8:出費を減らすには
会議はバリッシュがリーファに戻ったところで中止になった。
「ご、ごめんなさいです! いつの間にか寝てしまったようで……その、そのっ!」
「気にしなくていいよ。疲れているようだし、今日はもう寝よっか」
一人増えたことで追加料金は払ったが、元々三人部屋がふた部屋だ。
誰か一人はこっちで寝ないといけないが……。
「エレナ、お前しかいないだろ」
「えー、私みたいな男の娘を連れ込んで何するつもりなのー?」
身体をくねくねさせているわりには、ものすごく棒読みだ。
横を見ろ、カロンが恥ずかしがっているぞ。
「何もしないわ。男同士、親睦を深めようや」
「きゃー、襲われるー」
「ご、ご主人様! わたしはご主人様の奴隷ですよ!?」
その反応に皆がポカーンとする。
たしかにそうだし、バリッシュもいるが……んん?
「カロンちゃん。録音する魔法とかって使えないかしら? もしくは魔道具でもいいわ」
「えと、この街に売っていたので買いに行きましょうか」
「やめてさしあげろ」
リーダーに対する殺意が高い。
むしろ悶える姿に俺たちが殺されそうなくらいである。
しかし、リーファはそんなことなどお構いなしだ。
「だ、だから! ご主人様とはわたしが寝ます!」
「店主叩き起こしてでも買いに行くわよ」
「エレナさん、案内は任せてください」
「おーけー、じゃあライナーがこっちだ。それでいいだろ?」
カロンとエレナはなんだかんだ仲が良さそうだし、リーファを任しても問題ないだろう。
ついでにバリッシュが出てきた時に叱ってもらえば万々歳だ。
ライナーをベッドまで運んでくつろぐと、こちらを無言で見てくる三人がいた。
「なんだ? 文句はないだろ。ライナーもいいか?」
「この状況ならしかたないな」
「ほら、いいってさ」
しかし、三人は納得していないようだ。
やがてヒソヒソと話し始めると、何か決まったのかようやく動き出した。
「ではおやすみなさい、ロイド先輩。あ、間違えました。ロリコン先輩」
「また明日ね、ロリドくん」
「わたし、ご主人様のためにがんばって幼児退行しますからっ! おやすみなさいです!」
「……………………」
三人が去って行っても、俺はしばらく動けなかった。
その時、誰かが肩に手を乗せる。
「ロイド、ひとついいか?」
「……ライナー」
「襲うなよ?」
もういいや、寝よう。
夜が明けて朝になったとしても、俺たちの置かれた現状が変わるわけでもない。
冒険に出られないので今日も今日とて作戦会議だ。
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「ばかいえ。とりあえず収入をどうするか考えるぞ。話はそれからだ」
調査の報酬は莫大だったが、さすがに何年も暮らせるほどの額はない。
それにリーファは14歳。ライナーは8歳? ほどなので、2人ともまだ冒険者にはなれないという制約がある。
「手持ちアイテムを売っても厳しいわね」
「冒険者以外で稼ぎますか? 前みたいにエレナさんの治癒魔法で――」
「へー、カロンちゃん。治癒魔法使えるんだー」
「……ごめんなさい」
あと出来ることといえば、出費を減らすくらいだ。
この人数でいつまでも宿にいるより、どこかに拠点を構えたほうが良いだろう。
寝たきりバリッシュも入れると6人。
毎日の生活費も馬鹿にならない出費にになる。
「とにかくだ。いつまでも宿にいるより拠点を探そうと思う。4人以上となるとそっちのほうが安いしな」
「わかりました。けど、全員で行きます? さすがに迷惑だと思いますが」
ここにバリッシュがいればよかったんだが、あいにくと今はリーファの時間らしい。
エレナは教会育ちだから論外として、あと頼りになるのは……。
「ライナー、意見をもらえるか?」
「そうだな。アドバイスくらいはできるだろう」
「頼んだ。じゃあカロンとライナーと行ってくる」
俺は知っている。
エレナが持ち前の美貌で値引きされる場面を。
意見としては期待していないが、思う存分エレナという外見を発揮してくれよ、カロン君。
「じゃあ私はリーファちゃんと買い物ね。日用品とか持ってないでしょ? いまからレッツゴーよ!」
「えっ、あ! ご、ご主人様っ!」
「大丈夫だ、行ってこい。なんかされたら思いっきり引っ掻いていいから」
「あの、ボクのからだ……」
「わ、わかりました! この身はなんとしても守りますっ!」
「ボクのからだ……」
悲壮感漂うカロンには悪いが、エレナも無理やりはしないだろう。
しないよな? するかもしれない。
「バリッシュが出てくれることをいのるしかないな」
「キズが残らないように治せるのはお前だけだ。がんばれ神官」
「ふぅ……人生って、何があるかわかりませんねー」
どこか達観したような眼差しに、俺とライナーは何も言うことができなかった。