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13:霊の名は。

 


 正式契約となったのでこの宿ともオサラバだ。

 思えば料理も美味で代金もそれなり。人数さえいなければずっとここで暮らしても良いくらいにアタリの宿だった。


 宿を引き払えば、当然バリッシュの肉体も移動させる。

 男手は俺しかないので、俺が背負って運ぶしかない。

 そんな光景をリーファが耳と尻尾を垂れ下げながら見ていた。


「その、ロイド。すまないな」

「バリッシュか? 俺としては皆の役に立てて光栄だよ」

「……そうか。頼りにしてるぞ、ご主人様」

「それはやめて」


 街を歩くと、男性を背負った俺よりもリーファに視線が集まっているのを感じる。

 獣人というだけでも珍しいのに、いつもメイド服ばかり着用してるリーファは目立つ。

 バリッシュはそんな視線をものともせず、むしろ堂々と振舞っているようだが……このリーダー、実はノリノリなのでは?


「バリッシュ、今のうちに確認するが、あの幽霊にこの肉体を使わせてやってもいいか?」

「できれば拒否したいが、たまにならこちらから頼みたいくらいだな。寝たきりだとどうも身体がなまりそうだ」


 そういって腕をブンブンまわすバリッシュだが、獣人メイドがすると『仕事で肩が凝っちゃいましたー』と言っているようだ。

 ぴょこぴょこと動く耳といい、小刻みに揺れる尻尾といい、こいつ本当に無意識でやっているのか?


「なんにせよアイツと相談してからだな。あとバリッシュのときはリーファの仕事をしなくてもいいぞ?」

「いや、普段通りにしないと怪しまれるからな。オレもリーファと同じように動く。そのほうがお前たちも混乱しないだろ?」


 可愛く首を傾げられるも、俺たちは既にリーダーとリーファの違いが分からなくなりつつある。

 行動をわけてくれたほうが判断しやすいのだが、バリッシュはどこまで一体化するつもりなのだろう。


 いつの間にか半歩下がっているバリッシュになんともいえず、そのまま俺たちへの拠点へと戻る。




「この身体は空き部屋でいいか?」

「ああ。保管するならそっちでいいだろ。大丈夫だ、オレの掃除に間違いはない」

「……………………」


 屋敷の掃除は『やらせてください!』というリーファに任せてあったが、そういや何度かバリッシュも交代しているんだよな。

 ということは、リーファに頼んだあれこれも実はバリッシュが……いや、考えるのはよそう。


(おうお帰りブラザー! その男性が例のリーダーってところかい? こりゃあ魂がないじゃねぇか!)


「そこまでわかるのか。なあ、憑依したら話せるんだろ? 俺たちの仲間でもバリッシュなら憑依していいから、一回入ってみてくれるか?」


 この幽霊には仲間に憑依するなと言ってあったが、やはり俺しか話せないというのは不便だ。

 バリッシュの身体が抜け殻なら、もしやという期待があったのも事実。

 俺と身体の持ち主が見守る中、ゆっくりとバリッシュの身体が起き上がった。


「なんだこの身体。くそ重てぇな……しかもあちこち痛むじゃねぇか」

「おい」

「すまない。実はダンジョンから運ぶときに色々ぶつけてしまった」


 意識のない人間を運ぶのは重労働だ。

 ましてやそれが三人を守り、前衛を兼任しながらだと尚更。

 カロンがヒールできないことで後回しにしていたのを、すっかり忘れていた。


「ようブラザー、とメイドの嬢ちゃん。俺の声が聞こえるか?」

「はい。初めまして、幽霊さん?」

「ちょうどいい。みんなでコイツの名前を決めるか」


 いつまでも幽霊と呼ぶのは不便だ。

 今の俺たちに予定はない。

 仕事もないので、多分招集をかけたらすぐに集まるだろう。






 集まったのはライナー以外。

 既にバリッシュもいなくなっており、集まったのはリーファとカロンとエレナの三人だ。


「へー、本当にバリッシュの身体が動いているのね」

「リーダーでも、中身は幽霊さんなんですよね?」

「おうそうだぜ! だからそこの神官姉ちゃんはあまり近づかないでくれよな!」

「うわバリッシュのイメージが崩壊するわー」


 リーファはきょとんとするだけだが、中にいるバリッシュは悶え苦しんでいるだろうな。


「にしても、ライナーがいないとは珍しいな」

「先輩が出かけた少し後に、近所の子供が呼びに来たようで遊びにいきましたよ?」

「お、おう? そうか、じゃあいいだろう」


 近所の子供? 呼びに来る?

 本当は理解が追いつかないが、ライナーがエンジョイしているならいいだろう。

 今はこいつの名前だ。


「姿はみんな知ってるだろうが、この幽霊は誰かに憑依しないと話すこともできないらしい。だからこの機会に名前だけ決めたいと思う」

「俺には名前がないからヨロシクな!」

「うわこんな鬱陶しい性格だったの? ロイドくんに同情するわー」


 俺はわかってくれて嬉しいぞエレナ。

 四六時中憑きまとわれては、マシンガントークのような会話をずっとされる。

 一時期は頭がおかしくなるかと思ったくらいだ。


「もちろんリーファも意見を言ってくれ。というか一番期待しているぞ」

「ふぇ? どうしてですか?」

「そりゃあもちろん、一番おもしろ……いや、センスがありそうだからな」

「――っ! が、がんばりますっ!」


 小さく握りこぶしを見せるリーファは大変可愛らしい。

 もしバリッシュの身体で変な名前をつけられた幽霊が行動したら……名づけはお前だと言ってやれるしな。




「うーん、パッとくるやつはないな。もっと俺の生前に近いような名前なら即決するんだけど」

「生前の情報は何かないのか?」

「ないんだなそれが!」


 あれから4人、幽霊も参戦して5人で出し合ったが、これといった名前が出てこない。

 もう幽霊でいいんじゃない? と、まとまりかけたとき、その声は響いた。


「あっ、じゃあタケルさんとかどうでしょう?」

「タケル? 変な名前だな」


 ここら辺にはない響きだが、リーファの故郷に多い名前だろうか。

 しかし、幽霊のほうは目を見開いて固まるほど衝撃的だったらしい。


「――タケル。そうだな、俺の名前はタケルだ! よろしくな皆!」


 その日から、幽霊あたらめタケルは正式に俺たちの仲間となった。



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