表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

16:俺たちのシルバーリング



いつもの神官服ではないカロンは、別の意味で視線を集めていた。

道行く人が絵に描いたような二度見をし、その後に俺の姿を確認する。


「なんか注目を集めるのはそわそわするな」

「うふふ。これがいつも私の感じている視線ですよ?」


ぎゅうぅ、と抱きつく力が強くなり、カロンが小刻みに震えている振動まで伝わってくる。

恥ずかしいならやらなきゃいいのに。


「ちなみに、エレナは何か言っていたか?」

「え? あ、チャームって便利ねと言って――――あら、私がどうかしましたか?」

「笑ってもごまかせてないぞ。まあいいけど」


一瞬だけ素に戻ったが、すぐに夫婦モードになるのは一種の防衛本能だろうか。

俺たちはラブラブな様子を見せつけながらも、一軒の店にたどり着いた。




「さすがに店の中ではくっつくなよ」

「ふふ、そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」

「恥ずかしいのはお前だろ」


カロンへの対応はそこそこに、できるだけ安めのシルバーリングがないか探し出す。

本来は値段よりもデザインで選ぶべきだが、そういったものは本番用に取っておかないとな。


「おやおや、いらっしゃいませ。本日はエンゲージリングでもお探しでしょうか?」

「いや、ただのシルバーリングでいい。一番安いものはどれだ?」

「はい? ああ、いえ。値段ですと、ここにあるものが比較的お求めやすくなっております」


店主が言うなら間違いないだろう。

カロンを呼んで、この中から適当に――。


「あなた。私はこれがいいわ」

「は?」


カロンが選んだのは、俺の目の前にある指輪よりも5倍ほどするシルバーリングだった。

安すぎず、かといって高すぎるわけでもない。

それは二本の蔦が絡まったようなデザインをしており、まるで蛇が絡んだカドゥケウスの杖を彷彿させるようだ。


「デザインが気に入ったのか?」

「ええ。この絡まり具合、私たちの絆をあらわしているようじゃない? それにこれ、ボクが使っていた杖に似ているんです」

「カロンがでてるぞ」


そういやこいつが愛用していた杖も、伝説の杖カドゥケウスを模したような形状をしてたっけな。

値段はちょいと高いが、カロンはこの指輪を見つめたまま動く気配がない。


「うーん。でも、少しだけ予算オーバーなんだよな」

「……そう。残念ね、あなたがそういうならあきらめ――」

「ちょっと待ってください奥さん。ええ、本来ならわたくしめも値引きはしないところですが、条件を聞いてもらえれば格安でお売りしましょう!」


釣れたな。

興味津々なフリをして、名残惜しんで諦めるフリをする。

やるじゃないかカロン。

……いや、この呆けた顔的に何も考えていないな。


「奥さん……やっぱりボク、そう見られてるんだ……」

「店主、その条件ってやつは何だろうか」

「ええ! 大したことじゃありません。そちらの奥さんは絶世の美女と見受けられます。そんな方に、当店の指輪を愛用していただいているという証明が欲しいのです」


たしかにエレナの見た目はいい。

が、宣伝して顔が広まることによって困るのはカロンだ。

エレナなら喜んで顔を広めるはずだしな。


「悪いがあまり有名にしたくないんだ。コイツは俺だけのモンだから」

「ふぇ! 先輩……いまなんて」

「おや。冒険者エレナがまるくなったという噂は聞いていましたが、なるほどなるほど。貴女はようやく一人の男性を選んだのですね」


おそらくはエレナに貢ぐ客がこの店を利用していたのだろう。

あの女の顔はいろんな意味で有名らしいし。


「そういうわけだ。予算オーバーだって構わない。足りなくなった分は他から調達するからな」

「ほう。そこまで本気なのですね。お二人にはこのままエンゲージリングも薦めたいところですが、いいでしょう」


店主が提示したのは、本来の値段よりも一割下がった値段だった。


「いいものを見せていただいたお礼に、こちらでどうですか?」

「俺らは助かるが、どうせエンゲージリングの際はふっかけるだろ?」

「ふふふ、そこまでお見通しですか。ええ、今度ともご贔屓に」


食えない店主だったが、仕事はきちんとしてくれるらしい。

カロンの指のサイズを測り、魔法でちゃっちゃと仕上げでくれた。


「さっそく装備していきますかい?」

「店主に見られながら渡す趣味はないが……おいカロ……エレナ」

「次はエンゲージリングかぁ……先輩のお相手は誰なんだろ。やっぱりリーファちゃんが――」

「エレナ」

「え? あっ、はい!」


軽くトリップしていたカロンを救出し、少し強引に左手首を掴む。

白魚のような指に見惚れて呼吸を忘れるも、指輪を準備して最終確認。


「どうする? いますぐ欲しいか」

「えっと…………はい。左手の薬指に、お願いします」


許可は得た。

しなやかな指に対して、ゆっくりと通していく。

やがて根本の少し上までたどり着くと、俺の手から指輪を解放した。


「ふわぁ…………」

「感想は、聞くまでもないな」

「そこまで喜んでいただけると、こちらとしても仕入れた甲斐があったというものです」


この指輪は、あくまでカモフラージュのため。

しかし、俺はエレナの身体にあげたわけじゃない。

いつかカロンが戻った暁には指輪も回収し、改めてカロンに渡そう。

俺は指輪を見つめたまま微動だにしないカロンを見てそう思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ