそれなりには戻ったよ」
「ならいいんだが…無理はするなよ、最悪指示さえくれればやるからさ」
「大丈夫大丈夫。これくらいなら全然まだいけるよ」
「そうか?あ、あとさっきいったん外出るつって鍵もらったからそこに置いてあるぞ」
「あ、分かった。じゃあちょっとしまってくるね」
「ああ」
というわけで部屋の鍵をしまってそのままキッチンへと向かう渚。
一応手洗いうがいは2階で済ませておいた。
キッチンでは明人が既に待機済みであった。
「じゃあ、やって行きます」
「おう、じゃあ何作るかだけまた教えてくれ」
「ハンバーグ、作っていきます。今日それ以外の材料買ってないから…」
「急だったしな。仕方ない」
というわけでなんとか夕飯の準備にこぎつけた渚であった。
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というわけで料理を初めて数分、玄関のチャイムがまた鳴る。
「これ帰ってきたんだよね?ちょっと、神谷君キッチンお願いしていいかな」
「任せとけ。そっちは頼んだ」
「うん!」
そう言うとそのままキッチンを飛び出そうとする渚。
それを慌てて明人が止める。
「渚!渚!手!そのままはまずいって!」
「あ、あ!そうだった!ごめん、ありがとう!」
というわけで高速で手を洗って玄関の方へと向かう渚。
大忙しである。
「お待たせしましたー!」
「あ、さっきの子」
「どうかされました?」
「あいや、ここ出てくときは別の人だったんで」
「ああ、すみません。人が少なかったので、いつもお手伝いに来てくれる人を呼んだんです」
「ああ、そういうことすか。大変なんすね」
「万年人不足って感じですね。鍵です、どうぞ」
「ああ、ありがとっす」
「いえいえ、気軽に呼んでもらって大丈夫なので、用があればそこのチャイムをまた押してください」
そこで鍵を受け取った男4人衆は部屋へと戻って行った。
それを見送った渚はキッチンへと歩を戻した。
「あ、お帰り渚。大丈夫だったか?」
「あ、うん普通に鍵を渡しただけだったよ」
「ああそうだったのか。こっちもある程度は終わったよ」
「ほんとだ。ありがとう!」
「ああ、あと夕飯準備終わったら手伝うことはある?」
「ううん、もうそれ以上は特にないよ」
「そうか。じゃあ準備だけ早いとこ終わらせるかぁ」
「そうだね。そういえば神谷君は夕飯食べてく時間とかある?あれなら作るけど」
「ん、俺は問題ないけど、いいの?今日実際は非番だけど」
「むしろ非番だからこそ食べてってよ。それぐらいしか今はお返しできないし」
「じゃあそこはお言葉に甘えようかな。ありがと渚」
「ううん、全然いいよ。それに一人でご飯食べるの寂しいと思ってたし、丁度良かった」
「ああそっか。咲希さんいないもんな今日」
「そうそう、出かけてるからね。珍しく」
「珍しいんだ?こういうこと」
「私が家にいないことはあっても、咲希姉が家にいないことはほとんどなかったからね。だから慌てたんだし、こうやって神谷君を呼び出したわけだけども…」
「そういう…突然電話かかってきたからさ、驚いたんだ」
「ほんとごめんね。びっくりしちゃって、どうしたらいいのか私も分かんなくなっちゃったんだよね。咄嗟に思いついたのが神谷君を呼べば何とかなるかなみたいな?」
「そこで頼ってくれるのは嬉しいけど、こういう時どうするか話しといたほうがいいかもな。咲希さんと」
「はい、ほんと、そうだと思います。ほんと、イレギュラーすぎてびっくりしたよ」
「お客さんも突然来たんだっけ?予約制だけじゃないんだなここ」
「うん突然泊まることもできるよ。なんなら今、神谷君が泊まりたいって言うなら部屋用意できるよ」
「流石にこの距離でお金払って泊まるのはちょっとなぁ…」
「まあそもそも神谷君友達だし、泊まるんだったらお客さんとしてじゃなくて友達として泊ってくれれば別にお金いらないけどね」
「まあ、前実際そうやって泊まってるしな?」
「そういうこと、です」
「流石に今日は用意も何にもしてないからやめとくけどさ」
「逆に用意があったら泊まってったんだ」
「まあなんというか…ここ居心地いいから好きなんだよな」
「そう言ってもらえるとありがたいねー」
そんな感じで料理を続ける2人であった。




