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荒れた魔力の消えた先と召喚魔獣と報告書

 ユーリアはルーカスに勧められ椅子へと座り、向かい合う。



「いろいろと聞きたい事はあるが……。

一番聞きたいのは先程の訓練場での事だ。

渦巻いていたドニの魔力が一気になくなった。

 私には胸のあたりで魔力を吸収しているように見えたが、あれはなんだ?」



 ルーカスは左手を顎に手を当て右手でユーリアの胸を指差した。



「食べてもらった」



 ユーリアは自分の胸に手を当て、視線も胸へと移す。



「食べてもらった? ユーリアは言葉が少なくて分からない」



 ルーカスは前髪を掻き上げ、説明するよう促した。



「魔力食べてもらった。それが事実」



 ルーカスに説明を促されるが、ユーリアは首を横に降る。これ以上説明する事はない。



「あのな……。まだ初日だし俺を警戒するのも分かる。

 だが、調査書を読んでもさっきの処置を見ても、医術クラスではなく、何故武術クラスを選んだのかが分からない。

 教師たちは成績優秀者を良い意味でも悪い意味でも注目しているんだ。

 俺はお前の担任になった以上は守ってやりたい。

 生徒達にも今日の事を見られているんだ、お前がこれからどう学園で生活したいのかも聞きたい」



 ルーカスは溜息をつき、強い眼差しを向ける。ユーリアも溜息をつくと観念したのか声を出す。



「……私は普通に生活したい。友達と楽しく過ごして、誰からも干渉されず、魔術具を作ったり、バイトしてお金を貯めたり、平穏な日常がほしい」



 12歳の将来に希望を持った新入生が話す内容ではない。故郷で何かあった事は察する事が出来た。



「お前も故郷で何かあった口か……。

平穏が望みというのであれば、それに合わせて口裏を合わせるようにしよう」



 ルーカスは苦い顔をしながらもユーリアの意見を尊重してくれた。



「ルーカスは秘密守る人?」


「ああ、というかさっきも思ったが、教師の名前呼び捨てはいかんだろ。先生をつけなさい」


「ん、先生と思ったらつける。それより秘密守るんだよね?」


「ああ。他の生徒にも教師にも言わない」



 ルーカスの言葉にふふっと笑みを浮かべながら、ユーリアは自分の過去のことを含めて語る事にした。



「訓練場で使ったのはこれ」



 ルーカスに首につけていたペンダントを見せた。

 金色の鎖に、複雑な模様の描かれた台座には大きな乳白色の石が付いている。



「これは召喚魔石っ! 使役している獣に魔力を吸収させたって事か……。あれだけの魔力瞬時に吸収するってお前はどれだけ力隠してるんだ。石もでかいし、謎が多すぎだな」



 顔は引きつらせるようにニヤッとさせているが、相当驚いているようである。



「そう、ルーカスは頭の回転早いね。これ私の使役獣。テディよろしく」



「にゃー」と、ユーリアの胸元が光ると一匹の白猫が出てきて、ユーリアの膝に座る。

 顎を撫でられればゴロゴロと喉を鳴らす。





 一通りユーリアが撫でるのを堪能すると「人語を話すこと許可する」と一言告げた。



「ご命令がございましたので、主人に代わり自己紹介いたします。私はテディ。幼少の頃よりユーリア様にお仕えしております使役獣です」



 ルーカスは頭を抱える。

人語を主人以外に話す獣は位が高いのだ。

ましてや、言葉使いからも知能を感じ高位である事は察する事ができる。

高位になればなるほど自分のそばに置くのに大量の魔力を捧げる事となり、並の魔術師では使役できない。



「ユーリア、ドニの魔力の塊を見つけた時点で魔力を持っているのは分かったが、これ程とは……」


「上に報告する?」



 ユーリアがテディを撫でながら首を傾げ、ルーカスをじっと見た。ルーカスは首を横に振る。



「上に報告したとしても信じてもらえないだろう。話が規格外すぎる。お前くらいの実力があれば国が外へ出すのを拒むだろう? わざわざこの学園に入学する必要はないはずだ」


「テディ私の説明」



 クスっとテディが肩を竦めるような動きをして笑う。「承知いたしました」という。



「ルーカス先生。主人は説明などは苦手でございますので、主人に代わり説明させていただきます」


「ああ、頼む」


「ユーリア様は大変優秀な方で、当然我が祖国の陛下とも顔見知りでございます。

 今回の学園での生活は許可頂いており、陛下にお仕えする準備期間とされているようです。

 優秀なりに面倒なお立場にございました。

 主に義母様からの妨害ですかね。自分のお子が後継者になるべくいろいろとされておりました。

 あの時は殺意を止めるのに必死でしたよ。

 主人が許可してくだされば一瞬で……」


「脱線してる」



 優しく喉を撫でてやりテディの気持ちを宥める。



「申し訳ございません。まだまだ私も未熟です」と話をつづける。


「えー、準備期間という事で、ユーリア様には優秀なだけに色々と人間として欠けている部分がございますので、精神面を強化してお戻りになるようにとの事なのです。ご納得いただけましたか?」



 顎に手を置いたルーカスが、頷く。



「ああ、ユーリアに欠けている部分があるのは、片鱗なら1日しか経っていないが分かる気がする。

 知識だけでなく精神面で成長というのは、この学園で身につけられることであろう。

 ……報告書になんて書くかな」



 テディの話を聞きながらも、報告書に書く内容を考えていたようだ。



「今回の件でしたら、目撃されてる方も多々いるでしょうから。

 召喚魔石を使用したことを伏せて、ユーリア様が母の形見である魔術具を使用し、その後大破、ティナ様による事態の収束。

 複数の負傷者の対応については、治療院出身のため心得があったため、手伝いをかってでた、で十分かと」



 ルーカスが頷きながらその辺にあった紙にメモを取り始めている。



「今後ユーリア様の優秀さが露見した時に、この学園に通う理由が問われることがあれば、父親の方針により年相応の子と同じ生活をさせるため、知識ではなく精神の向上を念頭に学園に赴いている。

 という事で国王陛下関連のお話は隠していただきたいと思います。

 後は、ユーリア様の力を見たドニ様とヴィオラ先生には話を通していただければ、幸いです」


「白猫すごいな! ありがとうよ。頭スッキリしたわ」



 ルーカスは満面の笑みでテディの頭を撫でた。



「あんまり撫でると食われるよ」



 ボソッとユーリアが呟いたが、すでにルーカスはごっそりと魔力を奪われた後だった。



「お前の猫容赦ないな……」


「つい、美味しそうな魔力があったもので」



 テディは毛づくろいを始めた。



「テディの、美味しそうはすごい。先生魔力の質相当! ドニはマズイって言ってた」



 普段淡々と話すがテディの絡んだ話だからか、ユーリアは食い気味でルーカスに話しかけた。



「マズイとは言っておりませんよ。少々青臭いと言ったのです。苦みや渋みばかりで、甘みが欲しいところですね。彼には」


「そろそろこれに戻る。ヴィオラこっちに向かってきてる」



 テディはルーカスを見つめ「主人をお願いします」と一言告げると胸元のペンダントに戻った。




* 


「ルーカス報告書大丈夫? これからお説教?」



 首を傾げるユーリアの頭をガシガシと撫でる。



「生徒は先生の心配しなくていいんだよ。

 お前はせっかくいろんな柵から放たれたんだ。楽しめ。学生の時しかバカは出来ないんだぞ。

 それはそうとあの猫いいな……一瞬で報告書の内容を、思いつくとは主人と揃って優秀だな……。

 次、報告書書く機会あったらまた頼もうかな……」



 顎に手をやり真剣に考え始めるルーカス。


「時給1,000ソエル。夕食付き」


「時給700ソエル。夕食付き」



 2人は睨み合う。



「時給900ソエル。夕食付き」


「時給850ソエル。夕食付き」


「……時給700ソエル。夕食付きデザート付き下書き付き」


「清書までは……?」


「筆跡が違うから」


「んー……。乗った!」



 ユーリアとルーカスの交渉が成立し握手をしているところにヴィオラが戻ってきた。



「何を打ち解けてるのかしら。特に誰も来なかったようね。ああ、ドニだったら治療院へ送ってきたわ。エクムント先生にも話を通してあるから大丈夫よ。ユーリア今日はありがとうね」


「うん。また」


「ええ、また近々お会いしましょう。ルーカス先生早めに職員室に向かった方がいいわよ。訓練場の惨状がバレたみたい。検討を祈るわ」



 ルーカスが本日何回目かわからない溜息を付き、ユーリアとともに保健室を出た。



「お前はこのまま寮に戻って休め。報告書の礼は今度な」


「時給分」



 手を出すユーリアだが、ルーカスはお金を渡さなかった。



「金は今回は無しだ。助言をもらったのはお前の白猫だしな。善意でお茶でもおごってやるよ」



 ルーカスは爽快な笑顔とともに手を振りながら早歩きで去ってしまう。


「お金……」少し落ち込みながらも「にゃー」とテディに気遣われ寮へと戻っていくのであった。

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