14:カロンの役割
持ち家を手に入れたといっても、いまの俺たちに収入はない。
半年は暮らせる金はあるが、稼げないのは大問題だった。
「現状は、俺とエレナが2人で依頼を受けてくる程度だ。もちろん大した額にもならない」
「リーファちゃんとタケルさんに給金がいらないのが救いですね。庭で自給自足もできますし、生活費もあまりかからないので」
「そうね。ライナーは子供だからいいとしても、問題は――」
この屋敷で金がかかるのは5人。
リーファはよく働いてくれているし、ライナーは子供だからいいだろう。
となると、残り1人。
「せ、先輩っ! まさかボクを捨てるんですかっ!」
「落ち着けカロン。まだ話は終わっていない」
「ずっと一緒にやってきたじゃないですかっ! ちょっと使えないからってあんまりですよぉぉ!」
「ちょっとどころか、何もできないじゃないの」
「おいエレナ、追い打ちはやめてやれ」
カロンは何もできないわけじゃない。
この家の料理や裁縫、買い出しなども引き受けているし、持ち前の美貌を生かして割引なんてお手の物だ。
それに、その……この噂はいいか。
「カロンちゃんも安心して? この家が何て言われてるか知ってるかしら」
「え、何ですかそれ」
「それはね、元冒険者パーティの夫婦が住む家ですって。この場合、誰が夫婦で誰が子供なのでしょうね?」
パチッ、とウインクを投げられる。
こいつわかっててやってるな。
その噂は俺も聞いたことがあり、前なんか『エレナさんをどう落としたんですか?』と聞かれたくらいだ。
中身がカロンに代わったこともあり、それだけエレナの豹変っぷりは衝撃的だったということだろう。
「え! それは、演技で……でも、ボクが子供なんて……」
「カロンちゃんがどう思ってるか知らないけど、周りはそう見るってことよ。聞けばカロンちゃんもノリノリだったみたいね? 自分で妻といいながら、ロイドのことを――」
「わー! わー! ちょ、なんで知ってるんですかっ!」
いつもの漫才にまたか、と思いつつも、エレナの指摘にハッとなる。
今は俺とカロンが夫婦で、ライナーが子供だと思わせておけばいい。
だが、ライナーの年齢に疑問を持つ人も出てくるだろう。
それに俺たちの目的はダンジョンへの再挑戦。いつまでも家族ごっこをしているわけにもいかない。
「ん? でもよく考えたらカロンは仕事しなくてもいいのか」
「え、どういうことですか?」
カロンはわかっていないようだが、エレナはすぐに理解したようだ。
「そりゃあ、夫婦ってなってるなら、妻は夫の帰りを待つのが仕事でしょ。よかったわね、お嫁さんになれて」
「――っ!」
一瞬でカロンが使い物にならなくなった。
でも待てよ。
それなら俺が今まで以上に稼がないといけないってことか?
「がんばってね旦那さん。私もある程度はサポートするから」
「おいエレナ。お前は自分の身体がそんなことになっていいのか?」
俺の質問にきょとんとすると、エレナはカロンが絶対にしないような笑みでニヤァ……と笑った。
間違いない、これは俺をからかうときの表情だ。
「うふふ。私はロイドくんとならイ・イ・ヨ?」
「やめろカロンの身体でせまってくるな。俺のカロンを汚すんじゃない」
今のカロンも可愛いが、元のカロンもどこか中性的なこともあって可愛らしかった。
それに加え、男女両方を魅了させるチャーム持ち。
制御ができなかった頃は相当苦労したとか言っていたな。
俺と会ったのもその頃だったか。
「ちぇー、まあカロンちゃんは妻として頑張ってもらうと同時に、私と魔法の特訓ね。身体はできているから、あとは想像なんだけど」
「カロンは天才タイプだからな。気づいたらできてる奴だ」
「それなら時間かかりそうね……私の身体と稼ぎは任せたわよ、旦那様」
そのままエレナは去っていく。
あいつはちょこちょこ稼いで金を持ってくるんだよな。
方法はちょっと怖くて聞けない。朝帰りも多いから。
残ったのは俺とカロンだけ。
リーファはタケルと庭で何かをやっているし、ライナーは公園で遊んでくると言って出て行った。
ライナー……。
いや、いまはカロンだ。
「なあ、この生活はどうだ?」
「ボ、ボクだけ役に立てないので申し訳ないです……」
どんより落ち込んだカロンだったが、最初は料理のできなかったリーファに教えてくれたり、買い物ではほぼ最安値で仕入れてくれるので、俺たちに必要な存在だ。
だが、どうしたらそれが伝わるのだろうか。
「そんなことないぞ。カロンがいなかったら食事もできない。周りからは不審がられる。それに周囲の住民と交流しているのはカロンじゃないか」
「でも最近はリーファちゃんも可愛がられていますし、ボクなんか適当に愛想を振りまいてニコニコしているくらいで……」
「それでどれだけ告白された?」
「え? たしかさんじゅう――って、何言わせるんですかっ!」
よかった、ようやくいつものカロンが帰ってきた。
しかしそうか。
仮にも俺の妻となっているのにそんな告白されるなんてな。
よし。
「カロン、ふたりでちょっと出かけるか」
「え、先輩とふたりっきりで、ですか?」
有無を言わせず、カロンの腕をとって外にでる。
こいつが誰に必要とされ誰のものなのか。
ちょうどいい機会だから見せつけてやらないとな。