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其の終
「私、原宿に行きたい」
駅の切符売場でおりんが言い出した。思えばそんな年頃だった。
「私、新宿行きたい」
ウマがおりんの口調を真似た。あきらかに便乗だったが、「ボンのアパートに泊まればいい」とまで言い出した。
先日おりんが泊まったことでトオルは女を連れ込んだ英雄になっていた。もしそこにウマを連れていくと女の父親が相手の男の様子を見に来たと言い出すことは目に見えていた。
アパートの連中なら結婚式の日取りまで勝手に決めてしまいかねない。
断っても無理と考えたトオルは、二人を新宿と原宿の中間にあるビジネスホテルに泊めることにした。苦渋の決断だ。
ホテルのフロントで二部屋分をトオルが前払いで清算した。
叔父から貰った茶封筒の中に残っていた金額とほとんど同額であることが、より一層トオルの切なさを加速させていた。