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7:幸せになる身体

 


「…………しにたい」

「っぷくく、まさかっ、本当にリーファちゃんになっているなんてっ!」

「ボクたちみたいに入れ替わり、ではないですね。精神同居人といったところでしょうか?」


 笑い転げるエレナは無視し、ライナーとカロンで状況把握をする。

 バリッシュは自己嫌悪に陥っているらしいので後だ。


「ギルドの後、教会に行ったんだろ? どうだった」

「それが……呪いはかけられていないと。ないものはどうすることもできないと言われました」


 呪うのが神なら、神でも治せない。

 これはギルド長の説がますます有力になってきたわけだが、元に戻るにはアレにもう一度会いに行かないとダメだってことか?


「やっぱりな。今から大事な話をする。バリッシュもこっちに来て聞いてくれ。エレナはどっちでもいい」


 バリッシュに時間制限がある以上、必要なことは今のうちに話しておかなければならない。

 最悪リーファに聞かせても伝わるらしいが、やはり無関係な人間は巻き込むべきではない。


 あの敵は古くに伝わる神だということ。

 人を幸せな生活に導く存在だということを皆に伝える。


「つまり、この姿がボクたちの幸せな生活ってことですか?」

「そうねー、私はカロンちゃんの身体が幸せかも! だってほら、無意識に発動するチャームでみんな寄ってくるのよね!」

「ボクにとっては忌々しい能力でしたが……」


 カロンはともかく、エレナは本当に幸せそうだ。

 そりゃあ、神官を選んだ理由を聞いたら『民草が私を慕ってくれる行為が気持ちいいもの!』とか言い放つ奴だ。

 うちのパーティを選んだ理由もほぼカロンだしな。


「ライナーはどうなんだ?」

「おれは、みずからの無力さをなげいているところだ」

「だよな」

「ただ……こどくがつらいと思ったときは、あった」


 人間関係が煩わしいので、定住はしない。

 パーティは固定しないが信念だった彼。

 それがこんな無力な存在となり、否応なしに誰かを必要とする立場になった。

 もしかしたら、ライナーの幸せは……。


「そういえばリーファちゃんはどうなんですか? 間違えました。バリッシュさんは女の子の生活が幸せなんですか?」

「人聞きの悪い言い方はするな。その……なんだ、なんていうかな」

「あっ」


 昔、リーダーの趣味を知ってしまったことがあった。

 魔物を動けないように拘束し、体毛に顔をうずめているところを見てしまったのだ。

 相変わらず無表情だったが、その後いつもの顔でスキップする姿なんかは恐怖すら覚えたものだ。

 つまり、バリッシュは獣人というか、モフモフ好きなのではないか?


「もういいだろエレナ。バリッシュはここにいる。少なくとも、リーファと二人一組でいるんだ」

「そうね。まさかケモ耳が好きで、自らなりたいだなんて思うわけがないものね」

「あはは。いくらバリッシュさんでも、リーファちゃんみたいな可愛らしい獣人になりたいだなんて思いませんよ。どうせなるなら男の人じゃないですか?」

「うふふ、そうね。バリッシュに女の子みたいな趣味があるから『どうせなら女の子に』なんて思ってるわけないものね」

「……………………しにたい」


 おいやめろ二人とも。

 俺たちのリーダーが可愛すぎてしにそうになってる。

 間違えた。

 俺たちのリーダーが可愛い。






 話が戻ったのは、俺たちの身内ネタについていけなくなったライナーが出てきてからだった。


「まず、もう一度あのダンジョンに行く必要がある。それはいいか?」

「ああ」

「じゃあ現在の戦力を把握する。まずカロン」

「はい。神官としての能力は身体にあるはずですが、使い方が全く分かりません」

「そりゃそうよ。長年の修行でようやく使えるようになるしねー」


 身体が覚えているから、とはいかないのがいやらしい。

 結局は杖でポコポコするくらいで、がんばれば雑魚を倒せるレベル、と。


「それ見習いの神官よりも――」

「い、言わないでください。だいたいボク、魔法使いなんですよ! 神官要素を求めないでください!」


 ダン! と涙目で立ち上がるカロン。

 ……見た目だけは、完璧に神官なんだけどな。最悪だった性格もカロンが入ったことで改善され、ネックは戦闘力か。


「次にライナー……はすまない。バリッシュだな」

「いいさ。おれはぼうけんしゃにもなれない年だからな」

「オレ、というかリーファだな。ぶっちゃけよくわからんが、基本的な獣人と思ってくれたらいいぞ。ただあと1年は冒険者になれない」


 嗅覚、聴覚に優れ、すばやい種族。人間よりも筋力はあるが、魔法はからっきしだという。

 ちょっとまて。このメンバーで一番強いんじゃないか?


「最後は私ね。カロンちゃんの身体だけどマジックミサイルは使えるわ。逆にそれ以外は一切無理ね」


 かつての天才魔法使いも、この性悪女が入ればただのマジックミサイル発射台に成り下がるらしい。

 くっ……あの可愛らしかったカロンはどこに。


「先輩? 心配しないでください。ボクもエレナさんに魔法を教えますから。そうしたら、戦力になりますよね?」


 こてん、と首をかしげながら真っすぐに見つめられる。

 いつもなら素っ気ない返事ができるのに、見た目だけは満点のエレナが相手だと口ごもってしまう。


「……あ! どうして目を逸らすんですか! 先輩、ボクを頼ってくださいよぉ!」

「っ! わ、わかったから身体を揺らすな! 揺れるからやめろっ!」

「もうっ! 揺らしてるので、揺れるのは当たり前ですよ!」


 ぐわんぐわんと揺らされるより、目の前でばるんばるん揺れるものが気になる。

 そうか、揺らしてるのはわざとか……いや、エレナじゃあるまいし。



 結論。

 決定的な戦力不足により、冒険は不可能だ。



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