謎解き
「咲希さんそんな怒んないでください」
「いや怒ってませんけど。怒ってませんけど物凄い釈然としない。レシートに印字とか聞いてないです」
「あはは…流石に俺も予想外でしたけど」
「いや隠されてるとは言ってたけど!隠れ方が卑怯すぎない!?」
家電量販店の出入り口からキレながら出てきたのは咲希である。
その横を困り顔の雅彦が並んで歩いている。
一応目標の謎探しを終えて退出したところである。
が、その謎の隠れ方が少々問題だった。
「いやだって隠れてるって言ったら店内探すじゃん!何だよレシートってさぁ!私の30分くらい完全に無駄じゃん!」
どうやらその謎とやらがレシート印字タイプだったようである。
正確にはレシート下にQRコードが印字されていた。
その前になんだかんだ店内を探し回った咲希からしてみれば相当に不服であったようである。
「いやこれ雅彦さんいなかったら絶対に見つからなかったですね。私何か買う予定本当に無かったし」
「俺も偶然ですよ。たまたまUSBそういえば欲しかったなとか思ってついでだから買おうと思っただけですし」
「でもそれが無かったらもう30分くらいは無駄してましたよ私」
そもそもそれが発覚したのは雅彦がついでだからという理由でUSBを一つ持ってレジに行ったからである。
でなければ咲希は多分まだ探していただろうといったところである。
なんか30分探したとこらへんからムキになっていたので。
「まあでも、お店に隠すってそれくらいしないと売り上げに繋がらないから当たり前なのかぁ?いやでもやっぱ釈然としないわーないわー。それなら何百円以上購入時って書いといてよマジでぇ…」
「まあまあ、見つかったからとりあえず良かったってことにしましょうよ」
「はぁ…まあ、そうですね。そうしましょうか」
ため息ついて顔を上げる咲希。
とりあえず2人とも車に乗り込む。
「あ、そういえば内容確認しました?」
「まだですね。自分のスマホQRコード読むためのアプリ入れてないんで…」
「あれ、そうなんです?…あ、ちょっとそのレシートこっちに向けてください」
「あ、ありますか?これでいいでしょうか?」
「ああおっけおっけです。えー…はい大丈夫です。えーっと」
そう言って自分のスマホでコードを読み取って確認する咲希。
「…なんか謎3つくらい出てきましたね」
「え、そんなにあるんですか?」
「それぞれに報酬付きみたいです。うわ、結構めんどくさそう。見てくださいよこれ」
しかめっ面になって内容を雅彦の方に突き出す咲希。
「…上二つはなぞなぞタイプみたいですけど、最後のこれ、クロスワードですかね?」
「みたいですね。しかも無駄に容量広いっていう」
「…ここでやると結構大変そうですねこれ。どこか入ってゆっくりやりますか?」
「ああそれいいですね。そうしましょうか。ちょっと小腹空いたし」
「どこか行きたいところありますか?」
「え、ああ、何でもー。というかこの辺全く知らないんでほんと、お願いします」
「じゃあ、近場で何か…ああこことかどうです?」
ナビで周辺から適当な場所を見繕う雅彦。
「いいですよ、ここ行きましょうか?」
「決まりですね。行きましょうか」
そう言うと車を走らせてそこに向かった。
□□□□□□
「う、結構混んでる」
「場所替えますか?」
「いや、どこもこんな感じな気がするので大丈夫です。入りましょ」
近場の喫茶店へと向かった2名。
入り口近くでぼそりとそんな会話をしたものの、変更する方が面倒と判断したらしくそのまま入る咲希。
満席だったのでしばらく待たされる。
「そういえば咲希さん人混み苦手って言ってましたもんね」
「ほんと、嫌いなんですよね。人はいいんですけど…って思ったけど知らん人と話すだけで疲労するからやっぱ駄目かも」
「え、人嫌いですか?」
「そこまではいかないと思いますけど…人疲れは酷いですほんと。例えば、こう、知らない人3人くらいと会うシーンがあるじゃないですか。そうなったら普段より寝るまでの時間が数時間早まりますよ私」
「それは…結構きてますね」
微妙な顔でそう返す雅彦。
それを見た咲希がニヤと笑いながら一言。
「今、何故この人はそれで宿やってるんだろうと思いましたねさては」
「え、顔に出てました?」
「出てますよー分かりやすい。ちなみに理由は車で述べたとおりです。背に腹は代えられぬというやつです。まあ幸い疲れるだけで嫌いなわけじゃ無いのでまだましですよ」
その辺で席が空いたので呼ばれる二名。
「なんか甘い物食べよっかなー…」
「咲希さん、甘い物好きですか?」
「大好きですよ。ちなみに洋菓子より和菓子派です」
「え、そうなんですか。もうちょっと違うお店にした方が良かったですかね…」
雅彦の発言を聞いた咲希が少し慌てる。
ちなみに今入っている喫茶店は和菓子系は無い。
「あっ、いやすいません。そう言う意味じゃないです。どっちかってとそっちのが好きなだけなんで、チョコとか普通に大好きなんで気にしないでください。ほんと」
「それならいいんですけど」
「いいですいいです。ほんと。普段からチョコとか買ってるんで大丈夫です安心してください」
「じゃあ…咲希さん頼むもの決めました?」
「あ、えっと…オッケーです。雅彦さんは?」
「大丈夫です」
「じゃあ呼んじゃいますね」
そう言って店員に注文伝えて、一息つく2名。
「じゃあ、早速さっきの謎やってみましょ」
「そうですね。えっと、すいません画面見せてもらっても?」
「はい、これですね。…ああ、でも対面だとやりづらいなこれ。そっち座っていいですか?」
「え?あ、はいどうぞ」
「よし、じゃあちょっと横失礼」
すっと対面座席から立ち上がって雅彦の横に座る咲希。
「えっと、これですね。上から謎1、2、クロスワードって感じです」
「…」
「あれ、どうかしました?」
「あ、いや、なんでも」
雅彦が咲希の方を見ていたので咲希が頭にはてなを飛ばしながら問う。
慌てたように画面に目をやる雅彦であった。
□□□□□□
そのまましばらく謎とクロスワードをやり続けた2名。
咲希は席を戻すのが面倒だったらしく、そのまま並んだ状態で頼んだ物も食し終えていた。
「あとこことここだけ分かんないですね…ゲーム内の地名でしょこれ?」
「多分そうだと思うんですけど…俺地名までははっきり覚えてなくて」
「流石に細かいとこは私も…えぇ、なんだこれ」
頭を悩ます2名。
紙は置いてあったアンケート用紙を勝手に使っている。
「これ、ここじゃないですか?」
「あー確かに。じゃあこっちはこう?」
「ああ、多分そうそう」
雅彦が書くのを担当して、咲希がとなりからあーだこーだ言ってる構図である。
スマホの画面が小さいのもあって、普段より距離が近い。
「あ、これここじゃないです?あっ、すいません、寄りすぎました」
咲希の腕が腕に当たった。
紙も大して大きいわけじゃ無いのでかなり寄っている結果である。
「あ、気にしないでください。大丈夫です」
「というか、ここまで来たら反対にいても読めるし大丈夫か?戻りますね。狭いのに失礼しました」
「あっ…」
「え?」
「ああ、いえ、何でもないです」
そう言って対面席に戻る咲希。
ちょっと残念そうな雅彦であったが咲希が気づくことは無かった。
□□□□□□
「あー結局よく分かんなかったなー最後」
「まあまあ、後でまたもうちょっと考えれば答え分かるかもしれませんし」
「そうですね。ゲーム内ならまた分かるかもしれませんしねー」
結局全部は解ききれなかった2名。
あんまり遅くなりすぎてもよくないということで、切り上げて帰路につく。
車とは言え、帰路もそれなりにあるので仕方ない。
「いやでも、楽しかったです。ああいうのネットでやれなくもないですけど、対面のが顔見えるし面白いですね」
「確かに。そう言う意味では今回のイベントに感謝ですね。普段見れない顔も見れたし」
「あれ、なんか普段しない顔してました私?」
「え?あ、いや、悩み顔とかは初めて見たなぁと」
「おやおや、それは私が普段は頭ハッピーさんに見られている?」
「いやそう言う意味では無いですよ!?」
「あはは、分かってますって。まあ普段雅彦さんと会う時、そんな顔することは無いですしねー前プライベートで会った時は笑ってばっかだったし」
「だいたいそれ悠太のせいでは?」
「ネタに困らないですしねーあの人」
そんなことを喋りながらしばらくして話が一度止まったところで、雅彦が少し悩んでから咲希に話しかけた。
「咲希さん。その、またこうやってどこか遊びに行ったりしませんか?今回はイベントでしたけど、その、普通に遊びに出かけたりしません?」
「…なんだか美船みたいなこと言い出しましたね?何かありました?」
「いや…その、咲希さんと喋って遊んでるのが楽しいので、また行けたらなぁと…」
「…ふふっ」
「え、いま笑いました?」
「いや、そんな真面目な顔して言わなくてもって思って。別に誘ってくれれば行きますよ?ただ私はもやしだし動きたくない症候群なので行く場所は任せますけどね」
「それじゃあ、また遊びに行くときに連絡しますね?」
「いつでもどうぞ。忙しくない時なら全然行きますからね。私も雅彦さんと遊んでるの楽しいんで」
咲希の座っている方と逆の手で小さく腕をぐっとする雅彦がいた。




