表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

5:彼は奴隷でメイドでリーダーで

 


 いやまて。

 バリッシュは宿で寝ているはずだ。

 だとすると、バリッシュとこの少女が入れ替わった?

 でもそれなら、なぜバリッシュの身体は目覚めない?


 様々な疑問が浮かぶが、まだ本人だと確定したわけではない。


「君が俺を呼んだのか?」

「ああ――っぐ! ええ……。ロイドさんなら、気づいてくれると思っていたからな――ぐ、思っていましたから」

「そ、そうか。ところで親父、席を外してくれるか?」

「それはできませぬ故」

「なら、自然に話すように言ってもらえると助かる」


 彼女の言葉に反応して首輪が光る。

 つまり、言葉遣いの矯正でもされているのだろう。

 奴隷を大切にすると掲げているわりには、ひどいこともするもんだな。


「いえ、ここにいるのは礼儀正しく、社会復帰を目指した奴隷たちなのですよ。あの首輪は彼女が望んでつけた故。わたしの一存ではとてもとても」


 思わず、マジか? という視線で問えば、コクンと頷かれた。

 ついでに耳と尻尾も垂れ下がった。マジか。


「リーファ、自己紹介を」

「……はい。2年前からここに居ますリーファです。見ての通り獣人ですが、まだ14歳なので使用人としての修行中です。身寄りがないので、よろしくお願いします」

「おや、いつものような元気はないのですね。ギャップ狙いですか? まあいいでしょう」


 たんたんとした自己紹介に、親父は疑問に思ったらしい。

 しかし、これがバリッシュだとしたら……らしい自己紹介、だな。


「リーファと言ったか? 2年前からここにいるなら、俺とは面識がないはずだが?」

「いいえ。あなたとは4年前、北の辺境で出会いましたよね?」


 そのとき、年下の少女に射抜かれたような気がした。

 今のエピソードは俺とバリッシュの出会い。

 間違いない、俺たちのリーダーは……ここにいた。


「そう、だな。ああそうだ! 親父、この娘は知り合いだ。いくらで買えるんだ?」

「おおっ、やはりそうでしたか。ええ、獣人という亜人は価値が高いですからね。こちらも商売故、これくらいでいかがでしょうか?」


 提示された額は、さっきギルドでもらった報酬の半分ほど。

 払えない額ではないが、これからの生活を考えると……。

 いや、悩むまでもない。


「わかった。じゃあそれ――」

「すみません。わたしの値段はもう少し安かったはずでは?」


 決断しようとしたとき、リーファが口をはさんできた。

 どうやら自分から喋ることは許されていたらしい。


「はっはっは。リーファはどうしてもこの人に買われたいようですね。いいでしょう、リーファの幸せも願ってこれでどうでしょうか?」

「……買った!」


 提示された額は、さっきよりも大幅に安い。

 俺はバリッシュと視線だけ合わせると、見えないようにガッツポーズをした。






「しかし、バリッシュはどうしてあんな場所に?」

「わからな――わかり、ません。申し訳ありませんが、この首輪を外してもらえますか?」

「そうだな、俺としても調子が狂う」


 奴隷としてリーファ……もといバリッシュと契約し、道中。

 どうも首輪というのは、この身体の持ち主であるリーファという少女が望んだものらしい。

 俺はバリッシュに言われるままに動き、その首輪を外す。


「本来は心の底から念じないと外れないらしいが、ご主人様が外せと命令したらすぐ外れるってな」

「ご主人様とかやめてくれ」

「それがそうもいかなくてな」


 その後バリッシュから聞いた話によると、彼はリーファであってバリッシュだということ。

 気づいたらリーファの身体にいて状況を把握したんだとか。


「もっとも、リーファの記憶は共有するが、オレの記憶は共有しないらしい。言うなれば、オレが間借りさせてもらってるようなもんさ」

「そうか。だからバリッシュは寝たままなんだな」

「ん、どういうことだ?」

「リーダーの身体は、ずっと寝たきりで宿にある」


 その情報は、いくらバリッシュとはいえ処理に時間がかかったようだった。

 自らは死んだものだと思っていた故、元に戻れると希望がでてきたらしい。


「ありがとな。お前がいなかったら俺たちは全滅していただろう」


 バリッシュ……いや、ケモ耳少女が微笑むが、これがあの鉄仮面と呼ばれたバリッシュ? まてまて、エレナじゃあるまいし。

 それに、まだ大きな問題が残っている。




「詳しいことは宿で話すが、今後俺たちがどうするかはな――」

「ふぇ? あなたは誰でしょう?」

「どうしたバリッ…………あ?」


 場違いなほど間抜けな声に振り向けば、そこにはぽかんとした少女が一人。

 姿は先ほどまで話していたケモ耳少女に間違いない。

 圧倒的に違うのは、その表情。


「えっと、ここはお外ですか? わたしは買われたのでしょうか?」

「リーファ? だよな」

「あっ、はい! えっと、すみません。最近はよく眠ってしまうことが多くて、あなたがわたしのご主人様でしょうか?」


 くりくりとした目で下から見つめられ、思わずたじろく。

 先ほどまでの無表情とは違い、うってかわって年相応の反応をしやがる。


「お、おう。勝手に買って悪かったな。君に呼ばれた気がして」

「そうですか! 何故でしょう、わたしもご主人様のことを強く求めていた気がします。これから誠心誠意ご奉仕いたしますっ!」


 にこっ、と後光がさしてきそうなほどの笑みを向けられたら、実は別人にしか興味がないとは言いづらい。

 ブンブンと尻尾をふるリーファを連れ、俺はどう説明しようと悩みつつも宿へ帰宅した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ