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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
11/177

補充人

ピンポンと民宿「しろすな」にインターホンが響いた。


「はーい!今行きまーす!」


2階からいつものタンクトップスタイルで階段を駆け下りて、慌てて扉を開ける咲希。

自室から玄関口まで微妙に遠いのでこうなりがちである。


「あ、咲希さん。どうもです。自販機補充に」


「ああ、いつもありがとうございます雅彦さん」


玄関を開けてみれば、いつぞやかお酒運びにやってきた青年である。

民宿「しろすな」には自動販売機が設置されているが、それの補充も彼に任せているのである。

つまり「しろすな」における飲料周りは彼に掌握されている。

まあ複数と契約だなんだしたくないという咲希のめんどくさい病のせいなのだが。

なお彼の名前は大月雅彦(おおつきまさひこ)という。


「そういえばお客さん来ました?」


「ええ、この前初めてのお客さんが…」


「よかったですね。じゃあこれで本格的に民宿復活ですね」


「あはは…実際にやってみたら大変で。これからやっていけるか心配です」


「大丈夫ですよ。二人とも頑張ってるのは知ってますし」


「そうだといいんですけどね…ま、頑張ってみますよ」


「応援してます。じゃあ、今日もここ補充でいいですかね?」


「ああはい、お願いします。お客さんはそんなに利用してないと思いますけど、なんだかんだ私とか、渚とか使ってるので、たぶん減ってるかと」


「じゃあ、また減った分は補充しときますね。あ、あと次のお酒の配送は前回と同じ日で大丈夫ですかね?」


「ええはい大丈夫です。またよろしくお願いします」


「じゃあ、そっちはそっちでまたよろしくです」


「はーいまたお願いします。じゃあまた何かあったら上に向かって呼んでもらえれば降りてきますので」


「はい、こっちはお任せください」


「では、失礼」


そう言うと咲希は上に上がっていった。

なんだかんだもう顔なじみと言っていいくらいは会っているのである程度信用はしているのだろう。

まあ貴重品は基本全部上にしかないというのもあるが。


「さて…あれ、やたらオレンジジュース減ってるなあ…?渚ちゃんが飲んでるのかな」


なおそれをよく飲んでるのは咲希である。

本人もよく分からないが、オレンジジュースが好きらしい。

と、そんなことを考えている雅彦の隣の裏口から繋がっている扉が開いた。


「あ、大月さんだ。こんにちは」


「うわっ、ああ、びっくりした。こんにちは、渚ちゃん」


「え?びっくりしました?」


「いや、そこが開くと思ってなかったから…」


自販機の設置場所は渚が出てきた位置の真横である。


「ああーここ裏口で、この裏にゴミ箱があるんですよー」


「ああ、そうだったんだ。あれじゃあ、なんか捨ててたの?」


「ああ、昨日までの生ごみとかですよ」


「そっか、料理担当は渚ちゃんだもんね」


「そうなんですよー?みんな美味しいって言ってくれるんですよー?」


「はは、そんなに評判なら僕も一回食べてみたいかもね」


冗談めかしてそういう雅彦。

だが、渚は普通に受け取ったようだ。


「え、ほんとですかぁ?じゃ、今度食べに来てくださいよ」


「あはは、じゃあまたどこかで時間取れたらお邪魔しようかな。まあ、咲希さんもよければだけど」


「え、まあいいんじゃないですか?たぶん気にしないですよ」


「え?そ、そうなの?」


「いや、知らないですけど」


「そんな気がしたよ。もしほんとにお邪魔するならちゃんと咲希さんに聞いてからにするからね」


「じゃあまた聞いときますね。そういえば大月さんって花札知ってますか?」


突然の花札。

ほんとに突然である。

話変わりすぎというレベルではない。


「え?い、いや知らないわけじゃあないけどしっかりとしたルールなどまでは…」


「ええー?大月さん知らないんですかぁ?」


「いや、普段花札とかやらないからなぁ…じゃあ渚ちゃんは知ってるの?」


「知らないから聞いてるんじゃないですかー。昨日部屋の掃除してたら、花札見つけたんですけど、遊び方分かんなかったんで、知ってる人いないかなーって思ったんです」


「…僕そういうの知ってる風に見える?」


「見えます!だって田舎の人だから!」


とてつもない偏見である。


「いやすごい偏見だね!?それ言いだしたら渚ちゃんだってそうじゃないか」


「え?私都会育ちなんでちょっとそういうの分かんないです」


「えぇ…」


すんごい何とも言えない顔になる大月。

そりゃそうなる。

まあ少なくとも渚がここに来る前にいた場所は田舎ではなかったので間違いではないのだが。


「え、大月さん逆になんなら分かるんですか?」


「えーっとジャンルが広すぎて逆に困るんだけどそれ」


「いや、ほら、遊んでたやつです。遊んでたやつ」


「遊んでたやつ?え、ゲームとか?」


「あ、そういう感じです」


どういう感じなのだろうか。


「え、えーっとそうだなぁ…子供の頃はよくそこの海で泳いだりしてたかなぁ」


「へーそうなんですね。あーだから肩幅広いんですね」


「それそこまで関係あるのかなぁ?」


「え、滅茶苦茶ありますよ知らないんですか」


「え、ほんとに?」


「ほら、あの、バタフライとか」


「やけにピンポイントだね」


「なんとなく頭によぎっただけなので、別に他意は無いです」


「そこはなんか根拠あるわけじゃないんだね」


「ググってください」


と、そこに上から誰かが降りてくる足音がする。

まあ当然咲希なのだが。


「あ、渚、お前また大月さんの仕事の邪魔してんじゃねえよ」


「あ、咲希姉。邪魔なんてしてないよ。ね、大月さん」


「あはは…大丈夫ですよ。楽しく喋らせてもらってます」


頭押さえる咲希。


「はぁあ…まあ、雅彦さんがいいならそれでいいですけど…渚、大概にしとけよ」


「あいあい。あ、そうだ、買い物行かなきゃ」


「あからさまに逃げてんじゃねえ!」


「今日の夕飯何がいい?」


「なんでもいいわ!」


「分かった、じゃあ行ってきまーす」


なお、財布は持っていない渚である。

ただの逃走であった。


「ちょ…すいません、雅彦さん」


「渚ちゃん元気ですねえ」


「雅彦さん来るとテンション上がるみたいなんですよね…」


「はは、それは逆に嬉しいですね。僕なんかでよければ」


「いやもうほんと、恐縮です」


とそこで再び玄関が開いて渚が顔を出した。


「財布!」


「いや何しに外行ったんだよ」


突っ込まずにはいられなかった咲希であった。



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