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ジーグルドのお見舞いと夏休みの計画

 新しいバイトも増え、楽しい錬金術の授業があるので毎日充実した日が続いていた。


 明日から約2ヶ月間は夏休みとなるため、故郷に帰るものもいるためしばらくは皆では会えない。


 今日の放課後はチームの仲間たちとジーグルドのお見舞いである。


 治療院へは非常勤の医術師として度々顔を出しているので快方に向かっていて面会できることを知っていたが、直接会う暇はなかったのだ。

 皆の予定を聞いて午前で授業が終わる今日になったのだ。

 何故かヤンも付いてきている。ベネディクトと何か話しているようだ。



「ジーグルド元気そう?」


「もう少しで完治らしい」



 道中ティナに話しかけられた。久しぶりにジーグルドに会うので皆嬉しそうである。



「ユーリアに会った時にどんな顔をするか僕は楽しみですよ」



 ドニはクスクス笑いながらティナの隣に来る。

 私の両脇はティナとアネットである。



「どういう意味?」


「久しぶりに皆んなの顔を見れて嬉しくなるんじゃないかって話!」



 ティナはドニの脇を肘でつき、何かドニと話し始めた。



「ジーグルドが、元気になってホッといたしましたわ。ずっと心の中で心配していたのです。クラスが違うのに一度チームになるとこんなにも思いが変わるんですね!」


「うん。仲間大事!」


「私はユーリアとしばらくお会い出来なくなるのも残念ですわ」



 アネットは明日から休みの終わりまで故郷に帰る。馬車で往復3週間かかるらしい。

 家が剣の道場をしていて帰ってからは剣の指南と鍛錬が待っていると言っていた。



「僕も帰らなくてはならない。母上と父上に僕の成長の成果を見ていただかないといけないからな」



 ステンも明日から帰るらしい事は言っていたが、半分は身内自慢だった。



「皆が会えなくなるのを寂しがるとは思っていたが……僕も少し寂しいよ」



 哀愁漂う感じで話してはいるが、全く寂しがっている感じがしない。



「あ、治療院だってー! 初めてくる! ユーリアここだよね」



 いつの間にかに先行していたティナが看板を見つけたようだ。

 ここの都市の治療院はかなり大規模だしベット数も多い。

 個人院というより大学病院という感じだ。



「ティナ。症状の重い患者いる。中では静か。ジーグルド個室、そこでは少しならいい」


「はーい!」



 病棟へと向かう。ジーグルドの部屋は学園が用意しているのでかなりいい部屋で一番奥にある。



「ジーグルド元気ー?」



 病室に入ると同時にティナの元気な声が響く。横になって眠そうな目をこすったジーグルドがいた。身を起こし、「み、皆?」と寝ぼけた声を出している。ユーリアは背中にクッションを置き、少しカップに水を注ぐ。



「ユーリアありがと」



 ジーグルドは微笑むと水を一口飲んだ。



「さすが、ユーリア医術の心得があるね。さっと患者の体を気遣う感じなかなかできないわー」



 ティナがしみじみとした顔で言う。皆も頷いている。



「さすがに、ティナのように大きな声までは出さないが、そこまでの気遣いはできないな……」


「何よ。ヤン問題あるー? 久しぶりに会うんだもん。楽しみにしてたのよー!」



 ティナの興奮はなかなか冷めないようである。

 ジーグルドはその様子を見てクスッと笑う。



「ありがとうティナ。それに皆、来週には退院出来るみたい。夏休みに間に合わなかったけど、早めに退院できてよかった」


「そっかぁ。よかったー夏休み明けに皆が揃ったら快気祝いしようね!」


「うん。楽しみにしてるね」



 ジーグルドがコホンと咳き込んだのでユーリアは背中をさすってあげる。



「ユ、ユーリア大丈夫だよ。この位。本当にユーリアのお陰で元気になってるんだから」


「ユーリアは介護してるだけだ。患者特権だ。甘えとけっ!」



 ベネディクトがどんとジーグルドの肩を叩く。

 うわっと水を少しこぼしてしまう。慌ててふきんでユーリアが水を拭いてあげる。



「ベネディクト力入れすぎ!」


「すまんすまん」



 ベネディクトが謝り、ジーグルドは顔を赤くする。


 ティナが話題を変えるため、あの後の学園で起こったことをダイジェストで伝える。


 もちろん私がすごく動揺してたことや、怒ってイーサクを村八分にした事を告げた。

 なぜかメイドカフェで時々ホールに出ることまで伝えている。



「ティナ言わない約束」


「このメンバー内ならいーじゃない。宣伝、宣伝」



 それに一番食いついてきたのはアネットだ。



「まあ、制服が可愛いのですか?私鍛錬ばかりでそう言うのに疎いのですけれど、たまにはそういうお洋服を着たユーリアを見に行きたいですわね」


「なんならバイトに来ちゃう?可愛い服も着れるよ。」


「そうですね……夏休みの間に考えておきますわ」



 ティナは少しずつバイト仲間を増やそうとしているらしい。微笑みが黒い。



「僕もユーリアとティナのメイド服見てみたいな。少しはティナの姿も見れるんでしょ?」



 ドニが話しかける。ベネディクトもヤンも頷いている。



「んじゃ、夏休み中にジーグルドの退院祝として俺ら男だけで行くか?ジーグルドの分は俺のおごりだ」



 ベネディクトはジーグルドにも声をかける。ジーグルドは嬉しそうだ。ステンは「僕はいけないけど、皆んなで楽しんで来てくれ」と言っていた。



「夏休みの前半はユーリアと私休みなの。だから後半ならシフトいっぱい入ってるからいつでもおいで! ベネディクトならユーリアのシフトいつでも聞けるから大丈夫でしょ。そっちから回して!」


「お、おう。なんで前半休みなんだ? 故郷に帰るのか?」



 そんな話は聞いてなかったとベネディクト達は言う。



「話してなかったっけ、三日後からユーリアの故郷に行くんだよー。ユーリアのお家にお邪魔して海で遊ぶんだ」


「確か、ユーリアの故郷ってシュペルノヴェイルだったよね。大陸の南側だから海があるのか……僕見た事ないや」



 ティナが自慢気に話すとドニが肩を落とした。

 海側には別宅があるのでドニ一人くらい増えても問題ないだろう。



「ティナいいならドニ行く?」


「私はいいよー。ドニ故郷に帰るんじゃなかったの?」


「いや、後半で帰るからいいよ。あっちで特に予定はないし、ユーリアの故郷行ってみたいし!」


「「俺も!」」



 ドニの動向が決まるとヤンとベネディクトが挙手した。後二人か……。

 食料は自前でいいとして寝具を家族に用意して貰わなくてはならない。



「僕も行きたかったんですけど、補講があるので……。残念です。カフェにはご一緒します」


「うん、ジーグルド無理しない。体休める」


「んじゃ、そろそろ行くか、あんまり長居も良くないだろうから、ジーグルド休め。カフェ楽しみにしようぜ!」



 ジーグルドに別れを告げると皆病室を出る。



「ユーリア、その話があるんだけど……」


「ん」



 ユーリアは病室を出ようとした足を止めた。



「その意識を失う前の事なんだけど……」



 何かあっただろうか。あの時は気が動転していてあまり覚えていない。ユーリアは首を傾げる。ジーグルドの顔は真っ赤だ。



「その、あの……み、耳に……」


「ジーグルド、大丈夫だよ。ユーリアは気づかないから。」



 ドニが扉からひょこっと顔を出してジーグルドに伝える。

 耳。あの、感謝の言葉の事だろうか……。



「あー、感謝?ジーグルドは元から才能ある。私なんて少し手助けしただけ、これからも頑張る。良い医術師となれる」



 クスクスっとドニが笑い「ね?」とジーグルドに話しかけた。



「は、はい、頑張って良い医術師になります。あの今日はお見舞いありがとうございました」



 顔を真っ赤にさせたままのジーグルドにバイバイといい、ドニと一緒に病室を出た。


 ドニはクスクスずっと笑っている。



「ドニ何? 面白い?」


「いや、想定の事が起こって笑っているだけ、そんなに簡単に気づくならユーリアじゃないなって思っただけの話だよ。ね、この後ユーリアの故郷に行くメンバーで夕食たべよ!」


「う、うん」



 ユーリアはドニに手を引かれ前を行く皆の元へと向かうのであった。


 病院の前で、帰省組と別れる。



「それでは皆さん次は休み明けですわね。お土産話期待しておりますわ」


「では、僕も失礼するよ。僕も土産話をたくさん用意しよう」



 ティナ、ドニ、ベネディクト、ヤンといつものカフェ、コジュマを目指す。


 カフェに入るといつものコーヒーフロートを注文する。皆は各々の好きなものを注文した。


 初めて一緒に食べるヤンは夕食なのにパンケーキを注文したユーリアを凝視したが、今日は甘いものをとことん食べたい日なのだ。なんならパフェじゃないだけまだ大目に見て欲しい所である。


 ベネディクトはヤンに声をかける。



「だいたいユーリアが選ぶとデザートだ。しかも全部は食べきれないから、俺かドニがもらう事になる。それを気にしてたらユーリアとは飯に来れないぞ」


「いや、だいぶ少食だと思って……普通何か腹に溜まるモノを頼むだろう。ティナみたいに……」



 ヤンは余計な一言をいうと、ティナにものすごい目で見られた。



「パスタとパフェくらい大丈夫よ。その分飲み物は紅茶にしたんだからー! 成長期なの」


「サラダ食べる。ドニに一口お肉もらう。甘いもの美味しく食べる」


「分かった」



 ヤンはものすごく適当な相槌を打った。

 成長期の男の子には足りないかもしれないが、何か食べたら甘いものまでありつけなくなる。



「本当少ししか食べないのになんでそんなに育つのよー。私にも分けて……水着買いに行くのがこんなにも億劫なんて……」


「分けられない。水着可愛いの買う!」


「水着!」



 男子の声と成人男性の声が混ざって聞こえる。

 後ろのテーブルからだ。何か飲んでいたのか咽せている。

 聞き覚えがある声にティナが反応する。



「先生なんでいるの?」



 後ろのテーブルにヒョコッと体を乗り出すティナ。



「やあ、なんだか楽しそうな話が聞こえたね」



 ルーカスとイーヴァル、シェルトが三人で座っていた。

 まだ咽せているルーカスに変わり、イーヴァルが話しかけてくれる。



「先生聞いてくれます? 明日ユーリアとベティーナ先輩と水着買いに行くんですよ!」


「待て 、ベティーナ先輩って誰だ? 一緒に行くのか?」



 ベネディクトが先輩の名前に反応する。伝えることを忘れていたのだ。



「ベティーナ、カフェの先輩。行くけど途中から別行動」


「そう、最初の海に行くのと、帰りに買い物行く以外は別行動するんだって、ちょうどユーリアの故郷に用事があるから、宿代わりに最初の1週間くらいユーリアのうちに泊まるらしいよ。

 っていうか、なんで私がナイスバディな二人と水着買いに行くの? 惨めだ〜……」



 ティナは机に突っ伏して嘆く。ドニが背中をトントンしてあげている。



「ティナ。成長期。焦ることない」



 ユーリアはフォローのつもりで言ったつもりだが、ティナは首を横に振り、机から顔を上げない。



「いやいやいやー!」


「海行かない?」



 ユーリアが悲しげな声で聞くと、ティナは顔をパッと上げる。目は涙目だ。



「海は行くから買いに行くよ。ドニー、悲しい。胸が悲しいー」



 胸を押さえたと思いきや、ドニに抱きついて泣き真似をしている。



「大丈夫だよ。ティナ。女の子は中身が大事だよ」


「ドニに言われたくない。あ、知らないんだった。ドニは当日ベネディクトみたいに顔を真っ赤にして唖然とすればいいんだー!」



 そういうと、どさくさに紛れてティナはユーリアの前を通り、隣のテーブルのイーヴァルは抱きつきにいった。



「ね、イーヴァル先輩」



 イーヴァルは困ったようにこめかみを指で掻きながら、同意した。



「そうだね。ティナちゃん驚いてもらおうね〜」



 イーヴァルがよしよしとティナの頭を撫でている中、ドニとヤンが顔見合わせてハッとしている。何に驚くのだろうか。



「先輩たちは何で先生と一緒にいるんですかー?」


 イーヴァルはルーカスに目配せすると、ルーカスが口を開く。



「南の地で魔獣が増えて応援要請が出た。騎士団についてはこの学園都市の南に位置するイルムヒルムの都市に拠点を置き、5日後に他の先生や生徒を含めて出立する予定なのだ。そして、我々はイルムヒルムの更に南にあるシュペルノヴェイルにて情報収集の任務を行う事となった」


「シュペルノヴェイルの情報収集は生徒会の4年生が担う事になったんだけど……非戦闘員だけだと危ないから、僕とベティーナ、ルーカス先生とシェルトの4人2組でペアを組んで潜入するんだ」



 ベティーナが別行動と言っていた意味が分かった。私達と別れて情報収集をするつもりだったのだろう。



「そっか、じゃあ私達と一緒に出発しましょうよー。海皆でいきましょー! 人数多い方が楽しいし」



 ティナがグイグイ腕を引っ張っている。そこで口を開いたのはシェルトだ。



「遠征にも予算が決められているのだ。早めに行くことは出来ない」



 冷静な判断だ。宿代や食事代など、滞在を早めるだけでかかるものが出てくる。



「ユーリアなんとかできない? ベネディクト達の分もあるんだよね?」



 ユーリアは考える。宿代と、馬車代は浮くだろう。元々馬車は使う気は無かったのだ。



「宿代はうちに泊める。馬車代はかからない。食費は考えてもらう。バイト」


「馬車代ってまさか……」



 ルーカスは何か思い出したようで、身震いした。



「この前の狼さん達に頼むんだよねー?」



 ティナが当たり前のように言う。魔獣を使うとは言っていた。だが、南で魔獣が活発しているという事は陸路は面倒そうだ。



「ルーカス、ウルフィードの森とジャグール平原の魔物が活発してるの?」


「ああ、よくわかったな」



 イルムヒルムを拠点としシュペルノヴェイルに情報収集に向かうという事は間に位置する2つの場所で問題があるのは推測がついた。

 あそこの魔物は元から統一が取れにくいのだ。何か小競り合いに人間が巻き込まれている可能性が高い。

 ちなみにウルフィードの森はワイドのテリトリーの一部である。何をしているのか……。



「そして、イルムヒルムの救援要請はシュペルノヴェイルには出ていないって事?」



 ユーリアはルーカスに問う。イルムヒルムはシュペルノヴェイルに対し一方的に対抗心を持っているため、恐らくシュペルノヴェイルには救援要請をしていないのだ。

 でなければ、わざわざこの学園都市にまで要請はかけない。



「こちらに救援要請が来たのであれば、シュペルノヴェイルには出ていないと見ている。その辺も含めた情報収集だ。何せイルムヒルムはあまり多くは伝えない国だろうから」



 イルムヒルムは隠匿癖のある都市で、非友好的なため陛下も嫌悪していたのだ。



「となると、騎士団とは時間差でイルムヒルム入りして、森と平原を迂回するルート。時間かかる」


「ああ、本来10日程の日程を、多く見て片道2週間の予定だ」



 迂回路で相当タイムロスしている。



「空からなら直線で休憩挟んで2日くらいでイルムヒルム。あと2日くらいでシュペルノヴェイル」


「今度は飛べるのー? すごーい狼さんだと思ってたから、空飛べるのはすごいや」



 ティナ以外は皆唖然としている。狼と知り合いというだけでも意外だったのに、他にも知り合いがいるとは思っていなかったのだろう。


 とりあえず、今日はテディが魔石にいるので、許可を取る。



「テディ。いい?」


「にゃー」



 ペンダントから猫の声がして皆こちらを見ている。見せた事はなかったが追々、あちらに行ってから見せればいいだろうか。



「テディいい。ルーカスも行く?」



 ルーカス達は視線を合わせ目で何か合図を送っている。先輩達はOKそうだ。



「ああ、シュペルノヴェイルで情報収集ができ始める日が早い方が我々としてはありがたい」


「うん。連絡取る」


「馬車の方は分かったが、この人数をお前の実家で面倒見てもらえるのか?」


「ん。別宅問題ない。家族そこにいない。管理人だけ。兄に連絡取る。寝具整えてもらう。2人くらいずつ同じ部屋になる」



 ベネディクト達から「別宅って……」という声が聞こえたが、シュペルノヴェイルで一番古くからある治療院なのだ。

 先祖代々の別宅くらいあるのだ。



「じゃあ、馬車連絡取る。これ確認。無理ならワイド呼ぶ」



 ユーリアはポシェットからペンダントより小さめの召喚魔石のストラップを1つ取り出した。


 ベネディクト達クラスメイトにはまだ召喚魔石を見せていないため、驚きの声が上がっている。



「ティナそれって……」


「召喚魔石。母の形見の一つ」



 母は召喚魔石を5つ持っていた。全て私が相続したが、そのうちの2つは使用しており、2つは兄に渡した。空の魔石は1つのみである。


 母は召喚魔石の数だけ辛い別れをしてきたのであろう。


 ユーリアは使用している召喚魔石に呼びかける。

 距離が離れているので結構魔力と集中力がいるのだ。



「3日後迎えに来てくれる。大丈夫。兄にも準備伝えてくれる」


「今度は何を呼んだんだか……」



 ルーカスは頭を抱え、イーヴァル以外は不思議そうに首を傾げている。イーヴァルが皆に説明してくれる。



「召喚魔石って珍しいよね。使い方よくは分からないんだけど、契約している魔獣と遠くにいても念じれば話ができるみたいだよ」


「召喚魔石は稀だし使用者の話などなかなか聞けない。ユーリア君の故郷に着いたらゆっくり話をしようじゃないか……2週間の日程を4日に短縮できるんだ。余裕はあるだろう」



 シェルトが研究者の目になってこちらを見ている。何か根ほり葉ほり聞かれそうだ。



「ユーリア、俺たち旅の日程聞いてないんだけど……」



 するとティナがポンと手を打つ。



「3週間は向こうに滞在するつもり、後はその日の気分で着の身着のまま遊ぶつもり! 予定は海と買い物だけだよ! 費用は食費と娯楽費のみ!

 バイトで貯めたお金で南の国でバカンスだよ!」


「金が……」



 ドニは反応しなかったが、ヤンとベネディクトは

 金があまりないらしい。2人はバイトして生活費を稼いでいると言っていた。



「なんだ、ベネディクト金がないならこっちに絡むか? 生徒は費用のこともあるから上級生の5、6年生の体術クラスのみしか今回は参加させない。しかも、皆イルムヘルムにいる。

 シュペルノヴェイルは少数精鋭で情報集めをするつもりだったからな。

 ティナたちもいれば遊びながら情報を集める事は可能だろう。

 どうだ? 学園長に臨時招集の申し込みするか? 食費を持たなくていいなら情報に見合った金を出せるかもしれない」


「やる!」



 2人は2つ返事で答えた。



「ティナたちも協力しなさい。2人だけでは心許ない。ユーリアは土地の利を、ティナは日頃の情報収集の腕の見せ場だ」



 ルーカスに上手く使われているような気がするが、お金がもらえるならばやろう。



「ふん。お金出るならやる。テディ達にも魔獣側の動向探らせる。なんなら、ウルフィードの森は一部ワイドの管轄。あの狼に聞けば早い! テディに頼む」


「ユーリア、それ反則だと思う。普通魔獣に直接聞こうと思わないから……」



 ティナ達にすごい目で見られた。お金のためならなんでも使う。



「ユーリア、それ、俺たち要らなくないか?」



 ベネディクトの問いにユーリアは答える。



「魔獣、自分のテリトリー守るだけ。そこからもらった情報、どの魔獣が暴れ回っているかぐらい……。なぜ暴れているか原因分からなきゃ解決にはならない。人間側観察力ある。双方の情報の擦り合わせ大事。」



 シェルトが深く頷く。



「確かに魔獣は種ごとに自衛はするだろうが、なぜ周りが騒いでいるのかまでは分からないだろう。そこに人間の情報をか……ユーリアがいるから取れる策だな……」



 ルーカスがため息をつき、酒を飲む。



「ユーリア達に報酬を出すよう学園長に伝える。その心づもりでいなさい」


「あら、随分と楽しそうなお話をなされているのですね。ルーカス先生。ユーリアは本当に優秀ね」



 おっとりとした口調で登場したのはベティーナだ。



「今日は打ち合わせだったのですが、シェルト全てこちらの事情を話したようね……」


「全てルーカス先生の判断だ。問題ない」


「そうですの。ルーカス先生はユーリア達を信頼されてるのですね」



 おっとりと話す口調とは裏腹に少し険のある目でルーカスを見つめる。ベティーナは諜報活動として向かうことをあまり口外したくなかったのであろう。ましてや、巻き込むつもりなどなかったのだと思う。



「ユーリアに魔獣側の動向も聞けるなら話は早いだろう? それにシュペルノヴェイルの中では別行動になる。問題ない」


「ルーカス先生は本当、結果を急ぐばかりで、1年生を巻き込むのはお止めください。

彼らに都市外での諜報活動は早すぎます。

ユーリアの魔獣側の動向を聞いた報酬を弾めば、無理な諜報活動はさせずにすみます。

 ユーリア魔獣側の動向だけ頼むわ。ティナ達は諜報活動はしないこと。慣れない子供がやると身を滅ぼします。あなた達は予定通りバカンスを楽しみなさい。

 ルーカス先生それでよろしいですね?」


「ああ」



 ベネディクト達の金は消えたが、食事分は報酬で賄うことにすることを告げた。

 娯楽費だけは自分でなんとかしてもらう。



「娯楽費だけならなんとかなるぜ」



 ヤンとベネディクトは笑顔で顔を見合わせていた。



「私達はまだ話がありますので、場所を変えて話し合うわ。明日のお出かけ楽しみにしているわね。ルーカス先生参りましょう」



 少し反省気味のルーカス先生に3日後の招集時間を伝え、先生達は店を後にした。



「バカンス、バカンスー。ユーリア。楽しみ過ぎてきっと眠れない」


「大丈夫。ティナ。明日のためにも体をゆっくり休めて、明日は買い物に行くんでしょ?」


「そうだった。ご飯食べたら帰ろ!」



 ティナはずっと隣のテーブルにいたのでパスタが半端だったので、急いで食べ始めた。



「にしても魔獣が暴れてるのに海とか大丈夫なのか?バカンスとか大丈夫なのか?」



 ヤンが疑問を口に述べる。



「シュペルノヴェイルの領地。並大抵の魔獣じゃ入れない。魔術具や、魔法。学園より優秀」



 シュペルノヴェイルの守りは徹底しているのだ。許可ない魔獣も人間も入れない。国全体に魔術具で結界のような物を展開しているからだと聞いたことがある。

 国の機密事項なので詳細までは知らない。



「そんなすごい国に住んでたんだなー。通りでシュペルノヴェイルって上級生にも出身の奴いないだろ?

国の名前は有名なのに、そこからの学生がいないから、なんでかなって思ってたんだけど……。

そういう事か、自国にいた方が学べるって事なんだな」



 ベネディクトが深々と頷き、ドニ達も相槌を打っている。



「なんで、ユーリアはここに来たんだ?」



 ヤンの言葉に、ユーリアは答えられない。柵が多すぎて何を説明していいか分からない。



「男ねっ! 男に言い寄られて困りすぎてこっちに来たんでしょ!」



 ティナが興味津々で身を乗り出して聞いてくる。男子達も気になるようだ。



「婚約者はいる。けど断ってきた。男が1番の原因違う。柵から逃げ出したかった。少しは自分のやりたい事自由にやりたかった」


「ユーリアはお嬢様っぽいもんね。なんとなくわかるな。優秀だからこそ周りからの重圧って重いもんね」



 ドニは同じようなことを経験してきたのだろう。周囲に勝手に期待されて、勝手に裏切られる。

 優秀だからこその重圧もあった。この中では一番気持ちが分かってくれるだろう。



「婚約者ってイケメンなの? どうなの。ドキドキな物語があったの?」



 ドニの話がなかったようにティナはどんどん食いついてくる。



「ん。婚約者10歳上。名前知らない。小さい頃会ったらしいけど、誰だか分からない。文通くらいしかしてない。」


「文通って、きゃー! 可愛い。もっと聞かせて!」



 ティナが食いつくが、もうデザートも終わっているし、明日もあるので帰りたい。



「特にドキドキない。聞きたいならバカンスに」


「気になるけど、分かった。ユーリアの話はバカンスの時に聞くよ……」



 ティナの猛攻が終わったことで、お開きになる。


 明日は可愛い水着を買いに行くのだとティナと意気込んで、3日後にドニ達とは会うことを確認した。

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