冬から春へ弓道場から花畑
作者は本作が処女作です。
更新も遅く、誤字脱字も多いと思いますが宜しくお願い致します。
世界は残酷で理不尽だなんて陳腐な言葉をいまさら吐くつもりはないが、この現状はあまりにもひどすぎると思う。
俺の名前は、結川智矢。ごく普通の家庭に生まれた普通の高校生だ。特技は幼いころから習っていた弓道で、全国大会に何度か出ている程度の実力は持っている。今通っている高校にはスポーツ推薦での入学であり、日々部活に明け暮れていた。そう、明け暮れていたのである。ほんの数分前までは心の安念の場所である弓道場にて一人で朝練していた。だが、気づけば弓道場ではなく、あたり一面に花が咲いたお花畑にいたのである。恰好はもちろん弓道着で、片手には中学のころから愛用しているカーボン弓の凛が握られていた。将来的には竹弓を使えるようになりたいが、師匠からは学生のうちはやめておけと言われていた。この弓は俺が一目ぼれして、父にねだり買ってもらったもので、軽く、矢がよく飛ぶ。弓道店の店主には故障しやすいといわれたが、今まで一度も故障したことはなかった。反対の手には弓掛が付いたままになっており、足元にはなぜか部活用のカバンが転がっている。弓道場から部室へは外廊下を通らないといけなくなっており、かばんは部室のロッカーにしまっていた。そもそも、ここはどこなのだろうかあたり一面の花畑なんてものは生まれてから一度も見たことはなく、周囲に咲いている花の名称もいまいちわからなかった。
「花の名前なんてほとんど知らないけど」
ほかにも不思議なことはあり、足袋のままであるはずの足には弓取りのための草履をはいており、なにより、この状況にあるのにもかかわらず、焦りを感じず、心は凪いでいた。
「誘拐されたってことはないだろうし、そもそも季節は春ではなく冬だったはず」
朝のニュースでは関東で初雪が観測されたことや、北のほうでの積雪があったなどの報道があった。今朝登校してくるときも地面には霜柱ができ、吐く息は白かった。こんなにもぽかぽかした陽気ではなく、マフラーと手袋が手放せない季節であったはずである。
「ほんと何なんだここは。そもそも誰もいないんだが」
誘拐されたはないにしても、誰もいない場所に放置となると、落ち着いていた心に焦りが生まれ始めた。
「とりあえず、ここから移動するか」
足元の荷物を拾い、弓から弦を外し袋に入れ、矢筒とカバンを背負い、花畑から少し先に見える森へと歩き始めた。花畑を改めてみると森がない反対側は崖になっており、その下にはさらに森が広がっていた。森もまだ明るいというのに先が見えないほど薄暗く、出口があるのかさえよくわからなかった。とはいえ、いつまでもここにいてはいずれ餓死してしまう。
「とりあえず、のども乾いたし川でも探すか」
智矢は川や湖を探すことを目標に、歩き始めた。