21:俺の相棒は
メンバー全員に個室はあるが、俺の部屋はとくに殺風景だ。
資金にも余裕はないし、最低限の家具で事足りるしな。
「とりあえずベッドに座ってくれ」
「え! いきなりですかっ!? えと、先輩のことは尊敬してますけど、ボクは男で……」
「ああ。だから今まで通りだろ?」
バリッシュと会う前はこうして2人で旅したものだ。
あの時と比べると色々どころか、カロンの身体まで違うが……変に遠慮するところは変わってないらしい。
「――はいっ! そうですね。ごめんなさい、早とちりしてしまって」
「? 何を」
「そりゃあ先輩がボクを…………っ! ボ、ボクを解雇するとかいいだすのかなーって!」
そういって俺の枕に顔をうずめるカロンだが、そんな心配しなくても大丈夫なのにな。
あと俺の枕をスーハーするのはやめて。
「カロンはその指輪だけじゃ不安か?」
「い、いえ……先輩は、信じてますけど……だからこそ……」
もにょもにょして聞き取れなかったが、カロンも俺と同じ考えだと思っていいのだろうか。
「まず、カロンには神官として魔法を使えるようになってもらうのと、この家のことを頼む。つまりはいつもどおりだな」
「すみません、役立たずで……」
「何度も言ったが、カロンはよくやってくれてるぞ。だからこそ、俺とエレナで遠征に行ってこようと思う」
いま冒険者資格があるのは4人。
そのうちカロンとバリッシュは使いものにならないので、残るは俺とエレナのみだ。
それにエレナはマジックミサイルと簡単な補助魔法のみ。
俺だけが戦闘するにしても、倒せる敵なんてたかが知れている。
「遠征、ですか? それってどれくらい遠くまで行きます?」
「わりの良い任務は、たしかひと月くらいか?」
費用は向こう持ち。
それだけでひと月分の生活費が浮くのに加え、報酬もそこそこときた。
拘束時間は長いが、それに見合ったリターンはある。
そう思い提案したのだが、カロンの顔色はよくない。
「あの、先輩とエレナさんだけで大丈夫ですか? だってエレナさん、マジックミサイルくらいしか使えないですよね。回復薬だって、いまだに使えもしないヒールを頼って忘れるくらいですよ?」
「正直不安しかない」
エレナも神官としてのタイミングは完璧だったんだけどな……今では何でもかんでもマジックミサイルだ。
しかし、カロンの魔力で無尽蔵に撃てるのも事実。
固定砲台としてなら十分な戦力になる。
「でも、俺たちは仕事を選べる立場にない。そうだろ?」
「それは……そうです、けど」
「だからカロンの身体を借りることと、俺が長期間家をあける許可をもらいたい」
カロンの不安はもっともだろう。
なにせ自分のいないところで、己の身体が消滅する可能性もあるんだ。
それに家に残るのはライナーとリーファとタケル。
……いや、こっちは問題児のエレナがいないから大丈夫か。
「家のことはカロンに任せる。お前の身体も俺が絶対に守ってやる。だから――待っていてくれないか?」
「そんなの……そんなこと言われたらっ、断れないじゃないですかっ!」
何年も俺たちはパーティを組んできた。
俺が突っ込めばカロンが援護し、カロンが攫われれば俺が助けに行く。
そうやって持ちつ持たれずの俺たちだったので、今回のように相棒を置いていくことはなかった。
「ありがとう。でもやっぱり、俺はカロンと一緒に行きたかったよ」
「ばか……」
そうして、カロンが泣き止むまで俺たちは静かに身体を寄せ合っていた。
部屋から出ると、既にミーシャちゃんは帰った後だったらしい。
リーファが夕飯の支度をしていたので、カロンも顔を洗ってからすぐにキッチンへと入った。
(おいおいおい、俺ちゃん見ちゃったんだけど)
「ん? ああ。そういうわけだから屋敷を頼むぞ」
(いやいや、そうじゃないでしょ! なに今生の別れみたいなドラマを繰り広げちゃってるの!)
ははは、タケルは大げさだな。
ただちょっと出かけてくると言っただけじゃないか。
(俺の帰りを待っていてくれ)
(嫌っ! けど、とめられない!)
(本当はお前と一緒に居たかった)
(いま言うなんて、ずるい……)
「わかった。俺が恥ずかしいことがわかったからやめてくれ」
俺にしか聞こえないことをいいことに、ニコニコと笑うカロンの横で言うから余計タチが悪い。
「タケルさんはどうしたんでしょう? 先輩、通訳お願いできます?」
「ご飯が美味しそうで食べたいってさ」
「うふふ、じゃあバリッシュさんの身体でも借りてきたらどうですか?」
あ、カロンの可愛さにタケルもやられた。
さっきまでの泣き顔を見ていたせいか、無理して笑っているような気がして破壊力が倍増だ。
それ以上はやめろ、死人が出るぞ。
タケルの場合はもう死んでるが。
「えっと、結局料理はいるんでしょうか?」
「いらないから気にしなくていいぞ。ちょっとエレナと話してくる」
その言葉にカロンは察したようで、いってらっしゃいというかのように小さく手を振ってくれた。




