夏の郊外演習 4班との試合でジーグルドのピンチ
3班の所へ戻ると、皆疲労の表情を浮かべていた。
連戦だったのだ。体力をかなり消耗したであろう。
1班との試合の時に吹き飛ばされていたベネディクトに声をかける。
「ベネディクト、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫。連戦で疲れているだけだよ。ユーリアの奇策があって良かった。今回はそこまで体力を消耗してないし、楽に勝てた。ありがとな」
ベネディクトはそういうとユーリアの頭を撫でてくれた。ティナがからかいながら話しかけてくる。
「ユーリアがヤンの所に行った時は表情が暗かったし、今の戦いも若干憂さ晴らしで暴れてたけど、今は元気な笑顔に戻ったみたいだね。よかった、よかった」
「わたしの処置では甘いところがあったのでしょうか? やはりユーリアさんのようにテキパキできませんし……」
ジーグルドが涙を浮かべながらこちらを見ていた。
ジーグルドが的確な治療をしているのを見て、ヤンの元へ安心して行けたのだから、ジーグルドの処置が甘いという事はない。
「ジーグルドよくやってた。だから、ヤンの所行けた。大丈夫」
ヤンは氷漬けの状態から回復させるためには、1年生の医術クラスの者では対応しきれないのだ。
1班の医術クラスの子は、遠目で治療しているのを眺めるだけでオロオロしていた。
ユーリアは頑張ったジーグルドの手を取り励ました。
「ジーグルドの治療は問題ないよ。
ユーリアが1班との戦いの後、同じチームの俺が怪我したっていうのに様子も見ないで、敵チームの、しかも俺の肋骨折ったやつの所に行ったのが、気にくわないだけだよ」
ベネディクトは腕を組んでそっぽを向き不機嫌な顔をしている。
要は拗ねただけである。
「ヤン一大事。ベネディクト、ジーグルドいる大丈夫だった。でも、ごめん」
ユーリアは俯いてしまう。ベネディクトは「そんな顔させたいわけじゃないんだけど」と言いながら、ユーリアの両頬に触れ自分の方へと視線を誘導する。
「少しは仲間を大事に思ってくれるといいなって思っただけだよ。ごめん。困らせるつもりはなかったんだ」
ベネディクトは優しく笑いかけてくれる。和解したのを見てたのかドニがくる。
「仲直りしたようで良かったね。ユーリア僕の水魔法どうだった! 頑張ったでしょ!」
ドニがベネディクトの手をユーリアの顔から外し、ユーリアの手を取る。
「頑張った。ドニ魔法復活」
ドニに微笑みかけると、ドニもニコッと微笑んでくれる。ベネディクトがドニの手をサッと取り、別な話題をユーリアに振った。
そんな様子を見てティナがアネットに話しかけた。
「あーあ、アネットうちの班大丈夫かな」
「え、次の4班との戦いですか? 相手はなかなか強者ですからね」
「違くないけど、違ーう! 鈍感がここにもいたよ。ジーグルド〜!」
「師匠は人望が厚いですからね、引く手数多です」
「何か違う〜。誰か一人くらい私と共感してくれる人欲し〜い!」
ティナの叫びが聞こえる頃には1班対2班の戦いが始まるのであった。
1班と2班の対抗戦は、ゾーイを防ぎきれなかった1班の負けであった。ヤンも本調子でないというのも大きいだろう。
休憩を挟んでいよいよ4班との対抗戦である。
*
「次はの戦いで最後となる相手は4班だ。気を引き締めていくぞっ!」
「おう!」
ベネディクトの掛け声でフィールドへと向かう。
先程ベネディクトに仲間を思えと言われたので、声を掛ける事にした。
「ベネディクト、初戦から大変だった。次、最後。頑張れ!」
すると、ベネディクト驚いた表情のが「……ああ」と返してくれた。
きっと最後の対抗戦を頑張ってくれると思う。
「はじめっ!」
ルーカスの一声で対抗戦が始まった。
先制攻撃をかけたのは第3班だ。
魔術具を早速使った。次は黄魔石と緑魔石を使った土煙だ。
これで相手の視界を塞ぐ。ここからはステンの力が発揮される。
予定であった。
視界が両者ともに悪い間に向こうが魔法を放ったのだ。
土魔法と炎魔法、風魔法を術者全員で合わせて放ったのであろう。
隕石のようにこちらの陣営のフィールドに降り注ぐ。
視界が悪くても関係なく、手当たり次第だ。
観覧席には防御壁が貼られているため、バチバチと岩を払いのけている。
ジーグルドに念のため防御壁の魔術を渡していて良かったと思った。直撃は防げているだろう。
土煙が辺り一体を埋め尽くす中、次第に視界が晴れる。ティナ、ドニは魔法で防御していたようで、ベネディクト、アネットは魔術具で恐らく防いでいた。
ステンは前衛として敵チームと交戦しており、ジーグルドのいた辺りはフラッグから近い壁側だからか被害がひどく、瓦礫の山で安否が分からない。
そして、3班のフラッグは見事にない。
「フラッグ破壊! 勝者4班!」
ルーカスにより、試合の勝者が告げられ、3班の試合は全て終わった。
*
ユーリアは急いでフィールドに降りる。
ジーグルドのいた辺りを探す。
魔力を使い、ジーグルドの魔力反応を探す。
「ユーリア! ジーグルドは?」
ベネディクト達が怪我をしながらもこちらへやってくる。ヴィオラとルーカスもこちらへやってくるようだ。
「今探してる。黙って」
ユーリアは魔力反応を探す。焦りが出てくる。冷や汗が出てくる。
ルーカスがこちらへとやってきた。
「ユーリア?」
「ダメなの。先生。見つけられない。ジーグルドの魔力が」
ユーリアは焦りからか泣き顔だ。ルーカスは焦りを見せず、ユーリアの肩を掴み落ち着かせるように優しく言葉をかけてくれる。
「ユーリア、落ち着け。感情を乱せば見えるモノも見えなくなるだろう? ヴィオラ先生も魔力反応の確認を!」
「分かっているわ。皆さん静かにして。全速力でやるから安心して」
ヴィオラは欠けていた眼鏡を外すと魔力を集中させる。目に光を宿し、体から薄く魔力を出し瓦礫全体に滑り込ませる。
「見つけたわ。微弱だけれど感じる。1番奥の壁際よ」
「ち、瓦礫を全部どけるにも魔法を使っちゃ下手に傷つける場合もあるか」
ルーカスが舌打ちし、身体強化で瓦礫を一つ一つ除けはじめた。
「身体強化を使えるものは皆手伝え!」
ルーカスの号令で他のチームや上級生が集まってきた。体が緊張で強張って動かなくなっているユーリアに、ヴィオラが優しく声をかけた。
「ユーリア、ジーグルドの救出は瓦礫を退けたからでないと始まらないわ。だから、ジーグルドの代わりに同じチームの皆を癒してあげて。怪我で救出の手伝いができないのを嘆いているように見えるわ」
ヴィオラはそっと指を指す。歯を食いしばって救出作業を見ているベネディクトがいる。片腕を庇っている。行きたくても行けないのだ。
ユーリアはベネディクトたちを順に治療していった。
瓦礫が徐々に退けられていき、残り僅かになってきた。ヴィオラと共にそばに行き、ジーグルドが見えたら治療するつもりだ。
大きな瓦礫を持ち上げた事で、ユーリアの渡していた防御壁の一部が見えた。恐らくこの付近にいるはずだ。
慎重に瓦礫をルーカスたちが持ち上げていく。
「いたぞっ!」
大きな声をルーカスが上げる。
瓦礫が退けられた所に駆けつけると防御壁に頭や体は守られたようだが片腕と足を損傷しているジーグルドが横たわっていた。
「ジーグルド!」
ユーリアは即座に駆けつけようとした次の瞬間。
ジーグルドの横に積み上がっていた瓦礫が崩れ、体が覆われそうになった。
「いやっ!」
ユーリアが叫ぶのと同時にその瓦礫は壁へ打ち付けられた。
「ユーリア! 風魔法で退けたよ。大丈夫。」
ドニが風魔法を使ってくれたらしい。こちらに駆けつけジーグルドを見つめる。
「ドニありがとう」
ユーリアはドニを抱擁する。ドニは顔を真っ赤にするが「行ってあげて」と一言言った。
「うん」
ユーリアは横の瓦礫も退けられ安全確認がされてから、ヴィオラとドニの元へと向かった。
*
「師匠……」
ジーグルドは意識があるようで、力なく答えた。
「師匠から頂いた魔術具のお陰で、命を救われました。ありがとうございます」
「うん」
「自分で治癒魔法をかけようと思ったのですが魔力が、乱れて……」
「無理に喋らないで、今助けるから……」
ユーリアの目から涙が溢れた。ジーグルドの目からも、一筋涙が流れる。
「師匠、ありがとうございました。あなたのおかげで自信を持って治療ができるようになりました」
ユーリアはジーグルドの頰に手を触れ額に頭をつけ、魔力の流れを確認しようと体を近づけた瞬間、ジーグルドの動く片腕で引寄せられる。
「本当にあなたのおかげなんですよ。ユーリア……」
耳元で囁かれ、耳にジーグルドの唇が触れる。そして、抱き締められていた腕の力が入らなくなった。
「ジーグルド!」
ユーリアはジーグルドの名前を叫び、泣き崩れる。ヴィオラは膝をついてユーリアを抱き締める。
「あの、優秀なユーリアがここまで乱れるのは珍しいわね。大丈夫よ。彼はまだ……。
今から治療すれば間に合うわ。だから、焦らずにね。
大切な存在ならば、尚更冷静に治療しなくてはダメでしょ」
ユーリアは軽く背中をさすられ、涙を止める。
彼は母とは違うのだ。大丈夫そう言い聞かせる。
「ヴィオラ。ありがとう。もう、大丈夫。治療する。見守ってて」
ユーリアはヴィオラから離れるとジーグルドを診る。ヴィオラもユーリアに治療を任せてくれるようだ。
手を当て大きく損傷している部分に治癒魔法をかけていく。
傷は深いが、血は止まり傷は癒えていく。
魔力の流れも確認する。少し乱れがあるようだが、大丈夫そうだ。
血と共に魔力も多く流れ出てしまっているので、常備している魔力回復薬をポーチから出すと、ジーグルドへ飲ませる。
冷えてしまった体を毛布にくるみ、体温が下がらないように温熱の魔法をかけてやる。
一通り終え、ヴィオラの方を向いた。
「血と魔力失っている。魔力は回復薬飲ませた、血は造血剤の薬を投与。今日は治癒魔法は危険。魔力回路、神経の一部はこれから徐々に直す。血管については治療完了」
「問題ないでしょう。流石は夜の守護者ですわ。先ほどの姿には逆に驚きましたが、あなた本来のチカラが発揮されたようでよかったわ」
「その名前嫌」
ユーリアは頭を抑える。実はここ1ヶ月治療院で夜勤の非常勤の仕事を時々していたのだが、急患を相手にしているうちに変なあだ名をつけられたのだ。そんな話をしているとルーカスに怒鳴られる。
「ジーグルドを治療班本部に連れて行くぞ!」
ルーカスはジーグルドを抱える。
「ユーリア、後はこちらに任せて、あなたも疲れたでしょう。少し観覧席で休みなさい」
ヴィオラに肩を優しく触られる。ルーカスは4班を人睨みし、一言残してフィールドを後にする。
「上級生は指示、4班は会場を戻しておくように」
「はい」
4班のメンバーはルーカスの声にビクッとしながら、会場を戻し始める。
*
「ユーリア戻ろうか」
ティナがそばに寄り添って観覧席に向かった。ティナは席に座ってからもずっと手を握ってくれていた。
「ユーリア。大丈夫だった? ジーグルドは容態安定してよかったね」
「うん」
ティナは頭をなでなでしてくれる。ユーリアの緊張は完全にほぐれた。ずっと気遣ってくれたティナに感謝だ。
「取り乱した。心配かけた」
「んーん。いいの」
「ユーリアは完璧人間だと思ったが、意外と人間地味ているのだな」
空気を読まない男ステンが話しかけてくる。ティナはキッと睨む。
「そんな言葉はないでしょう? ユーリアだって人間だよ。チームメイトが大怪我してるって思えば取り乱すよ」
ティナは顔を真っ赤にさせてステンを怒ってくれる。ステンは「すまない」と一言で言うと口を閉ざした。
「医術師としては、最悪。こういう時こそ冷静」
ユーリアは頭を抱え俯く。ティナは背中を撫でる。
「母の事思い出す。瓦礫、見えない魔力」
ユーリアは震えていた、そんな弱々しい姿を見たことない面々はトラウマを前にしたユーリアに声をかけられない。
「ユーリアのトラウマを刺激するなんて、アイツら勝つためとはいえ、最低だ。
なんで後方支援のジーグルドまで傷つけなくちゃならないんだ」
ベネディクトが怒りを露わにする。チームの皆その意見に同意した。
「いくら勝つことを目標にするとはいえ、あそこまで大規模な魔法で、戦いにもならないような魔力量をぶつけてくるなんて……あり得ないだろ。普通。僕がもっと魔法を扱えていれば、ジーグルドは……」
ドニが自分の力を嘆き、拳を握りしめる。
「あの魔法に即座に反応するなんて無理ですわ。
こちらの砂煙を逆に利用するなんて……視界の不利を逆手に取られるとは2班との試合を見て即座に対応してあの魔法を放ったイーサクの奇策には感嘆しますが、許せません。やり過ぎです」
アネットも自分の拳を見ている。ユーリアは皆が嘆いている姿に自分の策の甘さを感じた。
二回も視界を防ぐ戦法を取ったのだ。読みが甘かった。一回までは視界を防ぎその間にゾーイを防ぐ戦法を使った。
二回目ではあえて視界を防ぐ事にして、相手に無闇に攻めいられないようにし、ステンに撹乱してもらって、フラッグを破壊する予定だったのだ。
規模の大きい遠距離用の魔法で魔力も標的も絞らない攻撃が来るとは、想定外だった。
「皆頑張った。私が提案。二回も視界を防ぐ駄作。ごめん」
「そんな事ないよ。ユーリアは悪くない。あの火力じゃなきゃ相殺したのに、体術コースの子にまで高威力の魔法を教えていたなんて、イーサクはすごいよ」
ティナは悔しがりながらもイーサクを褒める。本来体術に秀でていて出力の魔法に長けておらず、魔力量も魔術師より少ない者たちに高威力の魔法を教え込むのは至難の技なのだ。イーサクは指導者としても優れているらしい。
「ジーグルドが、元気になればいい。悔やむのはやめよう。次は守れるよう、また、鍛錬しよう」
ベネディクトは悔しげな表情で皆の顔を見ながらそう言った。
フィールドの整備が終わり、4班は休む間もあまりなく1班と4班の試合が始まる。
フィールドに向かうヤンに絶対に勝ってと声援を送る。
1班と4班の戦いはすぐに終わった。明らかに疲弊した4班とヤンの勢いや前の試合を見て憤っていた1班が怒涛の攻めを見せたのだ。
4班は魔力不足で手も足も出ない。
ヤンは相当頭に来ていたのか、フラッグを破壊するのではなく、全員フィールドから吹き飛ばしてしまった。
皆怪我をしている。
「そこまで、全員フィールド外。勝者1班」
ヤンは雄叫びを上げ、喜ぶ。すると、観客席に飛び込んでくる。
「ジーグルドの仇はとってやったぜ!」
と握手を求められたが、ユーリアはヤンに抱きついた。
「ヤン、正直スッキリした」
背中にぎゅっと力を込めると、ヤンは困ったように頭をポリポリ掻く。
「おう。ユーリア離れて、視線が痛い」
ヤンは色々なところから視線を集め、居たたまれなくなっている。ユーリアは御構い無しだ。先程恐怖を覚えるほどの衝撃を受けたせいか、感情の振り幅が大きくなってしまっている。
「ヤン。分かった。少し屈んで」
ユーリアは抱きついていた手を離しヤンへとお願いする。
「こうか?」
ヤンは少し屈んでくれた。ユーリアはヤンの首に抱きつき頰に口づけした。
「ありがとう。ヤン強くてカッコいい」
コソッと耳元で囁く。
ヤンは顔を真っ赤にさせて、固まった。
ユーリアはニコニコしながら離れると今度はティナに抱きついて喜びを分かち合っていた。
ベネディクトとドニはヤンの肩を叩き「ユーリアは手強いぞ」と告げたのであった。
ヤンは触れられた頰に手を当てながら「ああ、今痛いほど実感している」と言った。
全ての試合が終わり夏の郊外演習の全日程が終わった。
都市へと皆で帰る。ジーグルドだけはヴィオラと医術クラスの上級生と共に施設にまだ残るらしい。迎えの馬車を待ってだそうだ。
都市へと帰りホームルームが行われた。
*
「今回の郊外演習ではいろいろと学ぶことが多かったと思う。ユーリア、アネット、後は4班のチームは残れ。少し話がある。明日から2日間は休みだ。ゆっくり体を休めるように」
ルーカスはキっと睨みながら、ホームルームを終えた。
ティナが話しかけてくる。
「ユーリアも居残りなんだね……大丈夫?」
「大丈夫。多分アネットの武器の件だから」
「そっか、あれもなかなか威力が強かったもんね」
ティナは心配そうな面持ちでユーリアとアネットを見た。アネットも「大丈夫ですよ」と言う。
「私も故意ではないにしろヤンに大きなダメージを与えてしまっています。そこは反省しなければならない点です」
アネットは強い眼差しでティナを見る。
「分かった。ルーカス先生のお説教頑張って! ジーグルド早く良くなるといいね! そしたら、快気祝いも含めてパアッとチーム皆で遊びに行こう!」
「ええ、皆さんとまた遊べるのを楽しみにしています。それではいい休日を!」
ティナに手を振る。ティナは一旦帰ろうとしたが、ユーリアの元へ帰ってきた。
「ユーリアごめん。こんな時になんなんだけど、店長から頼まれてたの忘れてた。バイトの件来週の私のシフト入ってる時に連れてくるって話してたの。だからよろしくね!」
「うん。紹介してもらえるなら、有り難い。自分でバイト探す大変」
「ユーリアらしいね。じゃ、また、来週」
ティナは教室を出た。




