12:幽霊が仲間になりたそうにこちらを見ている
あれがこの屋敷に取りついている幽霊? で間違いないだろう。
しかも何故か俺たちを怖がっているようだ。
「でたな幽霊。神官以外は何もできないから、あとカロン頼む」
「えぇ! 無理ですよ! 神官と言っても名前だけですし!」
「カロンちゃんならできますよ。だって私が余裕だったんです。三日三晩滝に打たれたらすぐですよ!」
(そんなことしたのかこの嬢ちゃんは……嬢ちゃん? いや、憑りついたときは少年だったから男か)
何やら気になる単語が聞こえたが、幽霊はカロンとエレナのやり取りを傍観したまま動こうとしない。
(だいだい、こっちの神官みたいな姉ちゃんはナニモンだ? 神官だから俺を追い払うと思えば、すんなりと受け入れてやがる。かといって乗っ取ろうとすると追い出されるし、一番意味不明だろ)
「いや、意味不明はお前だろ」
「ん? 何かいったか」
「あ、いや。向こうの幽霊に対してな」
その発言に、なぜか俺以外の全員がきょとんとする。
おい幽霊、お前まで呆けるなよ。
「おいロイドさんよ。おまえはまさか、あいつの声がきこえるのか?」
「ん? 普通に喋ってるだろアイツ」
(いやいやいや! おかしいって。いままで会話できる奴なんていなかったっての! え、マジ? これも聞こえているの? 聞こえてたらウェーイって言って、ウェーイって!)
「う、ウェーイ?」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
(うっはぁあああ!! マジか、マジかよ。ようブラザー、俺名前は忘れちまったけどここに長くいる幽霊! これからよろしくな!)
無言の中、一人だけテンション高い幽霊がグルグルと俺の周りを浮遊している。
何だこれ。何で俺がそんな痛い子みたいに見られているんだ。
「お、おう。よろしくな。とりあえずここにいるのは仲間なんだ。俺らここで暮らす予定だからさ、解放してくれないか?」
(え、ブラザーここに住んでくれるの? よっしゃあ! 話し相手がいなくて退屈だったんだよ! もうやっちゃう。なんでもお願い聞いちゃう!)
カチカチカチ、と全員の牢が解錠される。
しかし、誰も喋る人間はいない。
できることなら、このハイテンション幽霊の相手を代わってほしい。
(ちなみに俺、屋敷の敷地内なら移動できるからヨロシク! お仲間の閉じ込めちゃったのはゴメン! 謝るから出て行かないでくれよぅ)
「ところで先輩、この地下牢はどこに――」
「大丈夫だ、ここで暮らすからな」
「え?」
「うわっ、ロイドくんこんな場所が好きだったの? もしかしていじめられたい人?」
なんか思わぬ勘違いをされたみたいだが、この幽霊の質問攻めは続く。
(うっひょおおお! じゃあさじゃあさ、仲間ってここにいる全員? ブラザーのハーレムじゃん! )
「ロイド。冗談だよな? 次期リーダーとしてそれはちょっと――」
「違う。複雑な事情があるんだよ」
「うわマジなのこのひと」
「ロイド、おまえってやつは……」
「先輩、ボクはお供しませんからね」
その後、誤解を解くのに数分を要した。
「で、幽霊さんはどうしてここにいるのかな?」
(それはやんごとなきふかぁい事情がありましてね。俺は肉体を探しているんですわ。ここに誰か定住すると、いろんな人間が来なくなるっしょ? だからすぐに追い払っては、様々な人にですね)
「いろんな肉体を調べたいから追い払ったらしい」
「えっと、じゃあボクたちの身体も調べたんですか?」
(ああ。調べたと言ってもいつも通りだけどな。その姉ちゃんは魅力的だったけど何故か追い払われたし、嬢ちゃん? みたいな男は魔力が多すぎて怖い。そこの幼女はなにかと不便そうだし)
「調べたが、皆いらないと」
「先輩……なんてことを」
「クズですね」
「ロイド、お前さいていだな」
皆が批判してくるが、俺はあくまで通訳しただけだ。
いつものノリだが、バリッシュだけはわかってくれるはず。
だよな?
「ご、ご主人様に捨てられますぅ……」
リーファだからダメだった。
まあいい。気になるのはどうしてリーファが無事だったのかだ。
「この子は調べなかったのか?」
(ああ。ケモ耳の嬢ちゃんも調べようとしたが、なぜか弾かれてしまってな。ブラザーみたいに近づけないわけじゃなくて、バチーンってきた)
思い当たる原因はバリッシュしかない。
リーファの身体にはバリッシュが同居している状態だ。
おそらくは幽霊の入り込むスペースがなくて弾かれたのだろう。
(しっかし、ブラザーはすげぇな。俺が近づけないだけじゃなく、こうして話せるなんて! もしかしたらお仲間の幽霊さんか? 一緒に世界を目指そうぜ!)
「いや無理だろ。俺が神に嫌われた人間だから、つまはじき者同士で波長が合うのかもな」
(だとしてもだ。せっかく会話ができるんだから、俺の肉体探しに協力してくれよ! もちろん、俺は何でもするからさ!)
「ん? 今何でもするっていったか?」
屋敷から出られないらしいが、リーファがつくる畑の管理とかも任せられるなら随分と助かる。
それに生活費もかからない人材など、今の俺たちには必要な存在だ。
「よし、話せるのは俺だけだが協力しよう。さしあたっては、ここの正式住人になってもいいか?」
(おう、ブラザーなら大歓迎だぜ! 俺ん家へようこそだ!)
「なあ、ロイドがひとりのせかいへトリップしちまっているんだが」
「シーッ! 見ちゃいけません!」
「カロンさん。ご主人様はおかしくなっちゃったのですか?」
「あ、うーんと。先輩は最初からおかしいから大丈夫だよー?」
俺は知らない。
このとき仲間になんて噂されていたか。
その後。
一週間は何事もなく経過し、無事この屋敷が俺たちの拠点となった。
ん?(幻聴)