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19:天国もやりすぎは厳禁

 


 最初に突撃してきたのはライナーだった。

 いや、ライナーでいいのか?

 見た目はライナーそのものだが、言葉遣いといい性格といい、ただの幼女にしか見えない。


「ねーねー、こうえんであそぼうよー、ねーねー」

「え! ライナーと遊んだことなんて一度もないわよ!」

「……言い忘れていたが、限定的範囲には魅了が効きっぱなしの状態だぞ、回復するまで」


 つまり当初の望み通りライナーとリーファ。ついでにカロンが一日中魅了状態にある。

 厄介なのが、魅了状態だったときの記憶だ。


「ちなみに記憶はなくなるが、変なことは考えるな。むしろエレナのほうが傷つくだろうしな」

「それってどういう――」

「ああっ、ご主人さまよりエレナさんを優先してしまうわたしを許してくださいっ!」


 2人目の刺客があらわれた。

 エレナは袖を引っ張るライナーに加え、尻尾をブンブン振りながら飛びついてきたリーファに押し倒されたらしい。

 ……そうだよな。それだけだったらまだ余裕なんだよ。


「ちょっとリーファちゃん? もうっ、激しいんだから……って、痛!」

「ぎゅー」

「あっ、ずるい! わたしもギューっです!」

「わ、わぷっ! ちょ、離れてって。暑苦しいのよ!」


 相手が一人で、きちんとお願いも聞いてくれるなら、な。


 いいように群がられて、密着され、散々求められたわりには、魅了が切れた途端ボロ雑巾のように捨てられる。

 何がショックかって、誰も魅了状態のことを覚えていないのに加え、ほぼ受け身だということだ。

 まるで利用するだけ利用して、用済みになったら捨てられるかのようです。

 とは、カロンの談だ。


「え? まさか魅了が切れるまでこの状態なの!? ロ、ロイドくんたすけ――」

「うふふふふ。エレナさーん? ボクの身体でお楽しみですかー?」


 3人目がきた。

 昨日はペンダントを外してすぐに付け直したらしいが、エレナいわくその一瞬で押し倒されて危ないところだったらしい。

 今日はたっぷり時間があるからな。魅了の先輩であるカロンがどこまでエレナを翻弄するのだろうか。


「え、カロン? どうして服を……あっ、ライナーは引っ張るのやめて! リーファも耳を噛むのはやめっ!」

「こーうーえーん!」

「あむっ……はむはむっ」

「ねぇエレナさん? ボクの身体について、教えてあげますね?」


 ふぅ……今日も平和だな。

 俺はできるだけ見ないようにし、手を付けていなかった食事にありつく。

 もぐもぐとしていると、タケルが怯えながら近づいてきた。


(おいブラザー、エレナ姐さんがやばいことになっているがいいのか?)


「自業自得だ、本人にしか記憶は残らない」


(お、おう? でもエレナ姐さん泣いてないか?)


「きっと嬉し涙だろ。今日は俺が庭の手伝いをしてやるから外いくぞ」


 3人に群がれて姿を消したエレナは見捨て、今日はリーファの代わりに畑の世話をすることにする。

 先ほどもやっていたようだが、俺は草むしりでもしておこうか。




 外から戻ってきても状況は変わっていなかった。

 いや、エレナの声が消えたので少しは悪化したらしい。


「あと半日あのままはさすがにかわいそうか」


(え、あれがまだ半日も続くのか? おいおいどれだけ強力なんだよ)


「興味があるならエレナに乗り移ってみろ。身を持って実感できるぞ」


 振り返ってみると、タケルはすでに逃げた後だった。

 興味本位でああなったとはいえ、ペンダントが使えなくなったのは俺のせいでもある。

 そろそろエレナも懲りただろう。


「悪いな、ちょっとエレナを借りてくぞー」

「えー! やだやだっ! もっとねーねーと遊ぶのぉ!」

「……………………」


 こいつ本当にライナーか?

 本物の幼女と入れ替わってるんじゃないだろうな。

 しかしこの幼女の場合は、抱き上げただけでキャッキャ言うので楽だ。


「ダメです! ご主人様のためにもっと練習させてください! それにエレナさん、おいしい味がするんですよ?」


 そう言ってエレナをペロッと舐めるリーファは気づいているのだろうか?

 エレナの顔がテカテカして、本人の瞳に光がないことを。

 まあいいや。

 リーファは最悪命令したらどうにかなる。

 問題は――。


「せーんーぱいっ!」

「お、おう。エレナで満足したなら離れてくれないか?」

「嫌です! エレナさんはボクですが、ボクはエレナさんなんです!」


 何いってるんだこいつ。

 今度は俺のほうに抱きついてくるが、カロンも魅了? 状態なんだよな。

 いつもの夫婦モードと何ら変わらない気がするのは何故だろう。


「いいかライナー、エレナとはもう十分遊んだだろ? ひとりで公園に行けるなら、もっと遊んでくれる人がいるはずだ」

「いく!」

「それとリーファ、庭は終わったから空き部屋の掃除を頼めるか? 近いうちに必要になるから、まだエレナと遊ぶようなら命令を――」

「わたしとエレナさんの部屋ですね! すぐに準備いたしますっ!」


 よし、これで2人は出ていった。

 あとはカロンだが、もうエレナに執着していないようだしこのままでもいいか?


「エレナ、そろそろ起きろ。でないと地下牢へぶち込むぞ」

「……………………」

「ダメだこりゃ。ほらカロン、抱き枕をあげるぞ」

「えっ、ありがとうございます! わーい、エレナさんの抱き枕っ!」


 ぐぇっ、と何か潰れるような音がしたが俺は何も見なかった。

 この前まではカロンがよくやられていた光景だ。

 エレナも受け身の立場がどういったものか知るいい機会だろう。




 結局、皆が正気に戻ったのは夕飯の少し前だったが。

 エレナはその後3日間、地下牢に籠もって出てくることはなかったという。



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